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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
蒼い音は鳴る
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106話 蒼音

校内を隅々まで探した結果、蒼音は屋上に座り込んでいた。遠目から見てもわかる、少し変だ。落ち込んでいるのかはわからないけど、いつもの覇気がない。


「再選挙、出てみないか? 」


「断るわ」


話しかけてみてもいつもの蒼音ではなかった。いつもならもっと色々言い返してくるからな。なんというか雰囲気も諦めてるっぽい。これは結構落ち込んでるっぽいな。


蒼音はただぼーっとグラウンドを見下ろすだけだった。目にはいつもの輝きはなく、不安な気持ちを加速させた。


「……もう、いいのよ」


なにを言ったものかと困っていると、蒼音が口を開く。


「私は結局姉より下の無能よ。薄々気づいてたのよ……姉には絶対勝てないって。なのに意地張っちゃって馬鹿みたい……どこかで折れるってわかってたはずなのに……」


そういうことだったのか。あの危なっかしい行動は全て耀音さんに勝つ為にやってたのか。


「だからもう、いいの……」


「……そっか」


諦めた目でこちらを見ずに、遠くを見ている。本人が嫌だって言うのなら強いるわけにはいかない。


「話は終わったでしょ? あっちいってよ……」


「いや、まだちょっと話したくてな」


でもだからといってここを離れるわけじゃない。嫌がられるかもしれないが、元気づけてあげたいという気持ちが湧いてくる。


蒼音の隣に座る。いつもなら文句の2つも言われそうなものだが、今回は弱っているためかなにも言われない。


「あなたって奇特よね。自分のことを嫌ってる人間に対してよくここまでできるわね。意味がわからない」


「別に、ただ……蒼音が凄い奴だから助けたいって思っちゃうだけだよ」


「それに恩返しの意味もあるしね」、その言葉は言わないでおいた。蒼音に言っても覚えてないだろうし、仮に覚えていても疑問がられるから。


「どこも凄くないわ、ただの無能よ」


「そんなことないと思うよ。蒼音は現実が見えてると思うし、まとめる能力はあると思う。それでいてひたむきだし」


「……」


蒼音が明らかにそんなことないって顔をしているが、俺がそうだと思ったことを話しているし、俺から見た蒼音としては間違ってない。


「俺は蒼音に助けられたんだから。覚えてないかもだけど」


「記憶にないわ」


「だろうな、些細なことだったし。それでも、俺にとっては助けられたんだよ」


あの出来事がなかったら、葉月はどうなっていただろうか。今となにも変わらないかもしれない、でも、今よりも下の結果になったかもしれない。


「だから自分を無能なんて言わなくていいんだよ。蒼音に助けられてる人間は確かにいるわけだし」


「それでも、認められなきゃ意味ないのよ……」


蒼音の手は固く握られている。溢れる想いを抑えようと歯を食いしばっている。


「大勢の人間から一個人として認められないと意味ないのよ……だって私は……私は……」


「蒼音……」


隣で今にも気持ちが溢れだしそうな蒼音を見る。こういう時なんて声をかけたらいいのかわからない。


優秀な姉っていうか、兄弟を持ったことのない人間になに言われても響かないだろうし。姉を自称するやつと、姉っぽい人、兄っぽい人ならいるけど、そういうんじゃないしな。


「私は、ただ蒼音って認められたくて弓道も風紀委員も勉強も、生徒会も、結果を残せるようにやってきたのに……どうして、私は認められないの!? それどころかなんであなたが認められてるの!? 目立たない人だったのに! そんな欲も持っていないのに!! 」


蒼音から吹き出した想い、それを聞いてようやくわかった。俺のことを嫌いな理由が。


「中学の頃からなにか私たちとは違うなにかを持ってて、それでも平穏な道を選んだあなたが! 私なんかを簡単に追い越していって、自分という存在を他人に刻み続けるあなたがっ、大っ嫌いなのよ……!! 」


その本心は、冷たい彼女が辛くて泣きそうな程に重かった。


片や能力がバレたくなくて目立たなくていいと思っている人間、片や誰かに認められたくてずっと走り続けてきた人間……それでも結果は思い通りについてこない。


目立たなくていいと思っても色んな人と関わって、いつの間にか多くの人に存在を認識してもらった。でも、認められたいと渇望していた人間は、個人として見てもらえず、こうして今想いを吐き出している。


ずっと誰にも言えなかったことを……


「……確かに、蒼音から見て俺はそう見えてたんだろうな、」


涙を見られないようにと下を向いている蒼音に、俺は話し始める。彼女の全部に応えるために。


「中学の時は不登校だったし、登校したら傷とかあったし、雰囲気とか怖かったみたいだし……周りとは明らかに違かったと思う。それでもさ、希望なんて持ってなかったよ……」


あの時なんて本当に黒い感情以外なかったと思う。ただ母の仇がとれればよかったんだ。憎かった相手が殺せればそれでよかったんだ。


「俺からしたら蒼音、君の方が凄いんだよ。辛かろうがなんだろうが凛として、希望の為に勉強も弓道も、風紀委員もひたむきに取り組んだ蒼音は、俺から見たら眩しかったんだよ」


中学時代、何度彼女のことを眩しいと思ったことか。何度羨ましいと思ったことか……


「俺から見たら蒼音は特別で、それこそ尊敬してるぐらいでさ……さっき、言ってたよな? 私は誰からも認められてないって……

少なくともここに1人、蒼音のこと認めてる人間はいるよ。俺は、君のことを鈴木耀音の妹なんて思ってない……鈴木蒼音だと思ってるよ」


「ふざけないで……あなたに認められたって……嬉しいわけ……ないじゃない……」


蒼音は下を向いたまま返事をする。泣いてるせいか、途切れ途切れになってたけど。


「柊くん!! 」


蒼音は突如として顔を上げる。いきなりのことと声でびっくりしてしまう。目が真っ赤だし、涙で顔びちゃびちゃだけどいいのだろうか。


「私再選挙出るから! 」


蒼音は腕で涙を拭き取ると、そんなことを言い放つ。


「急にどうしたの!? 」


「だってあなただけに認められてるのは癪だもの! このままじゃ終われないのよ!! 」


理由が酷い。俺のこと嫌いすぎだろ……


でもまぁ、元気になってくれたみたいだし、よかったのかな……?



消えかかっていた蒼い音は、再起を目指してまた鳴り出すのであった。耀の残音を打ち消して、自分の存在を知らせる為に……

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