101話 部活の手伝い
今日は花火と俺で男女両方のバスケ部の練習の手伝いに来た。他のメンバーもそれぞれ割り当てられた部活を手伝っている。
今の時期は3年生との卒業試合が控えているため、みな成長した姿を見せようと気合が入っている。
「よーし休憩! 」
主将の言葉で休憩に入る。俺もボールの供給から諸々の準備で動き回ったので休もう。
「お疲れっす」
花火は荒い息を整えながらこちらに来る。彼女はどのスポーツも上手いから3on3とか参加していた。
俺は裏方しか無理だな。バスケの経験はほんとにないし。
「それにしても葉月先輩どうしたんすかね? てっきりバスケ部の手伝いに来ると思ったんすけど、違う部に行ってたっすよね」
「あーそれな……」
なんて言ったらいいかわからず言葉に詰まる。あのことはできるだけ伏せないといけないんだよな……葉月の為でもあるし。
「……複雑な事情だ。あんまり触れないでやってくれ」
「そうなんすか? 心配っす」
「もう解決したことだから大丈夫。あいつの中では……微妙なところだろうけど」
今テニス部の手伝いに行っている葉月のことを考える。そろそろ少しでいいから話した方がいいと思うぞ葉月……難しいのはわかってるけど。
「んーまぁちゃんと話せるようになったら教えてほしいっすね。今は葉月先輩にも言えないことはあるのがわかっただけいいっすから」
花火にそう言われると親の気持ちになる。いいこと言って……成長したなって。
「そりゃあるだろ。人に言えないことなんて誰でも持ってる」
「ですよね〜実は私も今日の小テスト2点っていう秘密があるんでわかります」
「自分からバラしてどうする。ってかその点数なんだよやる気あんのか! 」
「しっしまった、今のは幻聴っす、なかったことにしてぐださいっす先輩! 」
こいつ馬鹿だ……なんで言ったし。
またまた学年末テストは苦労しそうだ。なんで1人で3人教えてるんだろ。誰かの手を借りたい。
「言っとくけど、なかったことにはできないからな……」
「あっあー! そろそろ休憩終わりにしないとっすね!! それじゃあ私は練習に戻ります! 」
花火は俺から逃げるように練習に戻っていく。あいつ、後で勉強させよ。成績低迷が続くと不味いし。
「俺も戻るか……」
俺も休憩を終え、また雑用作業に戻るのであった。
「じゃあ今日は終わり! しっかり休んで明日も頑張るぞ!! 」
部活が終わると、俺と花火はPSY部の部室に荷物を取りに行く。外は真っ暗で、6時を過ぎていた。
「これ大体みんなも同じ時間に終わったんっすかね? 」
「じゃないか? 運動部みんな気合い入ってたし」
俺最後の方なぜかゲームに参加させられたのだが。疲れた……
「あんまり動けなかったな……」
「しゃあないっすよ、先輩バスケ経験ほとんどないんですから」
花火が慰めの言葉をくれる。そうなんだけど、もうちょっと動きたかった。手伝いに来たわけだし。
「でもシュートは上手かったっすね。能力使ったんすか? 」
「いや、ある先輩に教えてもらったからできたってだけ」
その先輩というのは晴哉さんのことだ。あの人はなぜかバスケでシュートは上手く、スリーポイントは結構入る。
前に葉月、千歳さん、晴哉さんとバスケをした時に教えてもらったのだ。指の感覚が一番大事らしい。
「部室に誰かいますかね? 」
「いるんじゃないか? 葉月とか待ってそうだけど 」
そんなことを言いながらドアを開く。中には誰かいるようで、明かりがついていた。
「あっお疲れ〜」
中には葉月がいた。こちらを認識した瞬間元気そうに手を振る。
「お疲れ、みんなはまだか? 」
「いや、ひと足先に帰ったよ。もうこんな時間だし、終わった人から帰ってもらったんだ。千華は不服そうだったけど」
葉月のからかうような表情を見てなんとなく察する。俺のこと待ってようとしたのかな……だとしたら嬉しいのだが。
「花火も早く帰りな。私はちょっと和人と話してから帰るから」
「そうなんすか? じゃあお疲れ様っす! 」
花火は素早く帰りの用意をすると、元気よく出ていく。
「で、話ってなんだよ? 」
花火を見送ったあと、俺は葉月にそう問いかける。
真剣な相談だろうことはわかる。わざわざ2人の空間をつくったわけだから。
「あーその……話ってよりかは確認なんだけどね、あの子いた? 」
「……そういうことかよ。気にしすぎだ、なにもないんだから考えんなよ」
「それはそう……なんだけどさ……」
葉月は苦い顔をする。
「でも、私の知らないところでなにかあるかもだから……気になっちゃうんだ」
「あいつが葉月の知らないところでなにやってようが気にすんな。お前にはちゃんといるだろ? 信頼できる人」
怯える必要なんてない、葉月にはちゃんと信頼できる人が、安心できる場所があるんだから。そしてそれを作ったのは紛れもない葉月自身なのだから。
「さらっと言うよねーそういうの狡いと思う」
「別にいいだろ、当たり前のこと言っただけなんだから」
「ふーん……」
葉月はこちらをなにか言いたげな様子で見る。
「なんだよ? 」
「千華もティタニアも冬ちゃんも、後輩たちも、アンヘルも、先輩方も、ちゃんと信頼できる人はいるよ。でもさ、私の中で一番信頼できるのって和人なんだよね」
珍しく神妙な面持ちで話す葉月。話す内容が内容だし当然か。
「あの時言ったことは変わってない? これだけ確認したかった」
あの時、その言葉で中学生の時のことを思い出す。
ちょうどあの時は大きな事件があって葉月が精神的に参ってたっけ。
「……お前がどんな奴だろうと俺は自分で見たお前を信じるし、絶対独りにはしない」
「あっ、」
「今でも変わるわけないだろ。お前が俺を信頼できる人って言ってくれたように、俺だって葉月のこと信頼してんだから」
葉月は数秒間固まった後、唐突に笑い出す。
「なんで笑うんだよ!? 」
「いやごめん。だってあの時言ったことちゃんと覚えてるんだもん。もうとっくに忘れてると思ってたからさ……凄い、嬉しいんだ」
安心しきったようなその顔は、少し幼く見えた。5歳児が見せる顔みたいになってる。
「忘れるわけないだろ……大変だったんだから」
「うん、あの時はほんとにありがとね……そして今でも味方でいてくれてありがとう……」
「最後の方なんて言ったんだよ? 聞き取れなかったんだけど」
最後の方は小さい声だったのでなにを言ったのかわからなかった。
「さっ、帰ろー! 明日からも頑張れるぞー!! 」
「濁すなよ、あっおい! 」
葉月はダッシュで昇降口まで走っていってしまう。俺は電気を消して、戸締りをすると、慌てて追いかける。
結局最後になにを言ったのかはわからなかったが、本人は元気になったし、良しとするか。
その後、帰り道全てが上機嫌な葉月と帰ったのだが、部活でやりたいこととして無茶なものをいくつも提案されたので全て却下した。特にペンギンバンド計画はよくわからなかった。




