69 薫風
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1998年6月号掲載
69 薫風
ニセアカシアが花盛りの時期を迎えた。若葉といっしょに開花する上、高い木の梢近くに咲くために、あまり人目をひかないが、ちょっと黄色みを帯びた白い花はかわいらしく、少しやぼったい甘い匂いも気に入っている。同じような色合いの初夏の香り御三家―スイカズラ、ノイバラ、トベラがいよいよ開花しはじめた。丸浜川沿いの土手道は、これからしばらくの間、青葉と白い花々に囲まれ、薫風に包まれた最高の散歩道になる。願わくは、もう少し耳に聞こえる鳥の歌声が多いとよいのだけれど。
「きゃーっ」「うわーっ」「やだー、なに、これ」
この季節は、通学の高校生たちが派手な悲鳴を上げる時期でもある。でっかいクマバチの雄が、道の上空でなわばり飛行をしているのだ。20~30mごとに地上1.5~3mほどの高さのところをゆうぜんと飛んでいる。おす蜂だから針はなく、刺されるわけはないのだけれど、体長3㎝もある蜂がちょうど顔の高さを飛んでいて、自転車で走るとおでこにこつんと当たったりするのだから、きゃあきゃあ騒がれるのも当然である。
クマバチのなわばり飛行は藤の花盛りとぴったり時期が一致していて、花が終わるころにはいつの間にかあまり目立たなくなっている。クマバチはまっ黒な体に黄色の胸をした最大級の蜂で、見るからにおそろしそうだが、性質はとてもおとなしく、幸いにこれまで通行の人から苦情が出たことはない。また玄関に貼り札を出して「こわくありません」とよく宣伝しておかなくては。
美しいさえずりを聞かせてくれたアオジやアカハラたちは、オオヨシキリの到着と交代してほとんど姿を消した。4月30日、久しぶりにヒバリのさえずりを聞いて喜んだが、通過中のものだったのかも知れない。どこでもごく普通の種であるはずのヒバリは、ここ数年来、保護区内では呼び戻す目標種のひとつになってしまった。
新しい浄化池に水が入ったおかげで、今年はカルガモのつがいが多く、セイタカシギをはじめ、シロチドリやコチドリのつがいも数か所で見かける。これから、これから。いなくなってしまった種類、少なくなっている種類を考えると、いてもたってもいられない焦燥感に駆られることがあるけれど、ともかく、これから。
4月30日に新浜鴨場のカウントに入った主人の話では、繁殖盛期に入りつつあるこの時期にもかかわらず、サギの姿がまったく見られなかったとのこと。がくぜんとしてしまった。昨年7月10日に入った時にもサギの巣が1つも見られず、ぎょっとしたものだ。この分では、もっとも重要と考えていた新浜鴨場内のサギのコロニーは壊滅したことになる。とりかえしのつかない後退である。
鴨場の業務は接待鴨猟であり、水鳥の保護ではないのだから、サギのコロニーはない方がよいのかも知れないが、隣接するわれらが行徳鳥獣保護区にとっては重大な損失だ。サギたちが新天地で無事に繁殖してくれていることを祈るしかない。こうなると、湾岸道路沿いのカワウのコロニーだけが頼り、ということになる。
ごルデンウィークに入ると、さすがにちらほらと夏羽のシギやチドリが目につくようになってきた。コアジサシの求愛も見られるし、干潟のトビハゼやチゴガニも健在である。巣作りに余念のないツバメたちが、目の前の岸や土手に下りては、泥やわらを運んでいた。
オオジシバリ、カラスノエンドウ、スズメノエンドウ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ。観察路の花々はうっとりするほどきれいだ。よいことの方をまず見よう。いつものように。




