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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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46 めでたい めでたい


新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年7月号掲載


46 めでたい めでたい


 干潟にセイタカシギが2羽並んでいる。背の羽色が褐色、足の色も肌色で見るからに若々しい昨年生まれの雌が、首をのばして嘴を下に向け、こころもち尾を上げて足を曲げ、姿勢を低くしている。交尾受け入れの態度だ。雄はきれいな黒緑色の背で足も鮮やかなサンゴ色をしており、ぴったりと雌に寄り添って頭をしきりに降っている。間もなく雄は翼をひろげ、背後から雌の背に乗って羽ばたきながら尾を下げ、交尾した。次列風切の先が白いので、これも昨年生まれの若い鳥だ。ほんの1,2秒、数回尾を交わらせた後に雄は前にとびおり、2羽は頬から嘴をぴったりと寄せるようにしてしばらくじっとしていた。

 カラスとカワウの他には鳥の姿がごくごく少なく、いたって冴えない観察舎からの眺めだが、じっくり見ているとそれなりに面白い。時はまさに5月の繁殖盛期、野鳥病院のいわゆる「大部屋」のユリカモメやウミネコは盛んに求愛をしている。特定のペアができているはずだが、5分でも10分でも時間を作ってペアを見定めたり、記録をつけたりすることがなかなかできない。そこで一計を案じた。禽舎の外に「仲のよいペアを見つけてください」と書いた白ボール紙を出して、鳴き合いを見たら足につけた個体識別用のテープの色でカップルを書き出してもらうようにしたのだ。お客さんが多いゴールデンウィーク中に掲示を出せばもっと記録がたくさんとれただろうが、それでもこれまで気づかなかったペアの組み合わせがわかってきた。

 各種とりまぜて百羽近い水鳥が収容されている「大部屋」では、求愛はともかく、産卵や巣づくりはむずかしいだろう。ユリカモメもウミネコも別に希少な種ではないけれど、湾岸道路に沿った幅20mの緩衝緑地帯に自然保護センターのようなものを作って、野鳥病院を「傷病鳥獣動物園」に発展させ、人とのふれ合いも可能な開けた形のケージ、というより囲いにしてやったら、この連中も繁殖ができるのじゃないかな、などとつい空想をめぐらせてしまう。よく馴れた(たぶん)雌のカワウは私が餌やりに入るたびに求愛の動作をしてくれる。のどをくすぐったり頭をなでたりしてねぎらうのだけれど、こんなことをやってみたい人はきっとたくさんいるのではないだろうか。夢ならいくら見ても悪いことではなかろう。

 3羽いる飼いウズラがせっせと卵を産んでくれるので、雨の日を利用してクレゾール液を少量仕込んだカラス撃退用卵を20個以上も作り、セイタカシギが2組ほど繁殖したそうな様子の保護区内上池にセットしてもらった。さっそくボランティアの友の会メンバーと主人がひっかかった。

「セイタカシギが卵を産んだよ!」 ごめんなさい。本物はまだ産卵していないらしい。

 さて、カラスの方はうまくひっかかってくれるだろうか。それより、クレゾール風味をとてもいやなものだと思うだろうか。コアジサシのコロニーでワタリガラスに忌避剤入りのウズラの卵を食べさせ、学習させて卵の被害をうまく減らしたというアメリカの事例を真似たものだが、結果がどうなるか、興味津々というところである。

 この稿にも何度か書かせてもらったベテランのバイト生、石川一樹君(一昨年、アメリカの国際鶴財団;ICFで1年間のボランティアをした)に加えて、昨年イギリス鳥類保護協会;RSPBの保護区3か所をまわって同じく1年間のボランティアをしてきた佐藤達夫君が目下観察舎のスタッフとして働いている。おかげで、今年はこれまでやりたくてもできなかったおびただしい保護や管理のための作業のいくつかに手をつける余裕ができた。二人ともフルタイムの勤務ではなく非常勤職員という不安定な身分で、ボーナスどころか各種の補償もないのだが、毎日生き生きと楽しそうに仕事をしてくれている。彼らの経験や能力、そしてやる気を生かすためにできるだけのことをしたい。楽しみだ。


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