動けない
確信した。確信せざるを得なかった。確信したくなかった。でも、無残にも事実を突きつけられる。だから、か。そうだったから、か。と、過去の出来事の辻褄が合っていく。これを踏まえて証明完了と言わないなら夢見る愚か者だ。
ちょっとした期待だって、初めは火薬の一粒に過ぎない。しかし、塵も積もれば山となる。そうして何かの拍子で爆発する。爆発は花火のように美しくて、一瞬だ。爆発の後には燃え切った火薬の匂いと切なさ――挙げればキリがない――が残る。
虚無感は心を食い散らかして穴を開ける。切なさは首を締めて食べ物を通せなくなる。悲しさは気持ちを黒く染めて感情を塗り潰す。後悔は脳内を支配して全身の機能を停止させる。
自分が自分でいられなくなる。自分に対して辟易としてしまう。いや、正確には自分の運命に。その辺に投棄できるものでもない。生まれた時から張り付いてこびりついて落ちることはない。それが運命だから。
でも、でも、でも......。俺は抗おうと、抗えると、思ってしまった。前進に犠牲は付き物。進歩に退化は宿命。もしもこの法則が崩れるのならば、崩れているのならばここはすでに理想郷のはずだ。
後悔は反省。そうはいっても、答えは分からないまま。いずれ分かるなんて悠長なことも言ってられない。それ以前に、答えは毎秒変わり続けている。そんな際限なき世界でどうやって答えを探し出せばいいのか。俺には分からない。
誰かが喜べば誰かが悲しむ。今の世界は均衡が保たれている。誰かが生まれれば誰かが死ぬし、誰かが幸せになれば誰かが不幸になる。土台がいるからこそ上がいる。俺はその土台。嫌だ。そんなのは嫌だ。でも、事実だ。それは自分がよく知っている。
諦められない。必死にしがみついてみるが、俺の体力が持つのも時間の問題である。首の皮一枚繋がっていても辛いだけだ。もう、いっそのこと自ら断ち切った方が楽になれる。まぁ、そんなことをしなくても諦めざるを得ないのだけれど。
窓が一つしかない塔へ登りたい。毒林檎を食べた少女を助けたい。家系によって恋を阻まれたい。結局は変わらないのだが。どれもこれも、一つの確率に過ぎない。両想いになるのに確率があるとするならば、俺は確率を削ぎ落とす、いわゆる土台なのだ。
俺に確率が巡ってくることがなければ勝率があるわけでもない。それを示唆するように、俺は何度も失恋した。自覚がないだけ、あるいは記憶が抹消されたならば、おそらく世界で一番恋をしたと豪語できる。もちろん、記憶にあるだけでも相当な数の恋をした。どれも実ることはなかった。
実は確率を信用したくなかった。だから、必死に自分がダメな理由を考えた。そうすると、たくさんあった。恐ろしいほどに。自己嫌悪に陥るほどに。修正しようとしてできるほどの数でもない。まず、このことで絶望した。
『恋をすると綺麗になる』と聞いた。科学的にも証明されている。それ以前に、好きな人に好かれたい一心で自分磨きに励むだろう。もしかしたら、俺の失恋はここから来ているのではないだろうか、と一つの仮説を立てた。
実際に、好きになったことのある人で、その好きになった時に恋をしていたという人は多い。それに、過去に好きだった人の恋が実った後、本格的に彼女が可愛く見てきた。
俺の場合、普段ならば胸をときめかせることのない相手に対して急に感情が溢れ出すのだ。まるで、それまで自覚なしでコップに水を注いでいたかのように。
もしかしたら、俺が好きになる人はその少し前に恋をしているのではないか。
そして、今回もそうだ。たしかに、前々から可愛いなとは思っていたが、きっかけもなしに溢れた。彼女が恋をした、あるいは恋が実ったからだろう。絶望は見えている。苦しいのは見えている。抑えられない気持ちをどうすればいいのだろうか。俺は......どうすることもできない。手放すことに怯えて今日も立ち止まる。
移り変わる世界の真ん中で、俺は1人置いていかれる。寂しさに吹かれ、錆びてしまいそう。心の底から世界を恨んだ。向こう側に現れた影は、俺の好きな人を攫っていった。