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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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61 夏がゆく

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1997年10月号掲載


61 夏がゆく


 日が落ちると、あたりはみごとな虫の大合奏になる。澄みきったエンマコオロギのソロをひきたてるように、カネタタキ、セスジツユムシ、ウマオイ、ミツカドコオロギなどが音色をひびかせ、カンタンの低音やクサヒバリの高音も冴えわたる。アオマツムシがあたりを圧して鳴きたてている桜の木までちょっと距離があるおかげで、ゆっくりとそれぞれの名演奏を楽しむことができる。

 セミが多いのもうれしい。埋め立て地の保護区の中でもミンミンゼミやアブラゼミが鳴いてくれた。ニイニイゼミは少なかったが、夏のしめくくりのツクツクボウシも観察舎のすぐ裏で鳴いた。ウスバキトンボも例年になく多い。ただし、傷病鳥舎のゴキブリは少なめだ! やったね。

 毎年恒例の友の会行事「池の草刈り」が無事に終わった。お盆明け、浅い湿地をおおいつくして成長しきったアシを刈りとり、サギやシギが餌をとりやすくするというものだ。いやはや、今年はおそろしく暑かった。かっと照りつける太陽と青空ならあきらめもつくが、初日の23日はどんよりとしたうすぐもりで、高い気温と湿度に加えてまったくの無風状態。じっとしていても汗がふきだしてくる。午前の部の1時間ほどで、参加者のみなさんはまるで服を着たまま水浴びでもしたようなありさまで昼食に戻ってきた。

 背丈をはるかに越えた高さにのびたアシを刈るのは、なかなかの重労働である。今年は、おまけに刈り取ったアシを観察路脇の目隠しの垣づくりに利用しようという余分な目的もある。アシを集めて運ぶのは、刈るのにまさるとも劣らない重労働である。このくそ暑いのに・・・・・・

 ちなみに私はなーんにもしていません。初日は担当の東会長、主人、午後からは観察舎の大黒柱の石川君が加わって計6名、2日目は大黒柱2号の佐藤君も入ったので、担当の清水氏は2名の補佐役を得てほっとしていた。この日の延べ人数は10名。準備から作業中のケアから後始末に至るまで、石川君がぜんぶ面倒をみてくれたので、「気をつけていってらっしゃーい」「お疲れさまでした。暑かったでしょ」私がやったのはこれだけ。

 きつい作業で、例年以上にこたえる暑さだったけれど、参加のみなさんはにこにこして戻ってこられた。暑い作業のあとのビールはこたえられない。近くのライオンズマンションにお住まいで、観察舎へいたる道路脇の水路のゴミを拾ってくださっている武田さん父子も、楽しそうに作業しておられた。おかげで、完全に視野がふさがっていた上池の観察壁から湿地が眺められるようになったし、さっそくサギの群れが入り、チュウサギの姿も目についた。

 道に運び上げられたアシの量は半端ではなかった。軽トラックで何杯分になるだろうか。これを全部乾燥させて、垣づくりの現場まで運び、垣を作り上げるのは手がかかる作業だけれど、いちばん気が重い運び上げがすんだのだから、あとは人手があるときにぽつぽつ進めて行けばよい。みなさん、ほんとうに御苦労さまでした。また垣づくりにもいらしてください。

 さて、妙典の区画整理組合事業地の工事現場にできていたコアジサシのコロニーでは、きびしい工程をやりくりして、ヒナが去った場所から順番に土を運ぶという調整をしてくださったおかげで、100羽以上の若鳥が無事に巣立って行った。日本を去る日も近いことだろう。区画整理組合のみなさんには心からお礼を申し上げたい。ありがたいことは、いつでもいっぱいあるものだ。

 外に出ると、涼しくなった夜気の中でカラスウリの花がきれいに咲いて、おしろいのようななまめかしい香りを放っていた。このあたりに多いキカラスウリにくらべると、純白の花弁は長い糸状でずっと繊細で、一段と優雅に見える。いくらか黄色みを帯びたキカラスウリの花は、ちょっとやぼったく、青くさくて若々しい香りだった。そばに咲くオシロイバナは、おさない少女のようななつかしい香りがする。

 虫の音、花の香り。暑さももうあとわずか。

 


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