102話 日常のひとコマ
今日は休日で、ゆっくりしようかと思っている。千華と一緒にほのぼのしたい。
「千華、羊羹あるけど一緒に食べない? 」
「もちろん食べるわ」
お茶を淹れて2人でゆったりと過ごす。
「ちょっと近くないか……? 」
「別に、普通よ」
千華との距離が近い。肩が密着している、食べにくくないかそれ?
「千華との時間はいいな……ドタドタしてたから、この時間がとても安心する」
「それはよかった、じゃあ、」
そう言って千華は羊羹を口に含む。
そして次の瞬間、俺を押し倒してキスをした。
彼女の口の中にある羊羹が俺の口の中に移される。彼女の甘い唾液も流れてくるが、好きな人のものだからか嫌ではなかった。
むしろもっと堪能したくて彼女をしっかりと抱きしめる。そして彼女の口の中に舌を入れる。
「ふむっ、んっ……」
好きな人の唾液はとても蠱惑的で、媚薬のように身体に染み込んでいく。
俺は彼女と舌を絡める。その行為は、今にも誰か来そうな居間で行っていることもあってか、大きな背徳感に襲われる。
正直な話興奮してしまった。
「__ちょっ、なにするのよ!? いきなり舌入れないでよ! 」
「ごめん……ちょっと堪能したくなった……」
顔を真っ赤に染めた千華はとても可愛く、魅力的だ。
「びっくりするし、人が来ちゃうかもしれないんだから気をつけなさいよ! 」
千華は顔を赤らめながら部屋を出ていく。
口にあった羊羹を噛むと、今まで食べたどの甘味よりも甘かった……
その後1人で羊羹を食べ、お茶を飲んでリラックスする。千華には悪いことしちゃったかな……もうちょい自制しないと。
「和人くんお茶ください。寒いです」
俺が反省しているとティタニアが震えながら入ってくる。
そして、なぜか俺の隣に座る。
「はふぅ……こたつは温かいですね〜」
「なんで隣なんだよ」
「いいじゃないですか、私と和人くんの仲ですし。お姉ちゃんと思ってくれていいんですよ」
「断る」
「酷い!! 」
ティタニアはショックを受けている。なにか言いたげにこちらを見てくるが期待にはそえないな。
「ほいお茶」
「わーいありがとうございます! 」
お茶を渡すなり機嫌が良くなるティタニアを見て、チョロいと思ってしまう。ほんとに表情がコロコロ変わるな。
「温かいですね〜ほっこりします」
「だな、まだまだ寒いもんな、こたつとかはまだ手放せないな」
「春まで2ヶ月くらいありますね〜遠い」
ティタニアは春が恋しいみたいだ。気持ちはわからなくもない。寒いし。
襖の開く音が聞こえて後ろを振り返ると、千華が不機嫌な顔で立っていた。
「ティタニア、そこ私の場所なんだけど」
「ごめんなさい千華ちゃん! すぐどきます! 」
ティタニアはビシッと素早く行動する。まるで体育会系の集団行動みたいだ。
「ふぅ……落ち着くために少し冷やしてきたわ。顔洗ったりして」
「物理的に……? 」
強引な方法に思えるんだが。そりゃあ冷静にはなると思うけど……
「そういえば葉月ちゃんは出かけてるんですよね? 」
「あぁ、友達と遊んでくるって言ってたぞ」
「美味しいもの食べてますかね? 」
「それはわからないな」
ティタニアはお茶をすすって「はふぅ」と息を吐く。
「あれ、アンヘルはどこ行ったの? 」
「アンヘルならちょっとお買い物に行きましたよ。ノートがなくなっちゃったって言ってました」
「そうなんだな」
アンヘル、あの一件からかなり積極的になったんだよな。千華、結構モヤモヤしてそう。だからああいうことをしてくれたのかもだけど。
「アンヘル……最近和人にベタベタしすぎじゃない? 彼女私なのに……」
「千華ちゃんの気持ちわかります。私も妹が離れちゃった感じがしてモヤモヤしてます」
「あんたって姉離れの耐性なさそうよね」
それは思った。ティタニアってベタベタ行くし、ベタベタしてもらいたいって感じだもんな。妹が姉離れしたら泣きそう。
「あっありますよ、アンヘルが私とあんまり遊ばなくなっても平気です! 」
「普通に嘘ね。心の中が慌てすぎて変なことになってるし」
「しまった! 千華ちゃんの能力でバレてしまいました! 」
あわあわとするティタニア。だろうなとは思っていたけど。
「うぅ、アンヘルと遊べなくなるのはちょっと寂しいです」
「そういうのはまだ先なんだから、今から慌ててどうするの? それに、アンヘルならティタニアと遊ぶ時間ぐらい確保するわよ」
「そっそうですよね。あっそうだ、和人くんと結婚したらアンヘルも離れないかも……結婚しましょう和人くん! 私実は和人くんならいいかなと思っていたりするんですよ!? 」
ティタニアから放たれた言葉にお茶を吹いてしまう。千華の顔が少し険しくなる。
「急になに言い出すんだよ!? 俺には千華がいるんだぞ!! 」
「あわわわっ、だって和人くんと結婚したらアンヘルともたくさん遊べるかなと思いまして……」
「ティタニア、ふざけるのもいい加減にしなさい……? 」
ティタニアは、千華の怖い笑顔に気圧される。声はいつも通りなのにそこに含まれている感情が怖い。
「すみません!! ならば私を姉と慕ってください! 弟と妹を増やしたいです!! 」
「誕生日的には姉だけど、ティタニアは姉じゃなくて妹感が強いわね」
「そんな〜……」
ティタニアはしょんぼりとしてしまう。そんなに弟や妹って欲しいものなのか……? あんまりわからないんだが。
「ただいま帰りました。先輩、お隣いいですか? 」
しょんぼりしたティタニアはアンヘルが帰ってきたことで元気になる。だが、千華は警戒モードに入ってしまった。
「悪いわね、和人は私の彼氏だから隣なんて空いてないわよ」
「それは今の話ですよね? 将来は違っているかもしれませんよ? 」
俺を挟んでバチバチと火花を散らす2人。どうしてこうなった……
「千華さん詰めてくださいね? 失礼します」
「ちょっと待てアンヘル! 3人はさすがに狭い! 」
俺の制止も空しく、アンヘルは密着するようにこたつに入る。
そのせいか、千華との距離が一気に縮まる。勢いでキスしそうになってしまった。
心臓が早鐘のようになってしまう。
「先輩すみません、こうでもしないと千華さんに勝てないんです」
「絶対渡さないから……」
「なんでこんなことに……」
対抗心丸出しの千華と押せ押せのアプローチをするアンヘルに挟まれる。
ティタニアに助けを求めたいが、彼女は慌てすぎて駄目そうだ。あっお茶こぼした。
「先輩、大好きです♪」
「なっ!? 」
耳元でいきなり愛を囁かれる。ぐいぐい来るから心臓に悪い。
「和人、私の方が好きだから。愛してるし! 」
千華も負けじと愛を囁く、というより叫ぶ。
千華にそう言われるのは嬉しいのだが、今の状況は早く抜け出したい。挟まれるのちょっと辛い。
「うぅ……アンヘル〜……」
この状況は、葉月が帰ってくるまで続くのであった……
後に、葉月から「大変だね」と同情の目で言われたことは強く印象に残っている。




