81 水と緑
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1999年6月号掲載
81 水と緑
水底をタニシがゆっくりはっている。いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。200個体は確実だ。冬中乾いて干割れていたみなと池本体の浅い部分。タニシのまわりにはオタマジャクシが泳いでいる。マコモ、ガマ、ミクリ、ハスとご自慢の挺水植物もしっかりのびてきたし、ヒシの芽もあちこちに見える。友の会メンバーの森田さんが3年前に作ってくださった桟橋からの眺め、いつ見ても心がなごむけれど、この春のようにタニシが多いのは初めてで、来るたびにわくわくしてしまう。
オタマにはもう前足がはえて、後足にも筋肉がついた。背中が赤っぽくなり、顔つきもカエルらしくなった。オタマを眺めていて、まわりの水底に数ミリほどの細長い影がたくさん映っているのに気づいた。動く。稚魚らしい。本体は半透明で、よほど意識して見ないとわからないが、影の方はいったん気づけばわりあいよく見える。おびただしい数だ。冬の間じっと水底や泥底で低温や乾燥に耐えていた生きものたち。こうして爆発的に増えて、一挙に休眠期間のギャップを取り戻すのだろう。メダカか、モツゴか、種類はわからないけれど、水中の豊かさに感動してしまった。
毎日緑が濃くなってゆく。枯れ野の足元から青い芽がみるみるうちにせり上がる光景は、何回見ても新鮮だ。桜が散るころ、落葉樹が次々に芽ぶく。今年はようやくエノキの花を見ることができたけれど、芽吹きと同様、同色の花期は1,2日しかなかった。金をまぶしたと表現したいような色合いのエノキの新芽も、もう緑色に変わった。
越冬していたキタテハからはじまって、ヤマトシジミ、モンシロチョウ、ベニシジミ、ギンイチモンジセセリと蝶の出現も順調で、アオスジアゲハやナミアゲハも目立つようになった。藤がほころび、クマバチがなわばり飛行をはじめ、トンボの姿ももう珍しくない。春の訪れに目をみはっているうちに季節は初夏に向かっている。
繁殖場所の整備もいよいよ大詰め。天気予報をにらみながら、コアジサシ用の営巣場手入れの最終日は5月6日、と決めた。草刈り、草搬出、トラクターがけ、海水かけ、根茎とり、地ならし、と進めてきた裸地。最後の仕上げは、大黒柱2号氏が中心になって行徳漁港から運んできた何トンもの貝殻をまくこと。
コアジサシが裸地にしか巣をつくらないのはなぜだろうか、と今さらのように考えた。見通しのよい裸地を選ぶことで地上の天敵を避けるというのはわかるけれど、チドリ類などが好む耕し終えた畑まで嫌うのはどうしてだろう。コアジサシの営巣適地は文字どおりの不毛の土地で、草が生えたところはもちろん、生えそうなところも嫌う。千鳥類のヒナにとっては絶好の食物になるハサミムシやムカデなど、植物とともに育つ荒れ地の生きものは、自力で餌をとれないコアジサシのヒナにとっては脅威のひとつなのかも知れない。
セイタカシギを想定した竹内ヶ原の整備も、最終日は5日か6日。水がついた湿地の中で丹念にトラクターをかけている大黒柱1号氏のまわりで、セイタカシギが何羽も平気な顔で餌を漁っている。これだけ徹底したトラクターがけをすれば、夏まで開けた水面が維持できるだろう。隠れ場所の茂みも何か所も残してある。最終日には畔の手入れを兼ねて、巣が作れるような盛り土をする予定だ。考えたとおりのデザインや方法で、自分たち自身の手で作業が進められるありがたさ。
作業に使ったスコップを洗いながら、水中に沈んでいたヒメガマの葉をなにげなく引き上げて、びっくりした。まるで子持ち昆布のように、何かの卵がぎっしりとついている。フナだろうか。この春にのびた新しいヒメガマの葉なので、卵が産みつけられたのはごく最近に違いない。こうやって、この夏も竹内ヶ原の湿地に生きものがあふれて行くのだろう。
あと1週間。あわただしかった繁殖場整備が終わって、ほんのひと息ついたところで、草刈シーズンと傷病鳥ラッシュが待っている。新芽の生長にせきたてられて、湧き上がるもの、駆り立てるものが身のうちにある。落ちつかなくては。




