109話 開戦
再選挙のための選挙活動が始まり1週間。中々成果の出ない中、いよいよ投票日を明日に控えてしまった。
俺と蒼音が今集まっている場所である生徒会室は、重い空気に包まれていた。
「……」
難しい顔をした蒼音はさっきからずっと無言だ。あれからずっと演説、ビラ配りを繰り返し、校内にポスターを貼り付けてアピールをしたのだが、生徒たちの心象は変わることはなかった。
それだけやってしまったことが大きかったのだろう。蒼音はずっと誠意を見せていると思ったんだけどな……伝わってないのかな?
「このままだとまずいわね……支持者を金で集めるしか、」
「なにやろうとしてるの!? 」
蒼音が口にした言葉にびっくりして声をあげてしまう。それ不正だろ。
「冗談よ。柊くんは場を和ませることも知らないの? 小学校からやり直してきて」
「なんで俺攻撃されてるんだよ……」
腹いせかなにかか。むしゃくしゃしてやったみたいな。
「お遊びはこれくらいにして本題に入るわよ。今の支持率はざっとこんなものね」
蒼音はそういうと、紙におおよその支持率を書いていく。
「多田が70%か……やっぱり多いな」
「それでも私たちに約10%の支持が集まっているのはまだ幸いね」
「あぁ、学校を勉強する場って思っているやつなんかは意外に蒼音のこと支持してたんだな」
学校は勉学に励む場なので、周りから変に思われないようにするのは普通だろうと、考えている生徒たちからは支持は集まっていた。三宅なんかがそのタイプだな。
「で、こっからどうやって勝つんだ? 多田との差は歴然だし、普通は無理だろ? 」
「それはそうね……普通だったらの話だけど。私には強いカードが数枚あるから勝ち方はあるわ」
蒼音は自信満々に言い放つ。勝てる、とは言うと思ったけど自信満々に言うとは思ってなかった。そんないい作戦があるのか。
「勝つためにも……柊くん、あなたにはしっかり協力してもらうわ」
「はいはい、元々そのつもりだよ」
でなきゃこうして毎日遅くまで残って手伝いなんてしてない。毎日5時半すぎまでやってるからな。勝たせたいって思わないんだったらそこまでやってない気がする。
「明日のこと話すわよ、明日も全力で演説するけど、柊くんにもしっかりと演説してもらわないと勝てないから……頼んだわ」
「うん、て言っても蒼音ほど上手く演説できないぞ」
「別に上手さは関係ないわ。あなたは相手の心に響かせればいいのよ」
心に響かせるか……それも難しそうだな。狙って響かせられれば今ごろ世界は平和になっているだろうな。
「あともう一つ仕事があるわ。あなたにしか頼めないことよ」
「なんだよ? 」
「それは……」
蒼音との作戦会議はかなりの時間を要した。終わったあとの外はここ一週間見た景色ではあるが、真っ暗で星が輝いていた。
「じゃあ、明日頼んだから」
「あぁ、明日……勝とうな」
「当然、」
俺は西園駅で降りるとわずかな時間で蒼音と別れの挨拶を済ます。彼女はまだまだ電車に乗っていく。
挨拶を済ますと電車のドアが閉まり、蒼音を乗せた電車は遠くへと走っていく。
「今日は帰って早く寝るかな……」
帰り道でそんなことを呟いて、明日に向かってそわそわしていく。
明日はどうなるかな……
次の日、朝から生徒会再選挙の話題でもちきりだった。新聞部はカメラの手入れから演説時の配置まで入念に確認していて、熱いものを感じられた。あいつら俺らより熱入ってないか?
そして現在昼休み、PSY部の部室でお昼ごはんを食べている最中だ。
「この選挙で蒼ちゃん勝てますかね? 」
俺の目の前に座るティタニアが卵焼きを食べながら聞いてくる。
「それはやってみないとわからない。本人は勝つ気満々みたいだけど」
昨晩、蒼音からの頼まれごとで、葉月たちに協力の依頼をしたのだが、彼女らは快く引き受けてくれた。
葉月は恩があるからもちろんって感じだったのだが、千華とティタニアが協力してくれるとは思ってなかったからびっくりした。
2人とも蒼音の厳しいルールで蒼音が生徒会長であることを難しいと思っただろうから……別の人が会長になるべきと感じただろう。
だからこそ、今回の協力は難しいかと思っていたのだが、引き受けてくれた。
理由はそれぞれで、千華は「和人が信じた人なんだから私も信じたい」だった。ティタニアの方は「ここ一週間、蒼ちゃんの頑張りをたくさん見てきたのでもう一回やらせてあげたいと思いました! 」だった。
どっちもありがたい言葉を並べてくれて凄く嬉しかった。
これが終わったら千華とどこかに行きたいな。
「だったら一緒に買い物行かない? 2人でゆっくり楽しみたい」
「読んでたのか……わかった、一緒に行こうな」
一緒に買い物に行くことに決まり、千華は上機嫌で弁当を食べ進める。冬が凄いニコニコしている。一体どうしたんだ?
「和人くん、頑張ってくださいね! あと蒼ちゃんにも伝えてください、応援してますって」
「一応伝えとくよ。いらないって言われそうだけど」
蒼音の性格上応援とかは別にいらないって感じがする。応援されなくても普通にしっかりやるしみたいな。
「……さっきから胸騒ぎが凄いのよね。嫌な予感がしてたまらない」
「どうしたんだ? 」
蒼音のことを心配してくれてるのかな? 確かに勝てる確率は低そうだけど、勝つために全力を尽くすんだから、勝てるって信じなきゃベストは尽くせない。
「いやそういうことじゃなくて」
「?? 」
「乙女の勘は当たるかもね〜」
難しい顔をする千華を冬が茶化す。俺の知らないことで盛り上がっている。一体なんなんだろう……困っているなら力になりたい。
「いえ大丈夫、それよりも応援演説頑張って。応援してる」
「ありがとう、しっかりやってくるよ」
千華からの応援を受けて、やる気は一気に最高潮へと達する。
楽しい昼休みが過ぎていく。5時間目、いよいよ立候補者演説が始まろうとしていた。
体育館はざわついており、皆誰が当選するかの予想で盛り上がっていた。ステージ裏のここまで聞こえてくる程の盛り上がりで少し緊張してきた。蒼音はいつも通りの凛とした表情だった。
「私たちは競馬で言うところのミナレットね、大波乱を起こしましょう」
「例えはよくわからないけど、勝つぞってことか。了解、やってやりますか」
始まる直前、蒼音と最後の言葉を交わすと、戦場へと歩を進めるのであった。




