112話 選挙終わりに
「えっと、私は泊麻里って言います」
その女子生徒は泊さんと言うみたいだ。少し興奮している様子だった。
丸い目とタレ眉の組み合わせでユルっとした雰囲気を醸し出している。低身長で、それ以外を除けばどこにでも居そうな女子だった。
「私鈴木先輩のファンというかなんというか……とにかく、当選おめでとうございますって言いに来ました! 」
「えぇ、ありがとう」
蒼音はクールな表情を崩さずに対応する。泊さんは凄く嬉しそうにしている。
「私いつも応援してて、鈴木先輩みたいな人になりたいって思ってるんです!! 」
「えっと……どうしてそう思ったの? 」
俺はすっと出てきた疑問を投げかける。
「あっ、そうですよね。そこから話さないと駄目ですよね……私、前に鈴木先輩に助けられているんです」
泊さんは懐かしむように話し始める。
「私がまだ入学して間もない頃、駅で変な人に絡まれたことがあって……その時鈴木先輩に助けてもらったんです。覚えてないかもしれませんけど」
「……そんなことがあったような気がするわ」
蒼音は若干思い出していた。でもまだ不鮮明のようだが。
「確かあの時は東花丸の生徒に絡まれていたわよね? 少しずつ思い出してきたわ」
「あっはい、そうですそうです! あの時の鈴木先輩を見てかっこいいなって思いました!! 」
泊さんは目を輝かせて手をブンブンと振る。
「どう捉えてもらっても構わないけど、別に私はあなたの為に助けたわけじゃないわ。ただ、大事になってしまったら面倒だと思っただけよ」
「いえ、私の為とか関係ないんです……結果として私は救われたんですから」
「……」
救われた、その言葉で蒼音はなにも言えなくなってしまう。
俺と同じことを他の人間から言われたから、自分が自分だと認められた気がしたから……なのだろうか。
蒼音は微かに見開いた目をそのままに無言を貫く。
「鈴木先輩……? 」
さすがにおかしいと感じたのか、泊さんが心配した様子で話しかける。
「……なんでもないわ。……泊さん、あなたにお願いしたいことがあるわ」
「はい、わたしにできることならなんでもやります! 」
泊さんは元気な返事で答える。
「泊さん、あなたに生徒会の書記をしてほしいの」
「ええっ!? 」
泊さんは素っ頓狂な声をあげる。勧誘するんだな、あと一人が決まってなかったしちょうどいいのかな?
「私なんかでいいんですか!? 」
「えぇ、やる気があるのなら歓迎するわ。それに、私を目標にしてるのなら近くで勉強できた方がいいでしょ? 」
「はっはい! ぜひお願いします!! 」
こうしてあっという間に新生徒会のメンバーが決まった。泊さんに関しては意図が読みずらい。一人ぐらい1年生がいた方がいいってことかな?
顔合わせなどは明日にまわし、今日は解散となる。
「それじゃあ失礼します! 」
泊さんは一足先に出ていく。今この空間には俺と蒼音の2人しかいない。
1月ということもあり、外は少しずつ暗くなっている。
「蒼音は自分でも気づかないうちに人を助けてるんだよ。それがたとえ少数だとしても、それで救われてる人は確かにいるんだから、無価値なわけないだろ」
「……私はあの子に蒼音として見られていたかしら……」
「当然だろ、ちゃんと鈴木蒼音として見てくれてたよ。耀音さんのこと知っていようが知っていまいが関係なくな」
蒼音はこちらに背を向ける。そして一度深呼吸をするとこちらに向きなおる。
「柊くん、私はあなたのことを嫌いだと言ったわね。それを……訂正するわね」
俺にしっかり目を合わせて話す。評価が変わったのは良いことだろう。
「あなたのことが羨ましくて、自分と比較していたのは事実よ。でも、嫌ってはいなかったと思う。今ならそう思える……」
「そっか……俺には蒼音の気持ちの変化の細かいとこはわからないけど、俺に対する評価が変わってくれたなら良かったよ」
「あなたはこんな私でも生かそうとしてくれた……その結果私はまた会長の座につくことができた。あなたのお陰よ、ありがとう」
蒼音が見せたそれは、普段の彼女なら決して見せることのない美しいものだった。笑顔……とはいかないが、笑ったその顔は初めて見た。多少ドキッとしてしまう。
「一番は蒼音自身の頑張りだろ、俺じゃないよ」
「それでも、これはあなたがいなかったらなし得なかったわ」
今の蒼音、ちょっと優しくないか? 雪がとけた感じがする。
「それじゃあ素直に受け取っとくよ。明日からも頑張ろうな」
「当然よ。ねぇ……」
「ん? 」
「……いえ、なんでもないわ。お疲れ、先に帰るわ」
そう言って蒼音は早足で帰ってしまった。蒼音もたまにはこういう時があるのか? いや、普通に助けてくれてありがとうってことか。
「俺も帰らなきゃな」
俺は帰りの支度をして部屋の電気を消すと、戸締りをして昇降口へ向かう。
「……」
私は早足で廊下を歩く。
無事に会長職を手に入れ、明日からまた活動できることに喜びを感じているのだが、もう一つ、変な感情があった。
柊くんに対する意味不明な心拍数の上昇と、チクッとするようなムズムズするようなそんな感情。
この感情についてまだ整理できてないが、
「恋というやつかしら……」
推測は容易にできる。
私は今まで恋というものをしたことがなかったが、恐らくの初体験が彼であることに納得している。
(なるほど……確かに柊くんは優秀よね。だったら一緒にいるメリットはあるわ……)
柊くんは私についてきて、しっかりと役目を果たしてくれた。私から見て彼は優秀だ。だったら恋という感情が芽生えるのも頷ける。
「あっ、蒼音さん」
考え事をしていると、柊くんの彼女である雪原さんに出くわす。
なるほど、痛みの正体は彼女か。人のものを平気な顔して取れるほど私は人間やめてない。
「会長当選おめでとう」
「えぇ、ありがとう。こちらこそ応援してくれてありがとう」
雪原さんはかなりの人気があるし、そこに助けられた部分もある。
「そういえば和人くん知らない? 一緒に帰ろうと思って」
「あぁ、彼なら生徒会室よ。まだ帰ってないわ」
「そうなんだ、ありがとう」
雪原さんは優しく微笑む。
「じゃっ、私はこれで」
「あっうん、さよなら」
そして別れ際、
「雪原さん。彼、殺さないであげてね」
そんな言葉が自然と出てしまった。雪原さんはなにがなんだかわからず戸惑っている。
それもそうか、私も意味わからないし。どうしてこの言葉が出たのかしら……
私は疑問を持ったまま学校を出た……
(これは……ほんとにまずい!! )
私は蒼音さんと別れてからとても焦っていた。
彼女、和人に惚れている!
私の嫌な予感が見事に的中してしまった。全くもって嬉しくない。
というか和人、最近モテすぎじゃない? 私いるのに。
あいつのことだから私一筋だろうけど、やっぱり不安だ……
こうなればもっとスキンシップ増やさないと。あと仁美さんに相談してみよう……
私はそんなことを思いながら和人がいる生徒会室に向かったのであった。




