125話 葉月
俺と葉月の出会いは早かった。3歳の時、母さんが連れて行ってくれた博物館で出会った。
彼女と目が合う度なにかに惹かれた。この人は自分と同じだと、なぜかわからないが考えるよりも先に答えは出ていた。
彼女も同じことを思ったのだろう、俺を見るなり近づいて笑顔で話しかけてきた。
そこから仲良くなるまで時間はかからなかった。
家が近いこともわかったのでよくうちに遊びに来ていた。母さんは感激のあまり倒れてたっけ。
俺は葉月と一緒に色んなことをした。トランプやオセロ、ボール遊びをしていた頃はとても楽しかった。
でも、その数年後、歯車はおかしな方向に回り始めた。
葉月の能力が暴発してしまって彼女の母親が死んでしまったのだ。そのことを聞き、彼女の様子を見た時、背筋が凍る思いをした。
葉月の絶望した表情と妖しく光る瞳は、この世のものとは思えないようなほどだった。
あの頃の葉月は人と喋らず、ただポツンと1人で黙って過ごしていた。今までがとても明るかったので、俺はもちろんその周りにも違和感をあたえた。
俺はそんな彼女が見てられなくて、「自分は葉月の味方だ」みたいなことを言った覚えがある。その過程でまた能力が暴発したこともあった。
でも、俺の言葉はどうにか届いて、少しずつ前の明るさを取り戻していった。
そして、そこから数年後、俺たちは晴哉さんたちに会い、葉月は完全に復活した。
……そう、思っていたんだ……
俺は退かない、葉月を助けるために。葉月も退かない、母親に顔向けできないという理由があるから。
この場合はどちらかが折れないと決着がつかない。
そのためにもきちんと言葉で伝えていかないと……
「葉月、何度も言うけど考えすぎだ。あれは事故で、葉月にはそこまで重い贖罪は必要ない。重い荷物を捨ててくれ」
「嫌だ……捨てない」
葉月の目からそういうことを固く誓ったことがわかる。
「捨てて私になにが残るの? 重くて痛くて辛いのしか残らないじゃん! 」
「少なくとも俺は傍に居るよ! それに、あいつらだって居てくれる」
「それは、わかんないじゃん……」
葉月はこちらに不安そうな顔を向ける。一歩踏み出したいけど、怖くて踏み出せない……そんな表情をしていた。
恐らく彼女自身も薄々わかっているのだろう。自分のやっていることのおかしさに。おかしいと思いながらも怖さが勝ってしまっている。
「お前の知ってるティタニアたちは、少し変わったぐらいですぐに関係切るような奴らか? 秋穂たちも同じように思うか? 」
「それは……」
葉月は数秒の間、胸に手を当てて考える。
「……思わないよ」
「だったら迷うことないだろ、重すぎる贖罪は捨てろ。捨てられなかったら……少し俺に預けろ。お墓参りぐらいは一緒にできる」
「……」
「だから、これ以上苦しまなくていい。今お前が考えるべきは残ってる大事なものを手放さないようにすることだろ」
葉月は無言……なにも言わずに下を向く。少し震えているのだが大丈夫だろうか。
「うん……私は今まで重く考えすぎてたんだね」
声が少し震えている。泣いてたりするのかな……
「じゃあ和人に少し預けるね! 残ったところでまだ重いところはちゃんと捨てる。これでいいでしょ? 」
葉月は一旦袖で目元をごしごしと拭いて、そこからいつものような明るさで話す。
「それでいいんだよ。ようやく戻ったか」
「うん、元気でたよありがとう」
葉月は静かに笑う。その表情はとても大人っぽく、ギャップを感じてしまう。
「て言っても完全に乗り越えたわけじゃないんだけどね」
「それはまだ心の準備とかが必要ってこと? 」
「そうだね。和人と同じでまだ正面から向き合うには心の準備が必要なんだ。でもいつかはちゃんと……」
お互い同じスタートラインに立ったわけか。俺はそろそろ父さんのこと知っていかないと先越されるな。
「じゃっ、帰ろう! 今日どうせ色々やるんでしょ? 」
葉月は元気よく前を歩く。
「まぁ張り込みをやるけどさ。連れてかないぞ」
「私も! 」と言い切る前に拒否しておく。
「えぇ、なんでよ!? 」
「危ないからだよ! また再発でもしたら嫌だからな! 」
葉月は納得いかないといった様子で頬を膨らませる。アホ毛はピコピコ動いている。
「まぁしょうがないから諦めるけどさ、ちゃんと犯人捕まえてよね」
「わかってるよ」
「あとさ……」
葉月は不意に立ち止まる。
「どうしたんだよ? 」
「あー、やっ、また助けてくれてありがとね。実際和人いなかったら立ち直ってたかわからんし」
「助けるのなんて当然だろ、家族なんだし」
俺の言葉に驚いたのか葉月は一瞬びっくりしたような顔になる。
「なんだよ? 」
「いや、そういうこと言われると結構嬉しいもんだなって思っただけ」
なぜか上機嫌になった葉月のことがわからず首を傾げる。
「じゃっ、帰るぞー!! 」
葉月は元気よく駆け出していった。俺はしょうがないなと思いながらその後を追う。
赤い髪を追いながら、戻ってきてくれたことへの安堵感を噛み締めるのであった。




