73 秋だ秋だ
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1998年10月号掲載
73 秋だ秋だ
つつっと走ったシロチドリが、赤黒いかたまりをくわえ上げた。ちょっと苦労してのみこんだのはかなり大きなゴカイだった。10~15㎝くらいはあったが、珍しく泥の上に出ていたに違いない。
岸近くのイソシギが何かをつかまえたところが視野に入った。トンボだ。これも大きくて、イソシギは頭の方からくわえ直そうとしていたが、うまくのみこむことができたのだろうか。黄色い体色とサイズからウスバキトンボではないかと思ったが、イソシギが小さいために大きく見えただけで、実際はアカネ類だったのかもしれない。
初めて見たイソシギのトンボ狩りに興奮していたら、アオサギが潮だまりにねらいをつけているのに気づいた。待つ間もなく、アオサギは水中を一突きして、15㎝はある型のよいマハゼをみごとにとらえ、あっさりとのみこんでしまった。
わずか10分ほどの間に連続3羽の餌とり成功!食欲の秋とは言え、めったに見られるものではない。ゴカイやトンボやハゼには悪いけれど、うれしくなってしまった。9月5日の昼休みのこと。
さて、当方は目下秋の管理作業のまっただなか。明けても暮れても私は空模様と水の具合を気にしてトラクターがけのタイミングをはかっているし、男衆どもは晴れても降っても草刈機を手に保護区の中にとんで行ってしまう。
新しい浄化池は2つの系列にわかれた各13枚の棚田が中心となっているが、秋の作業は水の干し上げ→草刈り→草の片づけ→トラクターがけ→水入れ再開という手順で、2系列のどちらかには水があるよう、時期をずらせて進めることにしている。干し上げ開始から水入れ再開までの時間が短いほど、生きものへの負担は少ないはずだ。
9月の第1週は働き手のうち2人が夏休みをとるので、残りのメンバーはじたばたせず、冬眠ならぬ夏眠をしよう、と言い合っていた。ところがどうして。夏眠週間の前に首尾よく1系列分の作業を終えて水入れを再開することができた。つまり、片方の系列には水をまんべんなく入れ、もうひとつの系列は水を干し上げる作業が夏眠週間にかさなった、ということだ。よせばいいのに、居残りメンバーは干し上げと草刈り作業の両方をほぼ終わらせてしまった。あとは地表がほどよくかわき、刈った草をこまかく切り割く芝刈り機とトラクターが入れるようになるのを待つばかり。
となると、待つ間に観察路の草刈り等を進めることができる。「ぼくはちゃんと夏眠しましたよ。休憩中に15分ばかり昼寝したから」「それは字が違うんじゃないですか。いやあ、今週はいつもよりよけいに仕事をやっちゃったみたいだ」・・・・・・なんのことはない、がんばって働いて合間に仮眠。仮眠週間、ということになってしまった。
来週は大・中・個別と合計10室ある傷病鳥舎の月例の清掃作業が待っている。天候さえ許せば、後半には2系列目のトラクターがけをはじめることになるだろう。観察路の草刈りの第5ラウンドもはじまっているし、新しい観察路の開拓作業も9月中にやってしまいたい。
私の作業分担は計画と、決断と、留守番や隙間のカバーと、手綱のひきしめ。
「ゆっくり、のんびり、落ちついて、息を入れながらね。まわりをよく見渡して、空や鳥を見る余裕を残してね」
シギやサギが入りやすいように、8月はじめから水位を20㎝ほど下げ、月末には背丈近くまで茂った草を刈って水面を開いた竹内が原の湿地では、連日百羽近くのサギ類が入るようになった。「白鷺の湖」の光景は悪くない。池のまわりではウシガエルの子や、カエルをねらうシマヘビも目立つ。妙典土地区画整理組合からいただいた蓮田の土を敷き込んだ池には、ありがたいことに小さな実生の蓮が芽生えて、もう150枚以上もの葉が出ている。努力や配慮に対して生きものがごほうびをくれる作業。3Kとは言え、報われるものも大きい。
空がきれいだ。穂が出はじめたススキの足元には赤紫のナンバンギセルが今をさかりと咲いている。マテバシイには大きな茶色のどんぐりがびっしりついて、もう地面にも落ちている。秋だ。




