9 「みなと新池」誕生
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1993年6月号掲載
9 「みなと新池」誕生
この週末は毎春恒例「あなたの力でセイタカシギに愛の巣を!」の島づくりデーだ。
6年前、私たち行徳野鳥観察舎友の会は保護区の中に浅い池をつくった。トヨタ財団の研究コンクールに応募し、2年間の本研究助成金として得た500万円のうち180万円をかけて造成したものだ。この池では毎年セイタカシギが繁殖している。ただし、セイタカシギはチドリ類と同様、ある程度の見通しがきく水辺の裸地を好むので、産卵直前に池全体のアシを刈り、泥を積んで営巣用の小島を作りなおす必要がある。アフリカやアジアの繁殖地では、おそらく雨期の間冠水している泥岸とか、洪水跡地のようなところで巣をつくるのだろう。
日本で繁殖が見つかったところはたいてい埋立地で、植物にまだおおいつくされない場所だ。こうした環境は安定したものではないので、何年も続けて同じ場所に繁殖地があるのは、国内では新浜鴨場を含めたこの保護区くらいなものかもしれない。鴨場の中の巣はカラスにやられてヒナが育たず、毎年行う島作りは行徳のセイタカシギのためには欠かせない作業になった。
公認の「大がかりなどろんこ遊び」は、しんどいながらもなかなか楽しい作業だ。なにしろうまく行けば自分が作った島でセイタカシギのヒナがかえるのだから。昨年も4組が産卵し、少なくとも2組はヒナをかえした。今年も繁殖に成功してほしいものだが、4月に入っても10羽以上のカラスが残っているのが気がかりだ。
さて、この春はどろんこ遊びの規模がひとまわり大きくなった。年度末ぎりぎりになって、担当の千葉県自然保護課が水鳥のための池を1ヶ所増設してくれたのだ。ユンボーやパワーショベルの力はものすごい。3日とたたずに池の輪郭ができ、重機の搬入から搬出までわずか12日で、100m×70mほどの池が完成した。名付けて「みなと新池」。
昔、新浜に通うには総武線の本八幡駅からバスに乗り、今もある「湊新田」のバス停で下りた。その名にちなんだということもあるが、200mほど離れた湊排水機場の遊水地からポンプで水を引き、水源にしようという計画のためだ。行徳や浦安はゼロメートル地帯(註;海の満潮時の水面より地盤が低い土地)なので、内水はポンプアップして海に出さなくてはならない。湊排水機場は行徳地区のポンプ場の中でも最大のものだが、未処理の生活排水が大半を占める遊水地の水はひどく汚れている。しかし、現在保護区の淡水源として利用している丸浜川にくらべると、塩分がほとんどないという利点がある。
それにしても、この水は汚い。文字通り、墨汁のような真っ黒に濁っていることも珍しくなく、そばを歩くとどぶの臭気が漂う。そこで、池の構造を工夫した。掘り上げた土を積んでゆるやかな斜面をつくり、棚田のように仕立てる。そこに水を流し、田んぼを1枚ずつうるおしながら水が流れるようにして、浄化をはかる。こうしてある程度浄化が進んだ水を掘り上げた池本体に流し込むという考え方である。もう一つのしかけは、汚濁がひどく常に無酸素状態になっている湊排水機場の遊水地に、養魚用の水車を入れて酸素を吹き込むというものだ。
池はできた。ざっとした棚田の構造もできているが、水をちゃんと順序よく流すためには、これから丹念な手作業を続けなくてはならない。遊水地にはポンプや水車を組み立てて設置しなくてはならない。更に220mにわたってパイプをつなぎ、池までひかなくてはならない。何よりもまず、そのための書類を作り、許可をもらわなくてはならない。
しかし、「書類を出していいですよ」というところまでは既にこぎつけた。ここまでくれば、仕事の半分はできたも同然だ。資金についても、地元の市川南ロータリークラブが募金活動をしてくださっている。水が入ったあかつきには、この池には蓮田やガマの群落を再現し、トンボやカエルやヒクイナやオオバンが住めるようにしたいと考えている。
今年のどろんこ遊びは例年以上にやりがいがありそう。ああ、しんど。