124話 緋色
あの光景は今でも鮮明に目に焼き付いている。
きっかけなんて些細なことで、私が嫌いなトマトを食べたくないと駄々をこねたから、だからお母さんは死んでしまった。
原因がとても可笑しいぐらいに身近だった。たかが好き嫌いで人が死ぬなんて思わなかった。
私は、そんな危険な能力を持ってしまったのだ。
ぐちゃぐちゃになったお母さんを見て、私は自分を心底呪った。お父さんの恐怖の目を見た時、私は自分を人間ではないと理解した。
なんで、なんでなんでなんでなんで……なんで、私は歪曲を持って生まれてきてしまったのだろう。これさえなければ私は……罪もキズも背負わなくてすんだというのに。
だからこそ私は自分の能力が嫌いだ。それに自分の容姿が嫌いだ。赤い髪に緑色の目、まるで今でも嫌いなトマトのようで嫌だ。
自分の能力も容姿も嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
いつかまた誰かを傷つけてしまうかもしれない……私の罪が白日のもとに晒されるのが怖い……
だからこそ、自殺を考えたこともある。
でも、彼のあの言葉が、差し伸べてくれた手の温かさが、その後に会った恩人たちが私を延命させる。
ねぇ、お母さん……私は……こんな私でも生きてる価値はありますか?
飛ばされた先はお墓だった。葉月のことだから今はここにいるだろうということで飛ばしてもらったのだ。
あの元気のなさだったら確実にここだろうことはなんとなくわかった。
「さて花でも持ってくればよかったかな? 」
俺は歩きながらお供え物ぐらい持ってくればよかったと思い始めた。
今度来たときにはいつもより多く持ってこよう。お墓前で少し重い話するし。
行く場所は決まっているのでスイスイ進む。少しすると目的の場所にたどり着く。
そこには赤毛が特徴的な少女がいた。少女はただ静かにお墓に手を合わせている。
「やっぱりここか」
俺はアホ毛の垂れている葉月に話しかける。葉月は対して驚きもせずにこちらを見る。
「今の状態で家にいても泣きたくなるだけだから、こうしてお母さんに祈ってたんだ。って、そんなことはお見通しか」
「まぁ付き合い長いからな。どこいるかとか大体わかるよ」
俺は葉月のお母さんのお墓の前で手を合わせる。話をする前にちゃんと挨拶しておかないと。
「励ましに来たんでしょ? なんかごめん」
「そうだよ、そろそろ元気になってもらわないと困るからな」
「元気出せって言われて元気になれるほど軽くないよ」
「だろうな……」
じゃなかったらあんな顔しないよな。
「私はさ、あの光景がずっと目に焼き付いてるんだ。ぐちゃぐちゃになった肉も飛び散った赤い血も、お父さんの恐怖の表情も全部。そして、思い出す度に自分が嫌になる」
「それは自分のせいって思ってるからだろ? あれは事故だろ、誰が悪いとかないよ」
「でもさ、能力のせいであんなことが起こって私のせいじゃないってするならさ……私はどんな顔してここに立ってればいいの!? お母さんに対しての贖罪は誰が背負えばいいの……」
葉月はとても辛そうな表情で、消え入りそうな声で言葉を絞り出す。
「そんなもの背負わなくていいよ。罪の意識のせいで辛いんだから、考えなくていいそんなこと。その方が葉月のお母さんだって安心して見ていられるんじゃないのか? 」
「そんなのただの想像の話じゃん。私はお母さんにどう思われていようと償わなきゃいけない。じゃないと……今にも押しつぶされそうになる」
「そっちだって想像の話だろ。潰されそうになってるってことはそれだけ背負ってるってことだろ……その重い荷物、少しは捨てろよ」
葉月に対して真剣に、それでいて少し強めに語りかける。彼女はとても重いものを背負ってしまっている。
自分のせいだと思いながら償って、辛いのを隠して脆い笑顔を貼り付ける。
そんなのなにかの拍子で壊れるのに決まってるのに……
だからこそ、捨てさせなきゃいけない。それが彼女にとってどれだけ捨てたくないものであっても、それで苦しんでしまうというのなら俺にとっては捨てさせなければいけないものである。
「嫌に決まってるじゃん! それをしたら私はお母さんに顔向けできなくなる!! 」
呪いのように染み付いた強迫観念に対して怖いと思ってしまう。
葉月にとって母親が大事なのはわかる、だが、その人に対しての償いがつり合ってない。
償いが重すぎるのだ。怖くて震えてしまうほどのトラウマを心に一生縛り付けて、一生償いの言葉を述べ、それでも表面上は笑顔を取り繕う……自分を犠牲にしすぎてこちらの心が痛くなってくる。
自分のことばっかり考えていたのが悔やまれる。
もっと他に考えることがあっただろうに……
「1回その考えから離れろよ! 自分のこと殺してるってまだ気づかないのかよ! たとえそれで償えたとしても自分が死んだら意味ないんだぞ!! 」
これは俺のせいでもある。もっと早くにこのことについて深く話せていたら……こうはならなかったのかもしれない。
葉月なら自然と乗り越えていけるだろうとどこかで考えてしまったのかもしれない。
だから、ここは退けない。退いたらいつまで経っても変わらないままだ。
たとえこれで死んだとしても俺は……




