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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編①
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11話 東雲の不良校~前編~

  終業式を目前に控えた、学生が浮き足だち始める日のこと、俺は部室で平和な時間を過ごしていた。窓を開け、扇風機をつけた風通しのよい部屋。


  あの後、千華から借りた『転生エルフ』は思いのほか面白く、十巻まで一週間足らずで読んでしまった。今は葉月から借りた漫画を読んでいる。


「うわっ、あんたと二人きりか……最悪。」


  漫画を読んでいたところ、千華が部室に入ってくる。あの後、千華にはあのとき見せた影はなく、ひとまずは安心しているが、やっぱりまだまだ不安だ。ちなみにあの出来事がキッカケで、千華と二人だけの時にはいつもテレパシーで聞く口調で話してくれるようになった。少しは信頼されてる……のかな?


「あれ、冬は?」


「冬なら日直で遅れるって。早く葉月たち来ないかな……」


  千華はいつも通りに辛辣だ。


「あれからちゃんと漫画とか読んでるみたいね。どお?それをネタにしてなんか話せた?」


  千華は俺の読んでいる漫画を覗き見ながら聞いてくる。ひとつ結びのしっぽ髪が扇風機の風で揺れる。


「全然話せてないな。まだまだ他の男子の本の話題についていけないんだよな……」


「ふーん、そう……でもまだ始めたばかりなんだし、続ければちゃんと話せるわよ。」


「そうだな。あーでも三宅とはかなり話せたな。」


「三宅くんって確かいっつも試験の順位が私の前の奴よね?あいつと何で盛り上がるのよ?」


「いやオススメの参考書を教えたら話が弾んだ。ちゃんと話してみるとなかなかいい奴だぞ三宅って。」


「もうあんたそっちの方があってんじゃないの?てかそんなこと聞いてないし……」


  千華はジト目でそう言う。


「おっと、もうすぐみんな来るわね。」


  千華は俺から離れ、眼鏡をかけて勉強道具を出して勉強を始める。


  ほどなくして、葉月以外のメンバーが部室に次々到着する。葉月はそこから少し遅れて到着するが、一人ではなかった。


「みんな~久しぶりの依頼を持ってきたよ。」


「……失礼する。」


  元気よく入ってくる葉月とは対照的に、一緒に来た久木之瀬先輩は静かに入ってきた。なんか嫌な予感がするんだけど。


「久木之瀬先輩こんにちは、で、今回はどんな用で来たんですか?」


  とりあえずあいさつをし、単刀直入に用件を聞いた。久木之瀬先輩は落ち着いた様子でソファに座り、話始める。


「簡潔に説明する……まず、お前らは隣町の東雲町にある東花丸工業高校は知っているな?」


「もちろん知ってますよ、東花丸工業って言ったらヤンキー高ですよね?結構荒れてるってことで有名な。」


「そうだ……その東花丸の生徒が最近うちの生徒に対してカツアゲ行為を行っているという情報が入った。」


「マジですか!?それは大変じゃないですか!!?」


  久木之瀬先輩の話に秋穂が慌てた様子で反応する。


「あぁ、どうにかしてやめさせなければならない。一度話し合わなければいけないだろう……だが、生徒会はこの時期文化祭の話し合いや準備で忙しいし、仮に都合があっても相手は東花丸、暴力沙汰になればあいつらに勝ち目がない……そこでだ、」


  久木之瀬先輩は俺と睦月を見る。


「和人と睦月、俺の三人で相手の頭と交渉したい。引き受けてくれるか?」


  嫌な予感が的中した瞬間だった。かなり危ない依頼なので正直受けたくないが、これ以上被害を拡大させるわけにはいかないので受けることにする。


「いいですよ。俺が何かの役にたつかは分かりませんけど……やれることはやります。」


「楽しそうなのでやります。」


「軽いなお前……」


  睦月のノリが軽くて若干心配になる。


  なんだかんだ今まで平和だったのが、いきなり崩されたのはちょっと悲しいけど早く終わらせて日常に戻ろう。


「……感謝する。それでは明日の五時間目の後に学校を出発して東花丸へ向かう。心の準備はしておいてくれ。」


  久木之瀬先輩はそう言うと話は終わりと言わんばかりにソファから立ちあがり、部屋を出ていく。


「いや~よかったね和人。明日は喧嘩できるよ。」


「よくないだろ……むしろ嫌だわ。」


「それにしてもカツアゲ行為ですか……私家が東雲方面なので気をつけないと……」


「秋穂の家ってそっち方面だったんだな。……危なくね?」


「うぅーだからさっさと解決して下さい先輩~。」


  秋穂は手をバタバタしながら俺に詰め寄ってくる。


「はいはい、頑張るから期待してな……久木之瀬先輩を。」


「先輩は何もしない気ですか!?案山子ですか!?」


「いや、できることはするけど三人の中じゃ俺が一番弱いだろうしな。」


「もっとやる気出して下さい!私と私の妹を守ると思って。」


「秋穂って妹いたんだ?どんな子?」


  葉月が興味津々といった様子で反応する。


「妹は内気ですけどとっても可愛いんですよ。家族でいつも妹の事を可愛いって言ってます。」


「へぇーそうなんだ。今何歳なの?」


「小6で11歳です。写真ありますよ、見ますか?」


「見る~」


「私も見たいっす。」


  葉月と花火は秋穂の周りに集まる。写真を見ると、「わぁ可愛い~」とか「髪とか肌とかきれいっす。」などと盛り上がっていた。


「明日は頑張りましょうか、先輩。」


「お前はさっきから楽しそうだよな、睦月。」


  久木之瀬先輩の話からずっと楽しそうにしている睦月を見て思う。睦月って確か喧嘩すごい強かったよな?入学早々三年生の先輩をボコボコにして反省文書いてたし。PSY部に入ってからは大人しくなったけど……もしかしてまた喧嘩できるから楽しそうなのか?


