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能力者は青春を謳歌出来ないと思った?  作者: 白金有希
2年生編①
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10話 休日に千華と

  クラスマッチも終わり、あとは終業式を待つだけとなったある休日の昼下がりのこと、俺はめぼしい本を買いに大きな本屋に来ていた。


  人の数はまちまちで、色々な年齢の人が入り浸っている。


(さてと……なんかいい本ないかな……)


  現在、家にある本は大体読んでしまったので、新しい本を探しに小説コーナーにいた。


(告白、砂の女、こころ……ジャンルは違えどどれも名作だな。どれか買ってみようかな……)


  気になる題名の本や名作と話題の本のあらすじを見てみて、買う本の目星をつけていく。




  (ライトノベルか……そういや読んだことなかったな。)


  本を選んでいる最中にライトノベルコーナーが目にはいり、興味をもつ。葉月がよく読んでいるやつだっけ。


  どうせなら一度見てみようと思い足を運ぶ。


  すると、

「あっ、」

「げっ、」

  見知った顔を見つけて思わず声が出る。その人は俺を見て、会いたくなかったと言わんばかりの顔と声をしていた。


「えっと……偶然だな……」


「えぇ、私は偶然でも会いたくなかったわ。」


  ここまで反応して何も喋らないのも変なので、とりあえずその人、茶髪の女子に話してみる。だが、本人はかなり嫌そうな返事をする。


「相変わらずひどいな、千華。」


「別にいいでしょ。」


  茶髪の女子、千華はため息をこぼして応じる。千華の私服姿は正直言って、可愛くて落ち着いた印象をあたえていた。


「あんたこんなとこまで何しに来たの?」


「ただ本を買いに来ただけだ。」


「そっ、それじゃあとっとと消えてくれる?私はもう少しここにいるから。」


「いや俺も気になってここに来たんだが……てかなんでいつもと口調が違うんだよ。」


「別にいいでしょ、ここに私の知り合いがいるわけでもないし。」


「まぁ……そうか……」


「ここにいるんだったら私の邪魔はしないで。」


  千華はそう言うとライトノベルの方に集中し始めた。俺も面白いのを探してみよう。


(なんだこれ……?すごいタイトル長い作品だな……いったいなんの意味が……)


  俺は初めて見るライトノベルに戸惑っていた。タイトルが長いし表紙絵や挿し絵が少し過激なものもあるし、正直言って未知の世界だ。自分だけ違う世界へ行った感覚なんだが……。


「ねぇ……もしかしてあんた……ラノベ初めてなの?」


  こんな俺の状況をみかねてか千華がジト目で聞いてくる。


「あっあぁ……実は初めてなんだ、こういうの。」


  俺が素直に答えると千華は持っていた本を閉じ、本棚に目を移す。


  少しすると千華は本を何冊か取って俺に渡す。


「はいこれ、初心者だったらこういうのの方が読みやすいわよ。」


「ありがとう……でも急にどうしたんだ?」


「いや別に、あんたが戸惑ってばっかだとノイズが多くなるから助けただけ。」


「そっか……ありがとな千華。」


「……お礼言われる筋合いないんだけど。」


  千華が渡してくれた本を少し見てみる。さっき読んでたやつよりも断然読みやすいなこれ。


「千華ってよくラノベ?って読んでるのか?」


「いつもってわけじゃないけど、わりと読む方ね。」


「へぇー。それじゃあさ、オススメの本とか教えてくれないか?実はラノベは興味あるんだけどどんなのが面白いのかわからなくて。」


「なんで私が……自分で探しなさいよ。」


「自分で探したら何日かかるか分からないし。嫌だとは思うけど頼む。」


「はぁ……わかったわよ。言っとくけどこれはかしだから。絶対何かのかたちで返してもらうからね。」


「はいよ、ありがとな。千華って結構優しいよな。」


「はぁ?何言ってんの?普通にキモいわ。」


「すっごい嫌そうな顔するなお前……」


  嫌そうな顔をしながらも、ちゃんとオススメの本を選んでくれる千華と一緒にラノベ探しがスタートする。


「まず聞くけど好きなジャンルとかある?」


「好きなジャンルか……推理系とか好きだな。」


「まぁそこら辺は普通か……」


  千華は慣れた手つきで本を二冊取る。


「これとかは面白いと思うわよ。推理系じゃないけど。」


「はえ~すごいな。」


「あとあんた哲学系好きそうだからこれも。」


「確かに好きだけど……なんで分かったんだ?」


「なんとなく。」


「あっあぁ………」


  俺、心の中で思ってなかったんだけどな。勘なのかな?


