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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
71/95

71 元気にトラブル

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1998年8月号掲載


71 元気にトラブル


「いやあ、ちょっとハプニングがありまして」

 6月25日、保護区の中の揚水用のパイプに新しいバルブをとりつけに行った男衆二人が、だいぶ遅れて戻ってきた。作業服がびしょぬれだ。

「とりつけは順調にできたんですよ。ところが、水量調節でかなり栓をしめた状態にして、しばらくしたら、手前の土の中からいきなり水が噴き出してきたんです。地面から10㎝くらいも湧き上がっているんですよ。それで、1m近く掘って、まだ原因のパイプまで届かない状態なんです」

 地面をはってきたパイプラインが、池の土手越えのために立ち上がっているところ。後に工事用の通路が作られたため、パイプは1mあまりの深さで地中に埋もれることになった。曲がり目の部分がこわれたか、はずれたか。

「あの地面には重機が乗ったりしてますよね。パイプが下がって、継ぎ目がずれたのかも」

「思い出した。あそこはエルボじゃなくて、もっと先につなぐかもしれないってことで、T字管をつけてあるんだ。そのキャップがとれたんだ」

 午前の部の仕事を終えた主婦パートの野本さんが、「なんだかおもしろそうですね」と目を輝かせた。「当事者以外には、ほんと、おもしろいのよ。ここの仕事。特にトラブルがあるとね」

「いや、やってる本人としてもけっこうおもしろいですよ。初めての経験ですもの」と、男衆初年の川上さん。

 午後、「温泉掘りの調子はいかが?」と現場に電話を入れると、「しっかり掘り当てて、問題を解決しました。やっぱり原因はキャップでした。あとは埋め戻して終わりです。埋めてしまうのは残念な気もしますけれど」 明るい声が返ってきた。

 午後じゅうかかった「温泉掘り」作業で、夕方戻った川上さんと大黒柱1号の一樹君は汗びっしょり、泥だらけだった。もっともこの日いちばんたいへんだったのは、留守を一手に預かった上、浦安の魚市場にアジを受け取りに、福栄中学へパンをもらいに、さらに資源回収センターに段ボールを出しに、とあちこち軽トラックを走らせ、積み下ろし作業をひとりでぜんぶやる羽目になった大黒柱2号の達ちゃんのほうだったに違いない。

 6月20日には、野鳥病院の冷蔵庫がこわれた。ガスが抜けたらしい。「こういう時にはどうするんですか」「拾うんです」 誰ひとり、予算をとって買ってもらおう、などと考えもしないところがこわい。2日後、保護区を一巡していた達ちゃんと一樹君が、「南門のところに大きいのが置き捨ててありました。それも4ドア!」と勇んで戻ってきた。翌朝さっそく拾いに行って、試してみたところ、少々音がにぎやかだが、ちゃんと冷える。タイミングのよさに感激したり、あきれたり。

 6月24日に起きたトラブルの当事者は私。前日の干潮時に青潮の用心で閉めた水門を開けに行って、「開」のスイッチを押したところ、動かない。それどころか、「故障」のランプがついてしまった。どうしよう。SOSを出そうにも、こうした時に限って携帯電話を持ってきていない。

幅3m、1トンを軽くこえる水門の手動操作はおおごと、と聞いていた。水門の上にのぼると手動用のハンドルはすぐに見つかり、両手を添えれば私の力でもまわせたが、いやあ、聞きしにまさるしろもので、50㎝開けるのに40分もかかった。たっぷり1000回はハンドルをまわしたに違いない。力も時間も尽きて選手交代。

 水圧がかかりすぎると動かなくなる例はこれまでにもあり、少し開けておいて水位差が少なくなると動くとのこと。夜中の操作時でなくてよかった。それにしても、わずか5㎝ほど水門を上げただけで、目でわかるほどの水の動きが出るうれしさ。これもそれなりにおもしろい仕事かもしれない。

 一段と数を増したカワウのコロニー以外は、鳥の方はどうもぱっとしない。6組も巣を作ってくれたセイタカシギは、ヒナのふ化まで確かめられているのに、結局全滅してしまった。

 それでも、汚れきった雑排水を直接くみ入れている水車池のところで、ギンヤンマとシオカラトンボの抜け殻を見つけた。トラブルが起こるたびにかえってファイトを燃やすスタッフたちがいる限り、だいじょうぶ、これからも。


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