「そりゃそうですよ、他校に殴り込みなんて普通はできない経験ですから。楽しみにもなりますよ。」


「別に喧嘩しに行くわけじゃないからな?俺たちはあくまで交渉しに行くんだからそれは忘れないでくれ。」


「分かってますよ。」


  そう返事をする睦月はとっても笑顔だった。激しく不安だ。




  翌日、決戦の日といったら大袈裟かもしれないが、今日はかなり緊張している。今日の天気はいつも通りの晴天でぎらつく太陽は俺たちの成り行きを見守っているようだった。


  みんなはいつもの日常を過ごしているようだが、俺は時間が進むにつれ緊張の度合いが高まった。


  やがて五時間目が終わると、俺は早退して校門へと向かう。


  校門へと着くと、睦月と久木之瀬先輩の二人が先にいた。


「お疲れ様です先輩。」


「改めて協力感謝する、和人。」


「これぐらいどうってことないですよ。早速向かいましょうか。」


  俺たちは学校を出ると、最寄り駅の山下駅に向かう。


  駅に着くと、東雲方面の電車に乗って東花丸の最寄り駅である花丸駅に向けて出発する。もう後戻りはできない。


「なにげに東雲方面には初めて向かうな。」


「あれ、そうなんですか?」


「あぁ、東雲には特に用事があったこともなかったし、危ないって聞いてたから行くのを避けてたな。」


「そうなんですね。危ないっていうよりかはスリルがあって楽しいですよ。それに、危ないのは高校周辺ですし。」


「その言いぐさだと睦月は結構行ってるのか?」


「結構行ってるというよりは、家が東雲なのでそこに住んでいるって感じです。」


「マジかよ……」


「なのであそこについては詳しいですよ。それに同級生の不良は大体シメましたから。」


「おいおい……」


  そんなことを笑顔で言ってくる睦月に対して俺は、苦笑いで応じる。睦月が喧嘩強いのって多分環境のせいだろうな……


「そういえば久木之瀬先輩は家どこなんですか?」


  睦月は爽やかスマイルで久木之瀬先輩に質問する。うーんこの後輩ほんとかっこいいな。コミュ力高いし。


「……俺は北の方だ。」


「てことは柏崎駅で乗り換える感じですか?」


「……そうだな、学校に向かうためには途中で電車を乗り換える必要があるし、家から最寄り駅までが遠い。自転車で四十分といったところだ。」


「へぇー、めちゃくちゃ遠いですね。登下校が大変そうだ。」


「……この中だと和人が一番近いのか。羨ましい限りだ。」


「まぁそうなりますかね。自転車でも行けますし登下校は楽ですね。」


  電車に乗っている時間は特にやることもないので雑談に花が咲く。学年は違えどこうやって話しやすい関係を築けるのはとてもいい。


「あ、そろそろですね。降りる準備をしましょうか。」


  電車に乗って三十分が経過したところで花丸駅に到着する。話が弾んだせいか、三十分が短く感じた。


「ここから徒歩七分のところに東花丸工業がある。向かうとしよう。」


  ここからは徒歩で向かう。見慣れない土地を睦月の案内で進んでいく。一見すると普通の町並みだ。ここに不良たちが合わさるとおそらくすごいことになる。


  東花丸工業に着いたとき、ちょうど放課後に差し掛かったところだった。


「……行くぞ、頭を探す。」


「いるとすればたまり場ですよね。他の生徒に聞いてみましょうか。」


「そうですね。」

  急な他校の生徒の到来に他の生徒はざわつくが、気にせず校内に入っていく。


  聞きやすそうな人はっと……あの人とか聞きやすそうだな。


「あの、すみません。この学校での番長的存在の人って誰だか分かります?」


  俺は一階の廊下にいた男子2名と女子1名の計3名に話しかけた。俺が話しかけると黒髪ショートの女子は一人の男子の背中に隠れて様子を窺ってくる。


「えっと……番長ですか?」


  最初に茶髪でタレ目の優しい印象を与える男子が反応する。


「そうなんだ。俺たちはこの学校を取り仕切っている人を探しているんだ。」


「あーそうなんですか。俺は誰が番長やってるのかなんて分からないですね。りゅうは誰だか知ってるか?」


「そうだなー……」


  りゅうと呼ばれた赤髪高身長の男子は答える。


「確か三年の先輩が最近番長になったって言ってたな。名前は分からないけどたまり場は分かりますよ。」


「ほんとですか!?」


「はい、その場所は一階の空き教室ですよ。東側の突き当たりです。」


「ありがとうございます。助かりました。」


「いえいえ、お安いご用ですよ。」


「智也は何もしてないけどな。」


「うっせぇ。」


  俺は情報提供してくれた男子たちと別れると、久木之瀬先輩と睦月と合流してその情報を伝える。


「__ってことらしいです。」


「……なるほど、いるとすればそこだな。早速向かうぞ。」


  ということで一階の空き教室に向かう。その場所に近づくほど緊張感が高まっていき、空気がピリピリしていく。


「この廊下、人がいないですね。」


「楽しくなってきましたね。この空気久しぶりです。」


「あそこか……」


  廊下の突き当たりには看板が立て掛けてある教室があった。看板には立ち入り禁止と殴り書きされていた。


「嫌な予感しかしない。」


「……大丈夫だ、入ってすぐに荒事ということはあるまい。」


「そうだといいんですけどね……」


  俺はこの状況でもいつも通りの涼しい顔をしている久木之瀬先輩を見て、自分も覚悟を決めなきゃいけないなと思う。

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