「それにしても千華ってすごいよな。オススメしてくれた本どっちも面白そうで、俺でもちゃんと読めそうだ。」


「ほめられることでもないわよ。」


「また教えてくれると助かる。」


「……気が向いたらね。」


  最近千華のことが少しずつよくわかってきた気がする。千華って素っ気ない口ぶりだけど結構優しいんだよな……腹黒いけど。でも、一緒にいて自然と嫌ではないんだよな。


「そういえば単純に気になったんだけど、和人っていつもどんな本読んでんの?。」


「いつも読んでるやつだと専門書とかかな。科学についての本とか。」


「???」


「あとほかだと……六法全書とか読んだな。まだ途中だけど。」


「ちょっと待って……えっ?あんたいっつもそんなの読んでんの?」


「そうだな、家では大体さっき挙げたやつを読んでるな。」


「偏りすぎでしょ!男子高校生ならもっと読むものあるでしょ!?漫画とか雑誌とか。」


「漫画は数回しか読んだことないな。雑誌は……一、二回だな……。」


「うんじゃあ小説は……?」


「小説は読むぞ。雪国とか三毛猫ホームズとか夏目漱石の作品とか、わりと広めで。」


「小説読んでることにはホッとしてるけど、だからって偏りすぎでしょ……なんで専門書とかあるのよ。」


  千華はそう言って顔に手をあてる。いつもの彼女からは想像できない困った様子だった。


「それは、母さんが科学者でな、資料としてだったり研究のヒントになるかもで買ったりしててたんだ。なんのヒントになるのか分からないけど経済学や株、数学の本もあるぞ。」


「……あんたもっと漫画とか見た方がいいわよ?同年代の男子からすっごいずれてる。それじゃあ話すときに絶対困るし。葉月に漫画やラノベ借りれば?私も貸すけど。」


「うん、そうするよ……って千華も貸してくれるのか?なんか申し訳ないんだが。」


「遠慮なんてしないの。ただ、私は自分の好きな作品をあんたに読んでもらいたいだけだし。私の好きな作品、今十巻まで出てて今から揃えるのお金かかるだろうから貸してあげる。でも汚したら殺すから。」


「そこはめちゃくちゃ気をつけるよ。てかどんな作品なんだ?千華の好きな作品って。」


  俺は気になって質問する。千華が好きな作品ってどんなのだろう……。


「私の好きなのは……これ。」


  千華が本棚からすぐさま取って渡してきたのは、表紙に可愛らしいエルフの絵が描かれている見るからにファンタジー作品だった。


「えっとなになに……『転生してエルフになりましたが私は元気で冒険者やってます』、やっぱりタイトル長いな。」


「ラノベにおいてタイトルの長さはもはや愛嬌よ。この『転生エルフ』はよくあるチート主人公系の話じゃないのよ。」


「チート主人公……?」


「そっ、よくあるのよ……異世界にとばされて神様からもらったチート能力で無双するハーレム系の話が。」


  千華はため息をつきながら説明してくれる。その表情は落胆の影があった。


「しかもこのての話で共通してるのが、主人公が大した努力もしてないのにモテモテになってハーレムつくってることなのよね。しかも似通った作品が量産されてるから正直がっかりだわ。」


  なるほど……つまりは流行りにのっかてる感じか。最初に無双系が売れたから流行にのって、似ている作品がどんどんつくられる。まぁ爽快感はありそうだよな。


「でね、『転生エルフ』の何がすごいって言ったらストーリーもいいんだけど一番は文章力なのよ。この作品は読むと自然にひきこまれるし、伏線が上手く散りばめられてるから何回読み返しても面白いの!」


