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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
95/95

95 種まき

新浜(しんはま)だより(最終回)

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 2000年8月号掲載


95 種まき


「いましたよ。3羽!親にべったり、という感じでもないんです。頭と胴体の比率があまり変わらないから、10日目くらいなのかな。きっと小島岬のヒナですよ。いやあ、よかった」

 セイタカシギのヒナが今年も確認された。5月に見られた3つの巣で、卵が2週間ほどでそっくり消えてしまって以来、はらはらしながらずっと心待ちにしていたニュースだ。

 昨年から、コアジサシを目標にした営巣場所確保をかなり大がかりに進めている。今年は時期をずらして2カ所に手をつけ、面積も一挙に昨年の2倍以上にひろげた。秋のうちに、まず全体の草刈りからスタートして、仕上げ用の貝殻確保、漂着しているゴミ片づけ等時期が限定されない作業をぼちぼち進めておき、春先になってからいよいよトラクターがけ、除草、踏みかため、貝殻まきといった仕上げにとりかかった。 

 今年から始めた小島岬の現場は観察舎のま正面にあたり、休館日中心に作業をするよう心がけたため、仕上がりは5月にずれこんでしまった。雨が多い今年は草ののびがはやく、作業がなかなか追いつかない。おまけに雨後は水たまりが広がって機械が入れられない。それでも、トラクターがけなどをぜんぶ終える前に、観察舎からよく見える位置でセイタカシギがすわるようになり、卵があるに違いない、とみんな大喜びした。

 ところが、6月9日に強い南風が吹き荒れて、ふだんより40㎝以上も高くなった潮で、小島岬のほとんどが冠水してしまった。潮をかぶった岬では、8羽の親鳥がなすすべもなくおろおろしていた。4つがいもいたのだ。1時間ほどで潮は下がったが、長時間海水につかった巣の親は卵を放棄した。それでも卵を抱き続ける1組が見えた。

 やがてアシがのび、観察舎からは鳥がいるかどうかもわからなくなったが、6月20日ころから親鳥が盛んに警戒性を上げるようになった。カラスが来ると鳴きさわぎ、激しく攻撃をかけて追い払っている。ヒナがいる時の行動だ。高潮にも負けず、ヒナがかえったに違いない。

 親の警戒行動は10日たっても続き、期待が高まっていた矢先、7月2日、保護区の中央部にあたる竹内が原でヒナが見られた、という朗報。

「やっただけのことはあるんですよ。コアジサシが繁殖しなかったのは残念だけど、去年の今ごろはコアジサシそのものが見られなかったのに、今年はいるんですから。来年もまたやるのかな」

 生きものにとって住み心地のよい環境づくりは、手探り、試行錯誤の連続。それでも反応はすばやく、時々刻々と手応えが感じられる。昨年はこういうやり方をした、結果はこのようだった、だから今年はこうやってみよう・・・・・・そのためには、今月はこう、今週はこう、今日はこうやって作業を進めよう・・・・・・手だけではなく、頭も心も気持もフルに働かせてとりくむ面白さ。若手スタッフのひとりひとりがその面白みを感じとり、自分で考えて動いてくれるようになるありがたさ。

 湿地の造成(再整備事業)が行なわれ、本格的な水入れを開始してから今年は3年目。主人、蓮尾嘉彪の定年退職・非常勤職員化という人事にともなって、非常勤スタッフが一挙に増加してからも、同じく今年が3年目。少しずつだけれど前進している。獲得してきたものがある。

 今年度、調査や管理作業の一部が市川市から行徳野鳥観察舎友の会に委託された。友の会は3月30日付けで特定非営利活動法人(NPO法人)の認可を受けている。長年の目標である「よみがえれ新浜」というテーマに向かって、行政と協力しながら進んでゆくための大きなステップ。

 妙典の土から芽生えた蓮が、今年も大きなつぼみをいくつも上げた。新浜のかけらがここにも育っている。心の中に蒔かれた種子も、この蓮のように芽を出すチャンスを待っているに違いない。いつも現在進行中の私たちの保護区。そうした種子を生み出す原動力になるだろうか。どうぞ見ていてくださいますように。

 長い間「新浜だより」をご覧いただき、ありがとうございました。


 日本野鳥の会東京(この稿を掲載していた時には日本野鳥の会東京支部)の機関誌「ユリカモメ」に連載させていただいた「新浜だより」。行徳鳥獣保護区の湿地復元が本格的にはじめられ、今の姿へとつながって行くいちばん面白い時期の様子ではなかったかと思います。週2回、各1話を追加というペースは、やってみると何とか手に合って、あまり無理なく続けることができました。この調子で、地域誌等に掲載されたあれこれの原稿も、またお目にかけたいと思います。面白がっているのは筆者だけ?ま、それでも筆者一人分の満足は得られるのだから、それでいいかな。

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