120話 不穏
オープンキャンパスが終わり、その次の日は家庭教師のバイトの日だった。
なので、友恵ちゃんの家にお邪魔している。
「えっと、先生の教え方はどう……ですか? 」
せっかくの機会なので、自分が相手にわかりやすく教えているのかを聞いてみることにした。行きたい大学の大元は決まったのだが、行きたい学部は決まっていない。
だからこそ、生徒である友恵ちゃんに意見を貰って少しでも学部選びの参考になればと思っている。
「えっと、先生はわかりやすく教えてくれてると思います。噛み砕いた表現で教えてくれますし、私がわからない所も粘り強く教えてくれますから」
「そっか、ありがとう」
「ええと、それで急にどうしたんですか? 」
友恵ちゃんが心配そうな眼差しを向けてくる。
「ちょっと学部選びの参考にしたくてさ」
俺がそう言うと、友恵ちゃんは途端に慌て始める。
「あ、あのっ、私なんかの意見でいいんですか……? 参考にするほどでもないような気がするのですが」
「そんなことないよ。俺は友恵ちゃんの言葉なら信用できるから聞いてるんだ。そんな意見はとっても貴重だよ」
「……ありがとう……ございます……」
友恵ちゃんは顔を真っ赤にして俯く。
「さぁ続きをやろうか。この問題なら5分でできそうだね」
「はっはい、頑張ります」
友恵ちゃんから貴重な意見を貰い、選択肢を考えやすくなった。
学部のことは3年生に上がる前に決めておきたいな……
俺はそう考えながら友恵ちゃんの勉強を見ていた。
「お疲れ様、今日はこれで終わりだよ」
「はい、ありがとうございました先生。また次もよろしくお願いします」
友恵ちゃんは礼儀正しく返事をして、ぺこりとお辞儀をする。
「あっ、ちょうど終わったんですか先輩」
終わったタイミングで秋穂が入ってくる。
「あぁ終わったよ、どうした? 」
「いえ、先輩に用はないです。友恵と今日の晩ごはんの相談に来ただけです」
秋穂は友恵ちゃんと晩ごはんの相談をし始めた。さて、俺はそろそろ帰ろう。
「んっ? 」
そう思っていた時、スマホが鳴る。見ると、知らないアドレスからメールが一通来ていた。
『明日、覚悟していろ。お前の仲間の醜い正体を晒してやる』
短く綴られた文章には、並々ならぬ恨みが込められていた。
イタズラ……にしては少し違う気がする。この胸騒ぎはなんだ……?
「どうかしましたか先生? 」
俺の表情が険しくなったのを感じたのか、友恵ちゃんが心配そうな顔で覗き込んでくる。
「いや、なんでもないよ。そろそろ俺は帰るね。今日もお疲れ様」
「あっ、はい……お疲れ様です」
「先輩気をつけて帰ってください」
秋穂と友恵ちゃんに挨拶をしてから帰る。駅までの道のりでさっきのメールのことを考える。
一体誰がこんなことを……それに文面からかなりの恨みを持っているようだけど、そんな恨みを買うことなんて俺も周りもしていないはず。
……少し警戒しておいた方がいいか。葉月たちにも伝えておこう。
後輩たちにも伝えておいた方がいいか……? 誰のことを言っているかわからない以上、多くに伝えておくか。
俺は、不審なメールが来たことを部活のグループlineで伝える。
それと同時に気をつけておくように伝えると、全員了承してくれた。睦月は送られてくるスタンプからして楽しんでそうだけど。
やることはやったし、ひとまず帰ってゆっくりしよう。
俺は、明日のことを考えながら帰路へとついた。
次の日、いつものように登校すると、下駄箱の辺りが騒がしかった。
なんだ……そう思って人だかりに近づく。人の波をかき分けて見えたものは、
『緋色葉月は人殺しである』
この見出しの新聞だった。内容はまとまっているが憶測の記事が多く、決定的な確証はなさそうだった。だが、触れられたくないキズ、知られたくないことは確かに書いてあった。
おそらく犯人の自作だろう。あのメールの意味はこれか。
「うわぁ、変なの書いてありますね。まぁでもこんなの嘘ですよね葉月ちゃん」
ティタニアはいつも通りに明るく話しかける。
が、当の本人の様子はいつもと違かった。
「……」
顔を青くして壁に貼られた新聞を凝視している。そして無言をつらぬく。
「葉月ちゃん……? 」
ティタニアは葉月の異変に気づいて笑顔が消える。
「イタズラに決まってるだろ。これやったってことはこの学校の人間だな。メールと関係ありそうだし、探すぞ」
俺はそう言って葉月の手をひく。そして教室……ではなく、人気のない廊下まで連れていく。
「いくらなんでも顔に出しすぎだ。あんなんじゃ犯人の思うつぼだろ」
無言の葉月にそう言ったのはいいのだが、事情を知っている身としては彼女がそうなってしまうのも仕方ないと思えた。
「……ごめん、頭真っ白になっちゃって」
「深刻に考えすぎるな。あれは……葉月のせいじゃないだろ」
この学校では葉月と俺しか知らないこと。知られたくないのに、それがいつの間にか誰かに知られている。
「……」
葉月はまた口を閉ざしてしまった。このままじゃまずいな。本人がこんな状態じゃ単なるイタズラで終わらすことができない。
「とりあえず教室行くか……これが収束するまでは一緒にいるから安心しろ」
「……うん、ありがと」
俺は葉月の手をひいて廊下を歩く。
教室に着いた後も葉月は元気がなく、その日は別人のように静かだった。




