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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
蒼い音は鳴る
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110話 演説

再選挙のための応援演説が始まった。立候補者たちが次々と決意表明をしていくが、あまり生徒たちは湧かなかった。


本命はもう決まっているから、みんな多田の番を待っているのだ。


俺たちは一番最後だ。そして多田はその前。一騎打ちみたいなかたちになっていることに神様の悪戯感がある。


蒼音は緊張せず、平常運転だった。やっぱりこういう場は慣れてるのかな。


「なかなかいい順番ね。前座を先に済ませてるあたりが気に入ったわ」


誰目線なんだよそれ……あと前座って言うな。他の立候補者に聞こえるから。


「勝つこと前提で話してるけどほんとに勝てるの? 」


「勝つには気持ちも重要でしょ? それに、ここまで準備してきたんだから負けるわけないわ」


すごい自信だ、とりあえず足引っ張らないようにしないと。


「前会長、この場で証明しますよ。あなたより僕の方がふさわしいってことをね」


「御託はいいから早く話してきなさい。次あなたでしょ」


多田は蒼音に負けず劣らずの自信でステージに飛び出していった。てことはその次が俺らか、早いな。


俺は裏手から外の様子を伺う。多田とその推薦人の生徒が登場して、その場は大きな歓声に包まれる。


「皆さん、大きなご声援ありがとうございます! ではこれから私の演説を始めさせていただきます! 」


「いいぞー!! 」


「やったれー!! 」


予想通りの人気ぶりだな。一番の有力株だからこうなるのも当然か。


「私が会長に当選した暁には、身勝手なルールではなく、生徒一人一人のことを思ったルールの作成を行います! また、」


多田は元気よく、ハキハキと話していく。よく練られた内容だな。油断することなく、しっかりと仕上げてきてる。


「やっぱり強敵だな……」


「問題ないわ、勝てる」


これからの演説を前に不安感を植え付けられた俺に対して、蒼音は特になにも感じていないようだった。


この状況でも勝てるって言いきれるあたり、俺には見えてない勝ち方があるのか。


「__といったところで僕の演説を終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました!! 」


多田の演説が終わったと共に大きな歓声がわっと上がる。


退場していく中で、推薦人が「多田のことをよろしくお願いします! 」と最後のアピールをして回っている。


いよいよ次は俺たちか……緊張なんてしてる場合じゃない。ここまできたらあとはやるだけ。


「柊くん、行くわよ」


「あぁ、」


いよいよ出番がきた。生徒たちの前に立つと、さっきまでとは違う雰囲気に包まれる。


明らかに歓迎してない、そんな感情が見て取れる。


この空気をまずは俺が払拭しないと。


「それではこれから演説を始めます。まずは私から、」


「あれ? 」


これって先に推薦人が話をしてから立候補者が演説するんじゃ……?先に蒼音が話し始めてしまった……


「まずは一つ、」


蒼音は最初に静かに頭を下げる。1秒、2秒、3秒、4秒、5秒と……長い時間そのままでいた。


その様子に生徒たちは驚いている。会場がざわつき始め、彼女から目が離せない。


「これまでの行動を謝罪します、私には皆さんに対する配慮が足りていませんでした」


蒼音からの意外な言葉に生徒たちはなにも言えない。お互いに顔を見合わせてこれが現実であることを確かめている。


「ですが、この学校をより良くしたいと思ったのは事実、私にもう一度チャンスをいただけないでしょうか?

私は失敗から学びました。効率だけを追い求めてもそこにいる人間の意志を尊重しなければ逆に悪い結果になってしまうと。

だからこそ、私にもう一回をください。以上です」


最後にまた頭を深く下げる。終わって会場がざわつく。


「次、任せたから……」


小声でそう言われる。俺次第ってことね、了解。


俺はマイクに向かってゆっくりと歩を進める。みんなからの視線が集まって鼓動が一段階上がる。


見られているという感覚だけでこんなに緊張するもんなんだな。蒼音や湊さんって凄いな……俺はあんな風にはなれなそうだ。


「それでは、推薦人として話をさせてもらいます」


緊張で早口になりそうになるが抑える。伝えること伝えないと、勝つために。


「まず、彼女は常に利益を考えて行動してます。学校全体としての評価、生徒一人一人が進学や就職のしやすい環境づくりなどを考えた上で最適だと思う行動をしています。今回は裏目に出てましたが」


今後ろからすっごい睨まれている気がする。いやごめん、ネタにするつもりはなかったんだよ。後で上手くまとめるから。


「次に、彼女は努力家です。自分の能力を向上させるために……あー……ちょっと駄目だ」


なんだか上手く言えない、前日に練ったのに。もっと自然体の方が上手く言える気がする。


「えっと、蒼音にはいいところがたくさんあるのは事実です。でも、実際皆さんが思うのは逆のことだと思います。俺もそうです、怖いしスッパリ切るところは切るし、人の話聞かないところあるし……皆さんが思ってるようなことを俺だって思ってます。

ですが……彼女をそれだけで判断しないでほしいです。この1週間の選挙活動、どうでしたか? 彼女はいつまで残ってましたか? なにを話していましたか? どんな態度でしたか?

一瞬でもいいです、あなた方の見た鈴木蒼音を思い出してください。彼女は今回の件に関してどこまでも真剣です。反省し、改善策を探し、またチャンスを掴みにいっている……そんな蒼音にもう一回だけチャンスをやって下さい。

それが俺の願いです……」


俺は話を終え、深い礼をすると、ステージ裏に戻ろうと歩く。


すると、

「私は蒼音に入れるよ! 」

「蒼ちゃんの真剣な姿はちゃんと見てますから!! しっかり入れます! 」

「応援してる! 」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。やましい気持ちにはなってしまうが、これは全部彼女たちの本音だ。


協力に強制なんてしてないし、対価も積んでない。


でも協力してくれた……蒼音を当選させたいという思いから。


それはとてつもなくありがたかった。


「葉月ちゃんがするなら俺も入れようかな……」

「あっ、じゃあ私も! 」

「千華ちゃんが入れるなら俺も入れるぜ! 」


影響力のある人が支持すれば、それを支持する人は流れていくだろう。「この人が言うのなら……」といってついていく人は割とどこにでもいる。


それを利用すると、少しずつ波紋は広がっていく。


多田の支持率だって揺らいでいく。


これが勝つための最善策だ……

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