133話 サプライズ〔6〕
私は卒業式が終わった後、柊くんと2人で会うためことになっていた。
なにか話があるらしいけど一体なにかしら。
話の内容について考えながら待ち合わせ場所に向かう。
校舎裏の桜の木の下、そこに柊くんはいた。
「待たせたわね」
「ううん、大丈夫。俺もさっき来たところだから」
「それで、話ってなに? 」
私は単刀直入に聞く。変な前置きも不要だろうとの判断だ。
「ごめん、その話をする前にもう少し待ってくれないか? 」
「理由を聞いてもいいかしら? 」
「実はさ、蒼に会わせたい人がいるんだけど、まだ来てなくてさ」
会わせたい人……その言葉を聞いた時、一瞬姉の顔が浮かぶ。いえ、そんなわけないわね。
「多分蒼が会いたい人だと思う。会って話したい……そんな人って言えばわかるよね? 」
「まさか……」
私が次の言葉を紡ごうとした時、聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「ごめん、ちょっと遅れた。あっ蒼、ちゃんと来てくれたんだ……よかった……」
三つ編みにした黒髪に、眼鏡をかけた優しそうな風貌の女性、私の姉だ。
どうして柊くんはこんなことを……生徒会で私が少し話したのが原因かしら。
「いらない親切かもしれないけどさ、手助けをしたくなったんだ。蒼の頑張りは知ってるから」
彼の顔を直視できない。こそばゆさからだろうか……?
「蒼、見てたよ。凄く生徒会長っぽくてかっこよかった」
「見て……たのね……」
私は姉から目線を逸らしながらなんとか声を絞り出す。
今まで避けていた姉とこんな時どうやって話せばいいのかがわからない。
「素直に喜んでいいと思うよ。まずはそこから始めよう」
彼に背中を押される。手が触れているわけじゃないのに温かさを感じる。不思議な感じね……
「……ありがとう……その、少しでもあなたに近づけたかしら」
「それはわからない……けど、私になる必要はないよ。だって蒼は蒼だもん、なりたい自分になればいいんだよ。
まぁでも……あえて言うなら、ちゃんと私に近づいてるよ」
「そう……なのね……」
姉の優しい音を聞く。私は最後の言葉を聞いた時、姉から認められた様な気がして胸がいっぱいになった。
いや、恐らく違うのだろう。姉は前から私のことをちゃんと認めてくれていた。だからこそ、あっちは歩み寄りを止めなかったし、今日来てくれた。
私は意地を張って進み続けた自身の行為に対して、馬鹿だなと思ってしまった。
だって昔から私のことを蒼音として見てくれていた人はいたのだから……
「よかったな、蒼」
柊くんは自分のことのように喜んでいる。
「あなたには変な心配をかけたわね。もう大丈夫……ありがとう」
「俺一人じゃできなかったよ。葉月たちの協力があってこそだ」
「そうかもしれないけど……私は一番あなたに感謝したいの。だって、」
そこまで来たのだが、慌てて次の言葉を飲み込む。
心臓がドクンと跳ねた。伝えたらなにかが終わってしまうような気がしてしまった。
この感情の正体って……
「蒼大丈夫か? 」
柊くんは心配そうに私の顔を覗き込む。そのせいで私の体はびくっと跳ね上がる。
「なんでもないわ……」
そういう……ことか。でもまぁ、なんとなくは納得してしまう。
「そっか……蒼もそういう歳なんだね……」
なぜか姉が温かい視線を送ってくる。なんであの人泣きそうなの。
「あっそうだ、耀音さんにはもう一人会ってほしい人がいるんです。湊さんなんですけど」
「湊くんが? なにか用なの? 」
「まぁ一応、世間話で終わるかもしれないんですけど会ってあげてください」
柊くんは姉に頭を下げる。一体なにをしようとしてるのかしら?
「うん、いいよ。私も会いたいし」
姉は快く了承し、私たちは近くの茂みに身を隠す。
「蒼音お疲れ〜」
するとそこには緋色さんとティタニアさんがいた。
「あなたたちいつからそこにいたの? 」
「最初から。サプライズ大成こう……!!? 」
私は緋色さんの頬っぺを容赦なくつねる。
「痛い痛い! なんでつねるのさ〜! 」
「サプライズは百歩譲って許すけど、覗き見は許さないわ。ほんとに不愉快」
私は手に力を入れる。緋色さんが手をバタバタさせてギブアップを示す。
「いっ痛かった……」
「この後湊さんもあるけど、また怒られそうだなお前」
「確かに、こういうのを覗いてたら怒られちゃいますよね」
「でも、ここから私たちも同罪になってしまうのね……」
私はため息をつく。これは帰ってもいいのではないだろうか。
「それでも耀音さんのことが気になるなら見ていきなよ」
緋色さんはそれだけ言うと、姉の方をじっと見つめる。なんだか彼女は楽しそうね。
まぁでも、姉のことなんて知る機会あまりなかったし、ちょうどいいかもね。
私はひとまずここに残り、姉の様子を見守ることにした。




