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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
44/95

44 ツバメ

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年5月号掲載


44 ツバメ


 沈丁花の香りが漂っている。薄雲が急に晴れて、午後から暖かな好天になった。青空に浮く綿雲、あとはヒバリの声がほしいところ。

 休日の午後、ひさびさに棚田の耕耘に出る。いつまでも寒くて春の実感がわかなかったが、保護区の道にはいつの間にか青々と若草がのびて、山桜の芽もずいぶんふくらんでいる。オレンジ色のキタテハが地上からすばやく舞い上がる。成虫越冬のキタテハは冬でも日なたで見かけることがあるが、3月下旬ともなれば、モンシロチョウやヤマトシジミ、ベニシジミなどの春の蝶がぼちぼち出そろうのが普通だ。今年はまだキタテハ以外の蝶を見かけない。

 松の下枝から尾の長い鳥が飛び立って、50mほど先の別の松に止まった。深い波型の飛び方からすぐモズだとわかった。翼に白紋がない雌だ。私の行く手を先へ先へと飛んで行ったモズが、200mほど進んだところで脇の竹やぶに入ったと思ったら、雄が出てきて2羽がいっしょになり、更に先へと飛んだ。そのあたりが巣の場所かも知れない。雌が外にいたわけだが、もう抱卵をはじめているのか。それとも巣づくりの段階なのだろうか。

 棚田の畔も青々として、掘り返したアシやガマの地下茎からは芽が出ていた。雨が何度も降っているので、水を含んだ土が腕に重い。前回の作業から2ヵ月のギャップは大きくて、ものの15分も掘ると、休みたくなってもう時計を見る始末。結局のところ、2時間ほどかけて耕したのはせいぜい10坪。根がなくて土もやわらかいのに、この効率の悪さ。体をまた馴らさなくては。

 いずれにせよ、この土・日の2日間「小型車両系建設機械の特別教育」を受けに行く。3トン未満の小型のショベルカーやブルドーザーを操作するための資格である。とことんドジで、運動神経などないも同然で、普通車の運転免許すら持っていない中高年の私が、である。ともかく資格がないことには、重機を借りることができない。3トン未満のユンボーはおもちゃのようにかわいらしいけれど、スコップよりは多少とも能率がよいに違いない。当たって砕けろ、で、私が先陣を切って講習を受けることになってしまった。首尾よく重機を借りて作業をすることになったら、動かしている当人よりもまわりで見ている方がよっぽどこわい思いをするのではないかしら。

 あとわずかで初年度分の再整備工事が終わる。平成8年度のうちに第2期工事まで進むので、保護区の大半をおおうセイタカアワダチソウの草原のうち、今年中におよそ半分くらいが池や湿地にかわる予定だ。ただし、水源として生活排水を導入し、造成した広い棚田で浄化と鳥の誘致を進めることになっている。そのためには草刈りや耕耘などの日常管理がなにより大切になる。スコップをふるう筋肉をきたえるだけではとても足りない。どうしても、少なくとも小型の重機の導入が必要になってくる。ま、なにはともあれ、踏み出した一歩は続けなくてはならない。

 図書室には、完成したコアジサシのデコイが52羽並んだ。制作中が36羽、あと12羽足して百羽にする予定だ。再整備1期分で工事済みの砂と砂利を敷いた裸地に置くつもり。

 コアジサシが戻るまであと20日あまり。そのころには、イギリス鳥類保護協会(RSPB))のボランティア・ワーデンとして1年間、3ヵ所の保護区で働いてきた佐藤達夫君が戻ってきている。その前年、アメリカの国際ツル財団(ICF)で1年間ボランティアとして働き、現在の観察舎にはなくてはならない存在になっているバイト生の石川一樹君も仕事を続けてくれる予定だ。若いモンに負けてばかりいてなるものか。オバタリアンもがんばるぞうっ! 

 棚田からの帰り道、ツバメが1羽飛ぶのを見た。3月21日、今年の初認である。今年もいそがしい年になるんだろうなあ。こわいけれど、楽しみ。



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