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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
蒼い音は鳴る
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104話 蒼

昔から私は姉と比べられてきた。姉は勉強ができて運動もできて、しっかりしていた。


そんな姉が誇りだったのも小学校に入る前までだった。入ってからはことある事に比べられ、姉のようになれと耳がタコになりそうなほど言われた。


姉はとても優秀だったので、学校でも有名で、いつも私は鈴木耀音の妹として見られていた。


それが嫌で嫌で仕方がなかった。姉のようになることを強いてくる親が、鈴木蒼音として見てこない周りが。


私がどれだけ頑張っても、親は、周りは姉の方をより褒めた。それもそうだ、出した実績の大きさが違う。そうとわかっていても、諦めきれず、姉と違うことで結果を出そうと奮闘した。


姉が陸上なら私は弓道で、姉が生徒会なら私は風紀委員で。


わざわざ違う中学校を選び、姉のいない環境で私を証明したかった。


それでも、親には届かなかった。私がどれだけ結果を残しても、「姉には遠く及ばない」その一言で片付けられた。


それに対してどこか納得してしまう自分がいた。私が今まで見てきた姉は、鈴木耀音は、努力家だった。


自分に(おご)ることなく、どこまでもひたむきに努力してきた姉を見て、どこまでもやるせない気持ちになった。


私が努力して届きそうになった背中はただの残像で、本物は前と変わらない距離、いや、少しずつ遠ざかっていっていたのだろう。


そこまで鮮烈な後ろ姿を見て、私は心底絶望したが、歩みを止められなかった。


私はただ、鈴木蒼音だということを証明したくて……まだまだ足掻き続ける。



だって私は耀音ではなく蒼音なのだから……






私は部活の朝練の為に、朝早くから学校に行こうとしていた。制服に身を包み、玄関を後にする。


「おはよう蒼音、今日も早いね」


その直前に姉に声をかけられる。姉との関係は、私が一方的に避けているためそこまでよくない。姉からは結構話しかけてくるのだが。


「別に、普通よ」


「……生徒会、どお? ちゃんとやれてる? 」


「……あなたには関係ないでしょ」


私が冷たく突き放すと、姉は寂しそうな顔で「そう……だよね、ごめん」と言葉を紡ぐ。


「じゃあ、いってきます」


私はもう話すことはないと言わんばかりに出ていく。外は冷たい空気に支配されており、身が引き締まる。


いつものように駅に向かい、電車に乗って、学校へと向かう。電車内では音楽を聞きながら軽く勉強をする。いつも聞くのはクラシックだ。歌はあまり聞かない。


勉強に集中し、柏崎までの時間を過ごしていると、途中の駅で最悪な人に遭遇してしまう。


「えっと……おはよう」


私が座っている席の前に来た男は、気まずそうにしながらも話しかけてくる。


黒髪に赤い眼が特徴的な中学からの同級生、柊くんだ。


「なんで話しかけてくるの? というか前立たないでくれる、邪魔」


私は思ったことをそのまま口にする。


「相変わらず酷いな……」


柊くんは引きつった笑いを浮かべる。なんでこの人はこれだけ言われても私に関わろうとしてくるのかしら。意味がわからない。


「……今日は早いのね」


「あーうん、ちょっと弓道部の方で弓を引こうかなって思ってさ」


柊くんはたまに弓道部で弓を引きに来る。前に体験しに来た時に、先輩から熱烈な勧誘を受けて兼部という形で入ったのだ。


弓道の経験があるのか、彼の弓は綺麗でまっすぐだ。的を正確に捉えて見ているものに余韻を与えてくる。


また、彼の真剣な横顔がなぜか弓道部女子の間で人気らしい。当の本人は全く気づいてないみたいだが。


「いいけど、邪魔はしないでね」


「もちろんそのつもりだよ。弓道やってる人の隣で騒いだりはしないだろ」


その後は、別に話すこともないのでほぼ無言で柏崎駅までを過ごす。


着くと、私は足早に学校へ向かう。彼と一緒に行くつもりなんてさらさらない。だって嫌いだし。


彼より早く学校に着くと、弓道場で朝練を開始する。日中は生徒会で部活をやれないことが大半なので、こうして朝に練習しておくのだ。静かだし集中しやすいので、最適だろう。


私の他にも数人来ている。朝練は自由なので、全員集まることなんて大会前以外ないが、今日は結構来てる方か。いつもは私以外だと、1人2人だし。


「おはようございます」


私が準備をしていると戸が開いて、柊くんが姿を現す。そして朝練に来ていた女子生徒が嬉しそうな声を上げる。


五月蝿い……邪魔するなら帰れ。ちょうど引き始めようとしていたので、率直にそう思ってしまった。


柊くんは荷物を置くと、準備をして私の隣で弓を引き始める。


「なんで隣なの? あっち行って」


「いやあっちだと女子に挟まれてるからここにしたんだけど。あの子たち結構絡んでくるからやりにくくて」


私は思わずため息をつく。まぁ集中すれば隣のことなんて忘れるか……


私はゆっくりと弦を引き絞り、的の中央に狙いを定める。距離にして28メートル離れている的の、しかも中央を狙うとなると、指先の感覚を寸分の狂いなく合わせなくてはいけない。どこに意識をおくか、力加減は、支えの左腕の安定、その全てを最高に合わせる。


そして、弓矢を放つ。私が放ったそれは、綺麗に的のど真ん中を捉える。タンッ、気持ちのいい音と共に区切りとしての息を吐く。


弓道は気持ちがいい。静かな場所で一つのことに集中できるのだから。


私は五月蝿いのが苦手だ。オーバーな程に大きな笑い声も、仲間内でわーきゃー騒いでいる声も、人の罵詈雑言も、全てがノイズでしかない。


だからこそ、私に生徒会は向いているのだろうか? 鈴木耀音の妹としてではなく、鈴木蒼音として見てもらうためとはいえ、生徒会は無謀だったのではないだろうか……?


風紀委員は煩わしいノイズを消すのもそうだが、姉と違うことをして認めてもらいたかったから入った。適正も充分にあったと思う。


だが、生徒会はどうだろうか? 行き過ぎたルールで不満が出たのはもちろん、皆私のことを、鈴木耀音の妹として見てしまっている。


はっきり言っている意味がないのではないのだろうか……?


トンッ、思考に淀みが発生したせいか、弓矢は的から少し離れた場所に刺さってしまった。


ふと横を見ると、柊くんが心配そうな表情でこちらを見ていた。


意味があるなしじゃない、引き返せるか。絶対、この学校の全員に鈴木蒼音を認識させてやる……!


次に放った弓矢は、さっきのとは裏腹に、的の中央を見事に捉え、快音を響かせた。

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