113話 日常片
最近彼がモテている。いやモテること自体はいいと思う、彼の魅力が認知されてきたってことだから。
でも……
「先輩、おはようございます♪」
「アンヘル、ちょっと近すぎるから離れような? 」
「いえ、離れません」
「にゃーん♪」
「どしたのラムレーズン」
ここまでモテてほしいなんて思ってないんだけど。なんでバカ猫まで擦り寄ってんのよ。そしてアンヘルは近すぎよ。
私の彼氏なのに……
これが家の中だけならまだ良かったのだが、
「柊くん、この荷物運ぶの手伝って。会長命令よ」
「いやそれはいいけど……なんか近くない? 危ないぞ」
「問題ないわ。あっ、ちなみに怪我させたらそれ相応のペナルティがあるから」
学校でも蒼音さんがいるためいつもひやひやしている。なんでこの人らこんなにアプローチしてんのよ。和人を渡すわけにはいかない。
私はアプローチしてくる人間に、牽制の意味を込めて行動し始めた。
「和人くん、早くお昼食べに行こ」
お昼休みに和人を見つけると、すぐさま体を寄せて私のものアピールをする。でもこれでもまだ足りない。
「和人くん……手、繋いでもいい? 」
「えっ、あぁ……いいよ」
和人は戸惑いながらもその意図に気づいてくれ、快く応じてくれる。
これでしっかりアピールすれば新規は確実に減る。それに他の牽制にもなるから一石二鳥ね。
(俺のせいで苦労をかけてごめん)
(ほんとよ、あんたモテすぎなのよ。なんでいつの間にか蒼音さんにも好かれてるのよ)
(好かれてたのか……気づかなかった)
(そうなのね)
能力あるんだから使えばいいのに……そしたら好感度の高さに気づくわよ。
(あんまり能力で好感度を見たくないんだよね。人の好感度をいちいち確認しながら生活するのは窮屈だから)
私の顔からなにかを察したのか、補足を付け加えてくる。私の気持ちを察するのだけ上手いわね。やっぱりずっと一緒にいるからかしら。
「柊くん、廊下で風紀を乱すようなまねしないで。あなたは副会長としての自覚を持ちなさい」
目の前に蒼音さんが現れて注意される。ここは強めの牽制を入れなきゃ。
「ごめんなさい蒼音さん。でも私は和人くんと離れたくないから、手を繋ぐことぐらい許してくれないかな? 」
「雪原さん、彼は副会長なの。私の部下だからきっちりしてもらわないと困るのよ」
蒼音さんの目つきがいつもより鋭い気がする。これ効いてるでいいのよね?
「柊くん会長命令よ、今すぐ雪原さんから離れなさい。さもないとあなたを弓道の的にするわよ」
「ちょっ、怖いこと言うなよ! 」
「蒼音さんそんな強引な言い方はやめて! 彼が傷つくのは嫌だからやめる……ほんとにごめんなさい」
私はペコッと頭を下げる。早めに謝った方が和人に被害がいかないし。
「冗談よ、雪原さんの前ではそんなことしないわ」
「千華のいない所ではやる気じゃん! 」
「雪原さんの前でやったら彼女が悲しんでしまうもの。故意的に傷つけるのはあなたと決めているの」
蒼音さんってSっ気あるのかしら。思考を読もうにもいまいち読めない。今なにも考えてないのね。
「じゃあ俺ら行くからな。弁当食べたいし」
「えぇ、もう行っていいわよ。慎み深い行動を心がけてちょうだい」
「わかってるよ」
「じゃあ蒼音さんまた」
私は蒼音さんに軽く挨拶をすると、和人と一緒に部室へと向かった。
「あっ和人に千華、ちょっと遅かったね」
「あぁ、少し蒼音に捕まってた」
部室に着くと、先に着いていた冬と一緒にご飯を食べる。
「あぁ……千華の嫌な予感が当たっちゃったんだっけ」
「えぇ、色々頭を悩ませてるのよね……家にもアンヘルいるし」
和人を好く人間が増えるのは嬉しいのだが、それと同時に不安に駆られる。取られてしまうのではないかと。
考えすぎなのはわかっているのだが、ふとした瞬間に不安が全身を駆け巡る。
今週末仁美さんと会う予定だし、そこで相談して解消しよう。
「悩まなくても大丈夫、俺は千華一筋だから」
「……そういうこと平気で言うとかどうなってんの? 」
恥ずかしいと同時に嬉しい。少し自信を持てる……けどすぐ崩されるのよね。蒼音さんとかアンヘルのアプローチを見るとやっぱり不安だ。
「千華も大変だね……頑張れ、応援してるよ」
「ありがと冬……」
友達の応援がありがたい。そうよね、しっかりしなくっちゃ。
彼女としての力を見せて、和人を私のものだって証明しなきゃ……
放課後、俺は1人で帰っていた。今日は千華は冬と買い物、葉月はティタニアとカラオケに行き、1年組は睦月から順に補習補習補習という並びだった。
理由としては睦月は授業をさぼったから、他の2人は小テストで赤点を取ったからだった。
これでは部活をやる意味ないので1人で帰っているというわけだ。
学生で溢れかえっている駅の構内を歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められる。
「あら、和人さんじゃないですか」
ふと見ると、顔を覆うベールはそのままに、Tシャツを着た凪さんが屋台をやっていた。しかもたこ焼き。
「なにやってるんですか? っていうか占いはどうしたんですか? 」
「今は副業中です。最近手品に凝っているので手品とたこ焼きの屋台を出しているんです」
ニコニコ顔の凪さん。この人ほんとに謎だ。
「よければ1つ買われませんか? 美味しいですよ私のたこ焼き」
「……それじゃあ貰います」
俺はお金を出してたこ焼きを買う。1つ700円という高さに驚いてしまう。なに入ってんのこれ。
「買ってくれたので手品をしますね。はいここにみかんがあります。なんとこの布をかけるとーあら不思議、たこ焼きが出てきました〜」
「いや凄いですけど、なぜたこ焼き屋なんですか!? 」
ホカホカのたこ焼きが目の前に出現する。このレベルなら手品とたこ焼きの屋台の合体をする必要はないと思うんだけど。
「あっちなみにこれが商品です」
「なるほど……手品で出てたんですね……」
少し納得した。そうやって出てたのな。
ひとまずそのたこ焼きをいただく。青のりとソース、かつお節が合わさって美味し、
「ちょっ、なんか変な味するんですけど!? なんでみかんが入ってるんですか!? 」
いと思ったら中にみかんが入っていた。すっごい合わない。
「まさにマジックですね」
「うまくないですよ!? 」
この後、残ったみかん入りのたこ焼きを頑張って食べ、家に帰ったのだが、翌日からは凪さんの屋台は姿を消していた。
ほんとになんだったのあれ……




