94 脊椎動物門
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 2000年7月号掲載
94 脊椎動物門
「いいニュースがあるわよ!」
水田まわりに手を入れて保護区から戻られた町田夫妻。在来種のカエル類を中心に保護区内に定着させようと、夏の時期はほとんど毎週のように通っておられる。この春はニホンアカガエルの卵塊はけっこうたくさん見られたのに、育ったオタマジャクシが少ない。昨春思いきり多かったマルタニシもぱっとしない。幸いに、少なくとも数個体のトウキョウダルマガエルやアマガエルは無事に冬を越したようで、何か所かでぽつりぽつりと声が聞かれている。もう一押し定着に勢いをつけて、保護区内の個体群をしっかり確保したい、というのがご夫妻の目標で、今年もフィールドにしておられる埼玉県の吉川方面から、カエル類の誘拐―導入を続けておられる。
「メダカ!間違いなくメダカ。この間から気がついてはいたんだけど、いーっぱいいるの。水車池の下あたりで、水草はいちおうあるけど、他には特にぱっとしない池のところ。その池はメダカだけみたい。去年の夏にはぜんぜん見つからなくて、がっかりしていたんだけどね」
日本在来種のメダカはもともと保護区周辺にいたし、再整備事業で池を一挙にふやした時にも導入をはかって、1,2年は北米原産の帰化種であるカダヤシをしっかりしのぐ勢力だったのに、いつの間にかカダヤシが圧倒的に多くなってしまった。卵胎生のカダヤシは水の汚濁に強く、水中の水草に卵をうみつけるメダカよりもてっとり早く個体数をふやせるようで、同じ池に両種がいると、メダカのほうが競合に負けてしまう。
保護区の再整備事業の中心でもある浄化池は、生活排水を水源として、浄化の過程で水生生物をふやして行くことを基本としている。もとはなま下水なのだから、水質がよいわけはない。年に2回、ほぼ完全に干し上げてトラクターをかけ、天地返しや土壌改善をはかっている。水田に近いローテーションを組んで、水田の生物相の復元をめざしているわけだが、こうした条件はカダヤシよりもメダカにとって若干有利なのかも知れない。
5月21日、1回目の田植えを無事終えた。6月下旬には、時期をずらせたもち米の田植えが待っている。苗の生長遅れ、田植え直後の葉やけ、苗を倒すカルガモ、と、あれこれ気をもんだけれど、半月後の現在は、すくすくと育った苗が水面に影を映している。「苗代奉行」こと担当の瑞香さんは、本業の傷病鳥舎の世話を終えると、時間をつくっては田の様子を見に行き、戻ると「広報部長」として展示室や傷病鳥舎の掲示板に手を入れ、と、忙しくすごしている。
今週いっぱいで、繁殖場所整備の春の部は終了。第一現場・第二現場、と欲張って昨年の3倍近い面積をこなそうとしているわけだが、コアジサシの定着はどうも望み薄らしい。それでも、観察路からよく見える小島岬の第一現場で、セイタカシギが少なくとも2組座っている。卵を抱きはじめたようだ。うろうろしているカラスから卵を守り通せるとよいのだが。
「これまで見たことのない蛇がいたんですよ」
草を敷いたバケツの中の蛇くんは、1m近くありそうな大きな個体。つやつやした枯草色の体や精かんなスタイルはシマヘビによく似ているが、縞がない。きれいなオレンジ色に黒ぶちがはいった腹面から、ジムグリとわかった。ふんだんにいるアオダイショウとシマヘビに加えた3種類目の記録。これだけ蛇がいるのは獲物になるネズミやカエルが多い証拠のはず。ちょっとうれしい。
昨年の秋に2頭のマスクラットがいかにも求愛らしい様子で追尾して泳いでいるのを見た「田の字池」で、なんとなく感じが幼く、体も小さいマスクラットが1頭、ヒメガマをせっせと食べているところに行き会った。根もとから食い倒しておいて、まず10~15㎝の長さに食いきり、両手で立てて持つと、キュウリでも食べるような様子で縦に食べてゆく。思わず見とれてしまった。
魚、蛙、蛇、鳥、哺乳類。保護区の脊椎動物門ぜんたいが少し豊かになってきたような気がする。うん、いいなあ。




