103話 不穏な音
3学期の学校生活、始まってすぐに少しずつ不安が募っていた。
蒼音による生徒会の運営はなんだか危なっかしく、どこか行き過ぎているものがあった。
生徒全員の髪色を黒に統一や、髪型の細かい指定など、厳しいルールがプリントを通して伝えられた。
「和人くんどうしましょう! 私金髪なので染めなきゃ駄目なんですけど!? 」
プリントを見たティタニアは慌てた様子でこちらに来る。
「さすがにこれは行き過ぎているだろ……あいつなにやってんだ」
これじゃあいきなり支持率ガクッと下がるぞ。蒼音のやつなにを考えてこんなことを……
クラスを見渡すと、かなりの生徒が戸惑いの色を隠せないようだった。
柏崎は髪色とか髪型は比較的自由なので、いきなり制限がかかると受け入れられないだろう。
俺の周りだと目の前でオロオロしてるティタニアとか葉月、千華、冬、秋穂、花火、あれ……俺の周り黒じゃないやつ多くね? 睦月と三宅は黒だな。あとは伊月先輩とか湊さんか。
「蒼ちゃんはなんでこんなことを……とりあえず話に行きましょう! 」
「だな、俺も聞きたいことあるし」
そう言って立ち上がろうとすると予鈴が鳴る。ティタニアと放課後に行く約束をして授業の準備をする。
「ほう……なかなかやるな」
ちなみに三宅には受けがよかった。
放課後になると、やる気満々のティタニアと一緒に生徒会室へ向かう。
その途中で千華と会い、一緒に行くと言ってきたので3人で行くことになった。
生徒会室に着く。ドアを開けようとすると中から争うような声が響いてくる。
俺はドアを少し開け、中の声をこっそり拾う。
「会長、なぜ俺たちの許可なくあんなことをしたんですか!? 」
「必要だったからよ。この学校が良くなるには確実にあれが必要なの。いちいち許可を取るなんて合理的じゃないわ」
どうやら蒼音と役員の1人が口論になっていたようだった。
「あんなの必要ないでしょう!? ただの古い考えの押しつけですよ!! 」
「その古い考えにしないと学校の信用に関わるのよ? 最近学校の評判が落ち始めてるのを自覚してるの? 一部の生徒とはいえ、学校の評判を下げているのだからこうするのは普通でしょ」
学校の評判の低下を抑えるために考えたんだなあのルール。でも厳しすぎるような……
「だからといって全員がすることないんじゃ、」
「相手は個人を見ているわけではないわ、学校の人間として見てるのよ。だったら連帯意識を持ってもらわないと困るわ」
「……もういいです!!」
その生徒は肩を震わせながら乱暴にドアを開け閉めして出ていく。
「えっと、行くんですよね? 」
「うん、開けよっか」
あの言い合いを聞いた手前、入りにくい。蒼音はどれだけ言っても変える気がなさそうだし。
でも話さなきゃ。あいつとちゃんと話せる人間少ないし。
「失礼するぞ蒼音、用件はほぼ想像つくだろ? 」
「柊くん、帰ってもらっていいかしら。あなたと話したくない」
蒼音から先制攻撃として言葉の棘が飛んでくる。ちょっと痛い……けど大丈夫。
「そういうわけにもいかないよ」
「そうです! 蒼ちゃん、このルールは厳しすぎです修正してください!! 」
ティタニアが俺の言いたかったことを言ってしまった。
「無理よ、これは必要なことなのだから」
「いくら必要っていっても、行き過ぎたルールは不満感を増幅させて悪い影響を与えちゃうと思うよ」
千華はその他の人の前で見せる猫かぶりで優しく指摘する。
だが蒼音には全く響いていないようだ。
「全員がこの問題について理解すればいいだけの話だわ」
「それは時間がかかるし、非効率なんじゃないか? 」
「それについては反論の余地はないわ。もう少し効率的な方法を取りたかったけど、会議による時間のロスを考えてこうしたわ」
なんて言ったら修正してもらえるんだろ……全く引かないな蒼音。
「蒼音さん、効率を考えるのも大事だけど、影響を受ける生徒たちのことも考えないと生徒会って駄目になっちゃうんじゃないかな? 」
「確かに雪原さんの言っていることは当たっていると思うわ……でも、この問題はできるだけ早く解決しないと次に影響が出てしまうのよ。学校は生徒や先生だけで成り立っているんじゃない、地域住民の評価もあって成り立つものなのよ。
だから私は学校が成り立つ為ならやれることはなんでもするわ」
蒼音なりにしっかりとした考えがあっての行動だ。それは充分わかってる。
蒼音は全体の利益を考えて行動できる。でも、それが行き過ぎて相手への忖度が疎かになってしまう。
だからこそ、ちゃんと話さないといけない。途中で投げ出さず、最後まで付き合わないと変えたくても変えられない。
「蒼音がそういう気持ちを持ってるのは知ってるよ。でも、生徒会始まってすぐに信用を落としたら取り返しがつかないぞ! だから、ここは相手のことも考えたルールを作った方がいいと思う」
「……」
真っ直ぐに目を合わせて気持ちを伝える。対する蒼音は無言。
「柊くん……やっぱり私はあなたのことが嫌いだわ。出てってもらっていい? 」
返しの言葉はとても冷たいものだった。目の据わりようからして本当に嫌なのだろう。これ以上は無理だな。
「2人とも、部室に行くぞ」
「ふぇっ、もういいんですか? もうちょっと抵抗とかは……」
「……わかった」
後ろ髪をひかれる思いのティタニアとなにかに納得した様子の千華を連れて生徒会室を出る。
「本当によかったんですか? もう少し話してみればなにか変わったんじゃ……」
「いや、もう続かなかったよ。言葉を間違えた」
部室までの廊下を歩いていく。
あの時、蒼音の主張をもっと肯定していれば話せただろうか。わからない問いを頭の中でぐるぐると回していく。
「和人って蒼音さんにすっごい嫌われてるものね。心の中、凄かったわよ」
「まじか……」
なにかした覚えはないんだけど、嫌われてるんだよな。前に一度、好感度を見たことあったけど、確か-30とかだったな。
「嫌われているなら仲良くなればいいんです! みんなでご飯に行けばいいんじゃないですかね!? 」
「そもそも蒼音はそういうのには参加しないぞ」
キラキラした目で提案するティタニアに申し訳ないと思いつつも反論する。蒼音は打ち上げとか興味ないから参加しないし……仲良くなれるビジョンが今のところ見えない。
思わずついたため息は重さを持っており、しばらく俺たちの後をついてきた。
蒼音とどうすれば進展できるのか、どうすれば彼女を見て不安にならないのか……その答えは、残念なことに今日も出なかった。




