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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
51/95

51 群れさん こちら

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年12月号掲載


51 群れさん、こちら


「あっ、あれ、シギじゃない?ずいぶん大きな群れだ。ほら、湾岸道路の上のところ」

 たなびく雲のような、ぎっしりとまとまった不定形の群れが飛んでいる。数百羽はかたい。千羽近くいるのかもしれない。沖の三番瀬はもうぜんぶ潮をかぶっているはずだ。堤防の上にでもかたまって休んでいた群れが、何かに追われて飛び立ったのだろう。いっせいに向きをかえた。まっ白な下面が光る。ハマシギにちがいない。

「あれっ、下りるよ。あそこは湾岸道路だよね」

 シギの群れが端から舞い降りているのは、なんと湾岸道路に面した大きな工場の屋根の上だった。遠いのと、視野をさえぎる木の枝のせいで、あまりはっきりとは見えないが、スレートぶきの広い屋根の上で、同じような色でぶつぶつしているものがわかる。半信半疑で見ているうちに、ハマシギとおぼしき群れは飛び立った。まちがいなく、屋根の上にいたのだ。群れはちょっと旋回すると、また同じ屋根に下りてきた。あまりおちつかない様子で、群れは何度か飛んだが、結局は同じ屋根に下りる。みなが観察台を離れてめいめい仕事をはじめるころになっても、シギたちはずっと同じ屋根で休んでいた。10月18日の朝のことだ。

 このところ、大群と名のつくものには、カワウしかお目にかかっていない。どうしてこれほどカモに嫌われているのか、さっぱりわからないのだが、10月のなかばをすぎた今になっても、あちらに20羽、こちらに50羽とぱらぱら小群が見られる程度である。ところが、10月3日から6日にかけて、観察台のすぐ前にオナガガモの群れが入った。いやあ、うれしかったですねえ。千羽に満たないくらいの数なのだが、水面にカモが群れてくれると、なんともいえない安心感がある。ほとんどはオナガガモだったが、5日にはトモエガモ1羽とヨシガモ2羽、6日にはオシドリ2羽まで見られた。しばらくいてくれるかな、と期待していたが、あいにく7日以降はお見限りだった。

 それでも、ちょっとすてきな群れとの遭遇もあった。9月28日、第4土曜の夕暮れ観察会である。4時半の出発時刻をだいぶまわって、餌場の鳥を見たあとで出発したグループが、途中で立ち止まって保護区の中を眺めている。何がいるのかな、と見渡すと、なんと保護区の中の松の木が、どれも花をつけたように白くなっているではないか。アマサギだった。きれいな夏羽のものはいなかったが、頭にうっすらとオレンジ色が残るものもいる。小柄な体に黄色いくちばしがよく目立つ。はずれの松に止まっているグループはチュウサギで、みの毛が白かった。ぜんぶで百羽近くはいたようだ。

 まもなくもう一群、百羽近い群れが上空にさしかかってきた。松に下りていたアマサギたちは、飛びすぎる群れにつられるように舞い上がり、およそ南西の方向を指して飛び去った。

 この日の夕暮れ観察会は、今年の秋の湿地造成工事で姿を消す「竹内が原」のお別れのお月見を兼ねていた。北風が吹き、肌寒い夕暮れだったが、おぼろにかすんだ十六夜の月がみごとで、虫の音を伴奏に、参加者一同、おおいに盛り上がった。十八年近く前に小櫃川から持ってきて放した30匹のマツムシが、今では保護区のあちこちに定着して、きれいな音色を聞かせてくれている。エンマコオロギの澄んだソロがひびき、カンタン、クサヒバリ、セスジツユムシなどおなじみのメンバーに、チンチリン、というマツムシの鈴が入って、秋のオーケストラは最高潮だった。

 あいにく、私は参加しそこねた。電車事故で両翼がもぎとられたカワウが入院して、傷口を縫っていたのだ。上嘴も折れていたが、ありがたいことに、けっこう元気に一命をとりとめた。そろそろ嘴を保護しているテープをとってもよさそうだ。

 キビタキ、ノゴマ、トラツグミ、ツツドリ、ジュウイチ、ヨタカ。衝突事故で入院した鳥の顔ぶれにも、深まってきた秋が感じられる。

 間もなく保護区内で湿地造成工事が始まるので、しみじみと秋を味わうのもあとわずか。


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