108話 選挙活動
次の日から学校では再選挙の為の演説が各所で起こっていた。
「私が会長になった暁には、生徒の皆さんが生活しやすいように新しいことにチャレンジしていきたいと思っています! 」
自分が学校を変える……そんな思いから立候補する人は多かったが、本命は先に行動を起こしていた多田だろう。
多田はC組の生徒であり、生徒会の副会長なのだが俺はあまりよく知らない。けど蒼音が言うには「行動力あるやつ」らしい。
今の状態としては選挙活動なんてほぼ意味のないことになっている。理由としては本命が強すぎるから。
多田は学校中で指示を集めており、当選確実な状態になっている。
で、こっちはというと……
「アメリカでは会社の社長には過去に失敗した人間を選ぶといいます。理由は一度失敗していて、二度と同じ失敗をしないから。つまり答えはもう決まってます、私を選んでください」
「ふざけんな!! 」
「自分がやったこと忘れたのか!! 」
強烈な逆風に負けじと頑張ってます。わかっていたけど当たり強い。
非難の対象である蒼音は凛とした表情を崩さず、「忘れていません。二度と同じ失敗はしません」と冷静に返す。
精神力凄いな。自分の敵しかいない環境でそれだけ堂々としてられるの尊敬する。
「だからこそもう一度会長を勝ち取りにいくんです。失態を結果で塗りつぶすために」
「別にお前がもう一度当選とか俺たちは望んでないんだよ!! 俺たちは多田を推すね! 」
やっぱり厳しいな……この時点でもう勝ちの決まった者がいるのが辛い。ただでさえ色々と批判を貰う方向に舵を切ったのに、さらに不利になってる。
「確かに蒼音は利益の為に人の意見を無視してましたけど、その利益は全体の利益ですし、一度目の失敗でちゃんと学んでます。だからもう一度蒼音にチャンスを与えてあげてくれませんか……? 」
しっかりと誠意を見せないと話を聞いてもらうどころじゃない。
一度大きな失敗をしたんだから、まずは不信感を取り払わないと。
「柊、お前なんでこんなやつの為に頭下げんだよ!? お前だっておかしいと思うだろ!? 」
「それは思うし、なにをやったかもわからないわけじゃない……でも、それでも会長に相応しいのは蒼音だって思うからこうしてる」
今の行動を同級生に訝しげに見られようと関係ない。俺は蒼音を勝たせる、その為にやれることはやる。
「ちっ、変なやつだな。行こうぜ……」
野次を飛ばしていた生徒たちはその場を去っていく。想像よりも厳しそうだ。どうやって信頼を取り戻していくか、これがカギだな。
「さっ、演説を続けましょう。時間がもったいないわ」
「ほんと凄いな……蒼音って」
「なにが? 私は普通にしているだけよ」
なにを褒められているのかわからない蒼音は首を傾げている。
「だってあれだけ非難されても表情を崩さず冷静で、かっこいいって思っちゃうよ」
「柊くんに褒められても嬉しくないのだけど……まぁいいわ。再開するわよ」
蒼音はキリッとした表情で演説を再開する。今この場所は正門の近くなので立地としてはいいのだが、やはり蒼音の話を好意的に捉えてくれる人はいない。みんな行き過ぎた規則を制定されたことが頭に残っているのだろう。
でもそれでも続ける以外に選択肢はなくて……その日は結局、蒼音は5時半まで声を出し続けた。
「喉を酷使し過ぎたわね。明日からはプリントの比重を増やしましょう」
「だな、蒼音の体に負担をかけたくないし」
その日の帰り道、辺りはもう真っ暗で空にはいくつもの星が輝いている……そんな道を2人で歩く。
1月ということもあり、寒さで息が白くなる。蒼音はしきりに喉を気にしていたので、のど飴をあげるとなぜか嫌そうな顔をされた。なぜだ……
「あなたって本当によくわからないわ。どうして嫌われてる人間に対してここまで協力するの? 」
「前にも言ったけど、蒼音が凄いやつだって思ったからこそこうやって関わってるんだよ。別に深い意味とかはないよ」
「まぁそれなら精々役に立ちなさい」
「言葉が酷いな……」
今は協力関係にあるためか、蒼音から『嫌いだから近付かないで』オーラが感じられない。この前までは酷かったもんな。少し近づくだけで嫌そうな顔されたことあるし。
でも今は彼女の俺に対する感情も変わっているんじゃないかと思う。あくまで推測なため、今でも変わらず嫌いな可能性もあるのだが。
「蒼音、絶対勝とうな」
「誰に言ってるの? 当然よ。だからそのためにもまずは候補者の誰よりも利益が出せるところを見せるわ」
「生徒からの好感度で勝つっていう選択肢は? 」
「あるわけないでしょ。この短時間で積める信頼なんてほんの僅かなのよ? それじゃ勝てないわ、だからこそ利益を出せることをアピールするのよ」
考え方が社会人みたいだ。利益って言葉使うのもなんかそれっぽい。
話していたらいつの間にか駅に着いていた。ここから電車に乗って家に帰る。
「家の近くまで送ってくよ」
「柊くんって自分の立場を自覚してるの? 彼女がいるのに他の女に手を出すなんてたらしなのね」
「違うから……夜道を女の子1人は危ないからって意味だよ」
「あなたに心配される筋合いないわ。着いてこないで」
あっさり拒否された……まぁ当然か。
駅に電車が到着し、程なくして乗り込むとスマホを開く。lineの通知が入っていて、見ると千華からだった。
内容は、『蒼音さんになにか変なことされてない? 』だった。心配してくれてたのかな?
でもそんなことはされないだろ。蒼音だって協力関係を解消したくないだろうし、嫌いとかボロクソに言うのは再選挙が終わったあとでもできるだろうし。
俺は『大丈夫』と返信を送り、電車に揺られていた。
蒼音は隣でなにかのプリントを見ている。俺は邪魔をしないように静かに、ぼんやりと窓の外の夜の景色を眺めていた。




