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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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8 ちいさな迫力


新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1993年5月号掲載


8 ちいさな迫力


「あれっ?」

 まばたきをしてからもう一度よく見てみた。やっぱり木の株じゃない。オオコノハズクが地面の枯れ枝にとまっている。3月16日の昼前、観察舎付近の苗圃のやぶ。ぽかぽかと暖かい陽光を浴びて目をとじているところは、朽ち木のこぶそっくり。

 なあんだ、結局出戻りになるんだ。

 このオオコノハズクは3月7日の夕方、標識足環をつけて放鳥したものだった。1月はじめに長生郡から入院して以来2ヵ月。当初は右目の瞳孔が開いたままで、衝突による神経障害と診断した。思ったより元気はよく視力もあったが、片目失明か、うまくいっても左右のバランスがとれなくなるのではないかと心配だった。幸いに半月ほどたつと、少しずつ虹彩が正常に働きはじめ、両目ともきれいなオレンジ色に輝くようになったので、野外復帰への期待をこめて治療室の中に放し飼いにし、夜は好きなように飛びまわらせておいた。

 オオコノハズクは純夜行性で、人目にふれる機会はめったになく、私も野外ではシルエットでしか見たことがない。しかし、観察舎では年に1、2羽の割で入院してくるので、さほど稀な種ではないらしい。2頭身半しかないむっくりしたスタイルと、複雑な朽ち葉もようの羽色がなんとも魅力的で、見れば見るほどほれこんでしまう鳥だ。

 2月20日の朝、かごの中のツバメが1羽足りないのに気づいた。ずっと目の具合が悪くて頭の羽も抜けていた「ハゲ」がいない。少し離れた床に黒い翼の羽が何枚かまとまって落ちている。もしや、とオオコノハズクを探すと、いつもの隠れ場で眠そうにしていた。しかし、よく見ると嘴と爪に赤黒い血痕がついている。やられた!小さくてかわいらしいといっても、やはりオオコノハズクは猛禽だった。

 3月7日には人気者だったイワツバメが食べられてしまった。これなら野外でも獲物がとれるだろうと、その日に放鳥したのだが、時期尚早だったようだ。オオコノハズクの室内の隠れ場に残っていたペリットの中には茶色の毛がまじっているものがあって、治療室内に出没しているハツカネズミまで捕食していたのだが。野外復帰への次のトライはいつになることか。入院患者たちを餌食にされないため、気持ちをひきしめてつきあわなくちゃ。


 3月11日、心待ちにしていた実体顕微鏡と顕微鏡の画面をテレビに投影する装置が届いた。昨年いただいた「ちば環境文化賞」の賞金50万円をもとに購入したものだ。カメラは指先ほどの小さな軽いもので、セットもそれほどたいへんではない。

 緑色に濁ったたまり水を少しとってきて、水面に浮いたカスのようなものにピントを合わせると、ジャジャーン! 29インチのテレビ画面いっぱいに、羽のない蚊のような昆虫が映し出された。それも長円形の卵を次々に生み出しているところではないか。0.5ミリほど、肉眼ではどうやら足があるらしいという程度にしか見えないものが、50センチ以上に拡大されるド迫力。この昆虫が何なのかは見当もつかなかったが、ただただすごいなあと感動してしまった。

 最近の科学機器類には、こんなものがあったらなあ、と夢みたものがいろいろ出ている。干潟や湿地の調査では、手軽に塩分濃度がわからないだろうかといつも思った。いちばんよいのは舌でなめてみること、と言われて、なるほどなあと感心したりした。数年前から購入して使っている塩分計は、体温計を大きくしたようなもので、はかりたい水につけると、塩分濃度が小数点以下2桁(100分の1%)の数値で表示される。調理器具関連でテレビに紹介された時は、ヤッタ!と思った。価格も1万円とちょっとなので、それほど無理なく入手できる。今年に入ってから買ったPHメーターも似たような価格で、試験紙を何種類か試しながら今一つ自信が持てなかったPHの数値をぴしゃっと表示してくれた。軽薄短小のお助け機器のおかげで、水の調査がおもしろくなりそうだ。


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