「なっ、なるほど……」


  『転生エルフ』の説明に入ると途端に表情と目に輝きが戻り、熱が入っていく。


「すごい面白いしかなりオススメよ。貸してあげるからしっかり読みなさい。」


「ほんとに何から何までありがとな。このかりはちゃんと返すからな。」


「そうしてくれないと困るんだけど。」


  千華は素っ気ない返事をする。そんな彼女の様子を見て少し微笑ましくなる。


「それにしても、『転生エルフ』の作者の日陰蓮さんってどんな人なんだろ……?いつか会ってみたいな……」


  千華はどこか遠くをみて言っていた。その表情はとても儚く美しかった。この願いは本心からきているものだろうというのが言わずもがな分かった。


「大丈夫、きっと会えるよ。」


  そう言いながら千華の頭をなでる。


「なっ……何してんのよ!?女の子の頭を無遠慮に触るなんて信じらんない!死ね!!」


  頭をなでられた千華は顔を赤くして猫みたいに威嚇してくる。


「ごめんな?千華を無性に守りたくなって……つい。」


「はぁ?何言ってるのあんた。別に和人なんかに守ってもらわなくてもだいじょぶだし。」


  千華はそう言うと一歩俺から距離をとる。警戒されてるな~これ。ちょっと話を変えてみるか。


「あっそうだ、これから近くのカフェに行かないか?さっきのお詫びもかねて奢るし。」


  千華にそんな提案をしてみる。


「……まぁ、財布として使ってあげるわ。感謝しなさい。」


  千華は「しょうがないから付き合ってあげる」と言わんばかりの雰囲気で俺と一緒にカフェに行く。





  さて、カフェに着くと店員さんの案内で二人席に座る。店内を見渡すと女性客が大半をしめていた。そういやここの店、初めて来たからこんなに女性客が多いとは思わなかったな。


「あんたここのお店初めてなのね。ここってパンケーキが名物だから若い娘が多いわよ。」


「そうだったのか……」


「で?あんたはなに頼むの?私はコーヒーとイチゴのパンケーキでいいわ。」


「そうだな……うんじゃあコーヒーとバナナのパンケーキにしようかな。」


「はいよ、それじゃあ注文頼むわね。」


  千華はいかにも慣れた様子で注文を頼む。そのときの声は、いつものみんなの前での声だった。


  注文をしてから数分が経つと、パンケーキとコーヒーが運ばれてくる。パンケーキは美味しそうでつい写真に撮りたくなるようなものだった。


「あーそうだ和人、あんたの腕とか写すけどいい?」


「いいけど、なんでだ?」


  千華にそう聞かれたが、拒否する理由はないので承諾する。すると、千華はスマホでパンケーキを撮り始めた。SNSにあげるやつかな?


