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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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67 今週はこんなことが

新浜(しんはま)だより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1998年1月号掲載


67 今週はこんなことが


 強風にあおられた白い鳥が、風に流されて丸浜川上空から観察舎の方へとさしかかった。なにげなく目をやると、わっ、スプーンビルではないか。丸くひろがった嘴の先端がくっきりと見える。図書室から非常口のドアを開けたとたんに目に入った光景。クロツラヘラサギー数年来おなじみの葛西在住の鳥は、風にさからって前進しようとして、私の頭上2メートル足らずのところを飛び、観察舎の屋上を越えてゆく。翼の先端まで純白、黒一色に見える嘴の下側……いやあ、きれいだ。

 相棒のダイサギ氏と連れ立ったクロツラ君は、サギの定位置である観察舎前の小さな岬に舞いおりた。吹きつける強風のため、いつものように嘴を背中の羽に入れて休むこともできず、ダイサギが舞い上がるといっしょに飛び立ったり、また舞い降りたり、と、観察舎の人たちを楽しませてくれた。でも、いちばんの役得はこの私。2月21日土曜日のこと。

 全国各地で私のように鳥や自然に関係した保護区域の管理に携わっている方々は、日本ではごく少ないとは言え、何十人かはおられるはずだ。たぶんどの方も、毎日、毎週のように目をみはったり、驚いたり、楽しんだり、悲しんだりしながら、生き生きと過ごされているのではないだろうか。どの方も、ずっしり重たい難問や厄介ごとを数々抱えておられるのはむろんだろうが。

 2月16日のこと。保護区の中にある水道のメーターを読んで水道局に報告するために、重い鉄のふたをひきあげた。メーターは長さと深さ1mほど、幅60㎝ほどのコンクリート製の穴の中にある。湿り気があるので、いつもオオゲジがうようよいて、多足類に弱い達ちゃんが怖気をふるうところだ。中をのぞいたとたん、ぎょっとした。メーターの上にりっぱなヒキガエルが1匹すわりこんでいる。箱の底には水がたまって、その水のなかにも何かが泳いでいる。コンクリートと鉄の密室に何だってこんなものが存在するのだろうか。

 結論は簡単。側面はぜんぶコンクリート製だが、底は土のままだったのだ。掘り進んできたヒキガエルが道を間違えてしまったのか、それとも土の中にトンネルができているのか。そういえば、前にもクロベンケイガニが何尾か入っていてびっくりしたことがあったっけ。

 泳いでいたのも小さなヒキガエルだった。そちらはつかまらなかったので、大きい方だけ外に出した。ところが、置かれたままのかっこうで、ぺったりとへたりこんでいる。メーターの箱の中なら食物となるオオゲジもいるし、暖かだったのかもしれない。かえって申し訳ないことをしてしまったのだろうか。10分ほどたってもそのままの状態なので心配になり、帰りがけにもう一度見に寄ったが、このときはもう姿を消していた。

 水中ポンプが着実に動いてくれているおかげで、2月21日、新しい浄化用棚田はついに満水を迎えた。気分は最高!大黒柱1号の一樹君が毎日いくつものポイントで水位を記録し、仕切板を調整し、水の流れや状態を細かくチェックしてくれている。一樹君の休日には大黒柱2号の達ちゃんが作業をひきつぎ、水路掘りや土手づくり、鳥の記録をひきうけてくれる。2人のおかげで、私はいながらにして日々の変化を把握することができる。次々に水が流下して行く浅い棚田の中では、藻類やアメーバのたぐいがしっかりと育ち、ポンプの揚水量が適正でさえあれば、汚濁物質の量を一定以下におさえるという目標も達成できそうだ。ようし、次はタニシ、カエル、ホタルだぞーっ。

 大ざっぱに言えば、保護区の湿地環境の整備の目標は、ため池や水路、あぜ、わき水等をも含めたかつての「ふつうの水田」という環境を再現して行くことだ。水神さまにもおこしいただければありがたい、と心から思う。チュウサギ、タマシギ、ヒクイナといった繁殖種、そして春のツルシギや秋のタカブシギも戻ってきてもらいたい。

 満々と水をたたえた棚田を眺めわたすと、何となく、なんでもできそうな気分になってくる。


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