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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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6 鳩めいわく

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1993年3月号掲載


6 鳩めいわく


「あれ、ハヤブサじゃないですか?」

 観察台で昼食をとっていたバイト生の石川君が呼びにきた。視野の端を力強くはばたきながら横切って行く褐色の鳥がいる。UFO島の枯木立の背後にいったん隠れ、水面近くで飛んでカモを飛びたたせようとしていたが、カラスに追われて枯れ木に止まったところを望遠鏡の画面にうまくとらえた。精かんなひげ模様のきりっとした顔に、下面の不規則な縦斑がみごとな若いハヤブサだ。2羽のハシブトガラスが同じ木の上下に止まり、しつこくちょっかいを出している。

 ハヤブサは間もなく飛び立ち、なんとまっすぐに観察舎に向かって飛んできた。そして傷病鳥舎の屋根をかすめるようにして方向を転じ、すばらしいスピードのまま、あっという間に姿を消した。

 若いハヤブサは、傷病鳥舎のまわりに集まっているドバトをねらったのかもしれない。よく肥って警戒心もうすいドバトは手ごろな獲物のはずだ。このごろ、ドバトといえばやっかいものの代名詞。ところきらわず巣をつくり、人から餌をもらっては一年中無制限にヒナをかえす。外敵が少なく狩猟対象でもないので、ふえる一方だ。私など、むかし近所のお寺でよく鳩に餌をやり、喜んで食べてくれるうれしさに、結果など考えもしなかった。今さら手のひらをかえすような態度をとるのは考えものだけれど、鳩めいわくの現実を見るべき時期がきている。

 「何度追い払ってもベランダに入って巣を作るんです。どうしたらいいんですか。どこにお願いすればいいんでしょう。」電話口で泣かんばかりの訴えがこのごろ増えた。困りきったお宅の近くには、必ず餌をやる人がいる。被害者、加害者に近い図式だが、「加害者」が文字どおりの善意のかたまりというのがなんともやっかいだ。

 観察舎では長いこと餌場で餌づけを続けている。対象は、放し飼いのカモやアヒルなどとカモメ類、ゴイサギなど。餌の内容は、給食の残りのパン、鶏用餌、および魚のアラだ。この2年ほど、鳩がふえるのがこわくて、日中はパンや穀類を一切やらないようにしている。しばらくの間は目にみえて鳩が減った。ところが困ったことには、けがをしてわが野鳥病院に持ち込まれ、回復後放鳥する鳩が年に20羽前後にはなる。飛去してくれればよいが、おやつの残りをやる子たちにまで目くじらを立てるわけにも行かない。そのうちにまた鳩がいつくようになってしまった。定期的にリュックにつめたパンをどさっとやってゆく男の人、鳩の餌をわざわざ買ってまいている奥さんなど、どう対処すればよいのか。

 鳩めいわくはさておいても「保護とはなんのかかわりもありません。ショーです」といいわけしながらやっているカモメの餌づけはどうだろう。翼を開くと140㎝もあるみごとなセグロカモメの群れが目の前に集まる光景はすばらしい。しかし、カモメ類はカラスと同じで、人間生活と密着して餌を得る種類だ。世界中どこへ行っても、海に近いゴミすて場はカモメの宴会場になり、北半球の海鳥の多くは、各種のカモメやカラスにヒナや卵をねらわれている。小さくてかわいいユリカモメでさえ、「ペスト(有害な生物)」と決めつけられているが、それだけの悪さをしているのだから仕方ない。特に餌づけによる大増加は目に余る。注意に注意を重ねて続けているわがセグロカモメへの餌づけも、どうしたものか、と悩みは深い。

 ま、なんのかんのと言っても、要するにヒトさまの勝手、ヒトさまの都合による生殺与奪に変わりはない。勝手にさせていただくしか方法はないのかもしれない。

 そうか、ロスアンゼルスでやっているみたいに、大都市でどんどんハヤブサを増殖させて、増えすぎた鳩やカラスやユリカモメをねらわせるという手もあった・・・・マジメに取り組んでみたくなってしまった。 








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