「そんなの彼氏とデート中ってつぶやく為だけど?」


「いや待て待て!なんでそんなことを!?」


「なんでって、男子から変なアプローチとかをもらいにくくするためなんだけど。」


  千華はさも当然のように言う。確かにこうすれば千華に対するアプローチは抑制されるな。


「まっ、そんなことはいいからとっとと食べちゃいましょ?」


「そうだな、いただきます。」


  俺はパンケーキを早速口に運ぶ。ふわふわな食感と優しい甘さが口の中に広がりとても美味しい。自然とパクパク食べられる。


「美味しいでしょ?このお店のパンケーキって見栄えだけじゃなくて味にもこだわってるから満足度は高いわよ。」


「詳しいんだな、ここにはよく来るのか?」


「わりと来るわね。友達と一緒にだけど。」


「そっか、冬とは来ないのか?」


「一、二回はある。冬は少し緊張してたけどね。」


  俺たちは時折会話しながら美味しいパンケーキを食べる。なんか……これって……


「デートみたいね。」


  その瞬間盛大に吹き出す。その様子を見た千華はジト目で「何やってんの?」と言ってくる。


「いやだって千華がデートみたいとか言うから。」


「あんたの心をよんだだけでしょ?」


  千華はおどけていて、俺の戸惑う様子を楽しんでいるように見えた。


「……そういえば私って異性と二人で遊んだのってこれが初めてかも……これが初デート……?っ~///」


  千華は突如として何かを考え始めたと思ったら自爆したのか、顔を赤くしてテーブルに突っ伏した。


「なんで初デートの相手が和人なのよ……最悪だわ……」


「その言い方は酷いな。」


  突っ伏した千華は俺に対しての不満を数分間口にし続けた。




  やがて、パンケーキを食べ終わり会計を済ましてお店を出ると、時間は四時をまわっていた。


「私はそろそろ帰るわ。」


  ショックから立ち直った千華はそう言って駅方面に歩いていく。俺もそろそろ帰るか……


「せっかくだし家まで送ってくよ。」


「いや、なんでそうなるわけ?」


  俺の発言に対して千華は疑問を隠しきれずにいた。やっぱそうなるか。


「もうちょい話したいからっていうのと、千華を危険な目に遭わせないためかな。」


「はぁ……勝手にすれば?物好き。」


  ということで千華に同行して駅まで歩く。その道中でいろいろな話をした。人間関係のことや部活、勉強のこと。千華とこんなに話したのは初めてかもしれない。


「ねぇ、なんでこんなに私と話そうとするわけ?最近になってどうしたの?」


  話しも一段落したところでそんなことを聞いてくる。


「千華が冬好きの変態だけじゃないことが分かったからかな。あと、自分を変えようとするキッカケがあったから。」


「キッカケって?」


「天夜さんや仲のいい先輩と話していく中で今までの灰色の自分から、少しずつでいいから自分らしく色をつけるって生き方の方がいいって教わっただけだ。」


「そう……」


  その時の千華は、珍しく神妙な面持ちで俺を見ていた。


「千華と話していくなかでさ、お前は一見素っ気ない気がするけど、実はとっても優しい子ですごく守ってあげたい気がした。」


  普段ならここで何かアクションを起こすはずの千華は今回に限ってはおとなしかった。


「だからさ、俺はお前の愚痴でもなんでも聞くよ。もちろん友達としてだけどね。」


「なんで……?」


  ここで口を開いた千華はなんというか、今にも壊れそうな感じがした。それに、表情も少し暗い。普段の千華からは全く想像できない様子だ。


「なんで和人は私を守りたいなんて思ったの?」


「それは……」


  俺は一呼吸おいて、

「最初はなんとなく思ってた。けど、今なら分かる……その表情が、今にも壊れそうな千華が、震えまくってる声が、……嫌だからだ。」

 はっきりとそう伝える。


「かわいそうなんて言葉は使わない。今の千華からこれ以上ひどくしたくないからだ……だから嫌だって伝える……」


  俺は千華をまっすぐ見据えて真摯に伝える。これによって関係が壊れることも想定していた。


「そう……ドッキリなのにめっちゃ真剣ねあんた。」


  千華は下を三秒ほど向いて、顔をあげるといつもの元気な彼女に戻っていた。てかドッキリなの?


「あんたがどんぐらい真剣なのかみたくてやったら思いのほか大成功ね。笑いそうだったわ。」


「なっ、おまっ、」


「言っとくけど騙される方が悪いのよ。」


「ぐぬぬぬ……」


「でもまぁ……その真剣さを信頼してこれからはあんたを頼ってやるわ、バ和人♪」

 好感度30→60 性格E→D


  そう言って千華は花のような笑顔を向けてくる。その笑顔はとっても可愛くて、思わずドキッとした。てか好感度と性格上がったな。性格に関しては、俺の主観が半分程度入るため、正確な数値にはなりにくいのが特徴だ。好感度はまぁ……結構嬉しいな。


「さっ、帰るわよ。」


「そうだな。」


  少々ご機嫌で前を歩く千華の背中を見ながら俺は思う、あれは本当に演技なのか?それにしてはあまりにも……





  このあと、俺たちは電車に乗り、千華の家がある、西園駅のひとつ先の駅の金岡駅で降りる。降りたら、千華と一緒に家まで十五分程度歩く。


「それじゃあ、また学校で。」


「えぇ、また学校で。」


  俺は千華を家まで送ったあと、少しずつ暗くなっていく空を見ながら家路についた。














「……ただいま……」


  家に帰ってきて早々に今日のことを思い出す。今まで、楽しいとか考えたことのなかった彼との時間は認めたくないが、少しずつ楽しくなっていた。クラスの友達と一緒にいるよりも楽しいと思える。彼が最近変わり始めたことと何か関係があるのだろうか?それは分からない……が、

「柊和人か……」

 時折彼が羨ましいと思う。最初に会ったときの彼は死んでいた。もちろん生命的にではなく、精神的に。だからといって鬱などではなく、将来に対してどこか誰かを真似しようとしているところがだ。誰かの真似をして、自分をちゃんとみないことは精神的に死んでいるのと同じだ。


  たが、彼は他の人に支えられてようやく自分の色を持ち始めた。私は彼の周りの環境が羨ましい。私の周りは荒れている。もちろん冬や葉月などいい友達や後輩に恵まれてるとは思うが、一番の原因は、

「あんた帰ってきてたの?ご飯勝手に食べなさいよ……。(全くさっさと出ていかないかしらこの子。ほんとに気味が悪い……。)」

 親だ。私の親はいつの日からか私を酷く嫌うようになった。理由は単純、私がテレパシーを使えるから。


  私はこれまで助けを求めたくても求められなかった。能力がバレたら他の人も親のように接してくるかもしれない。それに、能力がバレるのが大丈夫だとしても父親は会社の社長で、警察や弁護士、国会議員などに知り合いをたくさん持っている人物だ。父親がその気になれば、揉み消すことなど造作もないだろう。


  この家での生活はどこよりも居心地が悪く、最悪だ。私が意識しなくても罵詈雑言が聞こえてくる。吐きそうになることもしばしばある。


  でも、大丈夫、あと一年半の辛抱だ。一年半耐えればこの家から出られる。一人で生活できる。


  大丈夫……大丈夫……私ならきっと、できる。


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