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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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93 みどりの国へ

新浜(しんはま)だより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 2000年6月号掲載


93 みどりの国へ


 路上のあちこちでクマバチがなわばり飛行をする季節になった。体長が2㎝以上もある丸っこい大きなハチが、地面から2m、ちょうど頭の高さくらいのところをゆうゆうと飛んでいる。自転車で走ると、よけそこねたハチがおでこにこつんとあたったりすることもある。なわばり飛行をしているのは雄バチばかりなので、毒針になる産卵管がなく、刺されることは決してない。そのことを何年か続けて張り紙や口コミで宣伝したせいか、ハチがこわいという苦情はめったに聞かれなくなった。ちょっとうれしい。

 春先の低温がきいて、藤やニセアカシアの開花が遅い。スイカズラ、トベラ、ノイバラという3種の「初夏の香り」の花たちもまだこれから。それにしてもあたりの新緑はみごとだ。芽吹きのやわらかい黄緑がみるみるうちに濃い色に変わって行く。カモメやカモの大半が渡去して、カワウ以外の鳥影はまばらになったが、あたり一面に生命がみなぎる季節だ。

「トビハゼはたくさんいますよ。干潟一面、トビハゼとカニ。それに、下北岬ではセイタカシギとコアジサシ、一組ずつですけど、しっかり座ってます。いいですねえ」

 冬の間使っていなかったトビハゼルートの手入れをした「第三の男」こと川上さん。すぐ翌日の観察会からこのルートが役だった。大黒柱1号氏の一樹君の采配である。生きものの様子を見ながらどの作業を優先するか決める、利用される方々の興味を考える、来てくれた働き手や天候をみて決断する・・・・・保護区の管理作業というのは、基本的には単純な肉体労働だが、それなりにめまぐるしい頭の回転を必要とする。われらがスタッフ一同、体も頭もずいぶん慣れてきた。

 「みどりの日」である4月29日、丸浜川にかけられた橋から西端部分の緑地、延長約600mの部分の一般開放が始まった。千葉光行市川市長の選挙公約でもあり、市長をはじめ、市議会・県議会の両議長の臨席によるオープニング・セレモニーを皮切りに、これまで厳密に人の立ち入りを制限してきた保護区が、一角のみ、土日祝日の日中のみではあるが、自由に入れることになった。

 初日の利用者は384名、翌日は371名、5月3日は少し減ったがそれでも301名。すべり出しは順調と言ってよいのだろう。この1年以上にわたって、難問の中でもいちばん気が重かったものが、とにもかくにもスタートした。

 もともとは住宅地や道路と鳥の保護区を隔てるために設けられた緩衝緑地帯。20m幅の部分に1mおきに苗木が列植され、樹種もキョウチクトウ、クロマツ、トベラ、シャリンバイなどほんの数種に限られていた。手入れもほとんどしないまま、育つに任せて25年。場所によって樹勢のよいところも悪いところもあるが、西端部分はいちばん木がよく育っているところだ。鳥が運んだ種子から芽生えた山桜など、ひとかかえ以上の太さの巨木もあるし、シロダモやトベラ、トウネズミモチなどの陰樹の若木がおびただしくのびて、野生味たっぷりの森になっている。

 3年ほど前から、保護区をもっと市民に開放しろという圧力が急に強くなってきた。「鳥や水辺の生きもののための場所、人間は遠慮してもらう」という姿勢をずっと通してきた保護区域だが、自由に歩ける場所がない、観察舎で鳥を見るだけではつまらない、という声も当初から続いている。いずれは何とかしなくてはいけないということも、わかりきっていた。

 鳥にとっては比較的影響が少なく、人にとってもそこそこ楽しめる要素がある、というゾーニングがこの開放部分である。 2名の管理員がつき、整理券兼パンフレットとして「みどりの国のパスポート」という冊子を入口で渡し、帰りに回収するというシステムもオープン日までにはできていた。

 これだけの場所にしか入れないのではつまらない、もっと全体を開放しろ、という声が高まるか、鳥も大事だからこれで満足しよう、ということになるか。不安材料いっぱいのスタート時期だ。


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