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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
43/95

43 気温と日照

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年4月号掲載


43 気温と日照


 ふだんは開け放しておく猫出入口(台所の窓の一角)を締切にして温風ヒーターをずっとつけているのに、室温が13℃からなかなか上がらない。ようやく少し暖まったな、と思ったら、案の定目盛りが14℃を示し、こたつにもぐっていた猫どもが室内のあちこちに出てきた。今日は寒い!小雪は止んだようだが、空はどんよりと曇っている。

 2月12日の夕方には、来あわせたイギリスの方が早々とコウモリを見つけられた。14日のバレンタイン・デーは前夜から暖かく、日中は防寒着や手袋がいらないほどで、成虫越冬のキタテハが何頭も飛びまわっていた。案の定、夕方6時ごろからコッコッコッというヒキガエルの声がしはじめた。なんでもこの声は他の雄に乗りかかられた時に雄が出す抱接拒否のサインだそうで、ヒキガエルが冬眠からいったんめざめて抱接、産卵をする時期に限って聞かれるものだ。産卵を終えたカエルは再び冬眠し、5月になってようやく本格的に起き出す。めざめのサインは地温が6℃をこえること、という記事を読んだ。それまでの寒気とうってかわったふわっと暖かい宵、どこからか花の香りが漂ってくるような、そんな3月の夕方、薄暗くなったころに一斉に出てくるのだが、ここ行徳、というより野鳥観察舎前の餌場の池出身の連中は、たいていは2月の春一番の後にぞわっと出る。その後に必ずやってくる寒の戻りで、うっかりふ化したオタマジャクシはひどい目に会い、年によってはほとんど育たないこともある。それでも気候がよくなってから生まれた卵が無事に育って、ヒキガエルは毎年繁栄を続けている。

 14日の夕方は、観察舎裏口のらせん階段からわが家まで、およそ60mの間で少なくとも20頭のヒキガエルを見かけた。ほとんどは前年生まれの小柄な雄で、おんぶがえるは1組しか見ていない。道いっぱいにのそのそ、ぴょんぴょんしている連中をひくのがこわくて、自転車で走るのは容易なことではなかった。わが家ではヒキガエルは轢きがえると書くのである。翌15日には餌場の池で5頭ほど見かけたが、産卵の確認はできなかった。16日の凍るような寒さで、また枯れ葉をかぶって冬眠したことだろう。

 気温変化はヒキガエルにとっては大切な季節のサインだ。今年はこれまでの暖冬に比べると、かなり気温が低い「ふつうの冬」のため、早春の花の一つであるニワトコの花芽はまだほとんどふくらんでいない。一方、ロウバイ、水仙、梅といった真冬の花は気温とあまりかかわりなく次々に開花している。気温の変化に敏感なものと、それほどでないものがある。

 日本に住む私たちが感じとる季節変化とは、何よりもまず気温ではないだろうか。寒い冬、暑い夏、涼しくなれば秋、暖かくなれば春。人間やヒキガエルはせまい範囲に定着して暮らしているのだから、その土地の気候に適応していればよいわけで、気温を指標にしても大きなトラブルはない。しかし鳥、特に長い距離を渡る鳥にとっては気温変化は確実な指標とは言えない。日本が暖冬だからといって早めに故郷のシベリアに帰ったら、雪と氷にとざされて死ぬかもしれない。従って、鳥たちのカレンダーはもっと着実な太陽―日照時間の変化に基づいているとされる。

 立春をすぎたとたんに、カモたちの求愛行動が盛んになってきた。オナガガモとカルガモについては交尾も見かけた。気がつくと、野鳥病院の中にいるウミネコたちの頭は、もう純白の繁殖羽になっている。アオサギの嘴も赤みを帯びてきた。餌場のバンは、くちばしがまっ赤になったペアが、まだ赤みのうすいペアをさかんに牽制している。芝生で餌を探しているムクドリも、色の濃い雄とぼやけた雌がいつも組になっている。

 こうした事実を目にするたびに、立春、春分、夏至、立秋といった日照にもとづく季節のことばの知恵をあらためて思う。生きものが教えてくれることはかぎりなく広く深く、その上新鮮だ。


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