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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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42 カエルがこわい

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年3月号掲載


42 カエルがこわい


ぐにょっ?「キュッ!」

 ああ、やっちゃった……いつかやるとは思っていたけど、とうとうスコップでカエルを直撃してしまった。どうしよう、どうしよう……

 とるものもとりあえず、そっと土をどけてみると、どっしりとした特大級のウシガエルが地面からほんの2,3センチのところにきっちりおさまっていた。閉じていた目を開けたものの、そのままじっとしている。さいわい背中に傷らしいものは見えない。背骨はどうか。ともかく引き出して様子を見ようとしたが、おなかをぷーっとふくらませて、断固たる抵抗の構えである。もしかしたら無事なのかしらん。

 ちょっとわいてきた希望とともに、まわりの土をそっと掘って、おなかに手を回して持ち上げた。すると、うれしいことにぴょーんと跳んで逃げようとするではないか。動作の不自由さとか内出血の様子も特に見あたらない。じたばたする特大ガエルをよしよし、いい子だ、となだめながら池の中に放すと、ひと跳ねで潜って消えてしまった。ほっとして力が抜けて、それからというもの、いまだにスコップに力が入らない。みなと新池の棚田の耕耘はまだようやく半分済んだだけだというのに。カエル、こわいよう。

 1月15日の成人の日。朝から妙に暖かくて、昼ごろには寒さに備えて重装備で水鳥カウントに出かけた面々が、暑い暑いとあごをだして戻ってくる始末。またまたカエルの恐怖がはじまった。こんな陽気が夕方まで続くと、冬眠中のヒキガエルが起きてきてしまうのだ。なんでもヒキガエルは地表の温度が6℃をこえると起き出して抱接・産卵に向かい、そのあともう一度冬眠しなおして、5月ごろにちゃんとめざめるとのこと。かつて山階鳥類研究所があった渋谷区南平台の屋敷街の路上で、3月ごろのなま暖かい宵に何匹ものヒキガエルが歩いているのを何度も見たことがある。しかし、わが家のまわりのカエルたちは、春一番が吹くとすぐさま出てきてしまうのだ。その後に必ず寒の戻りや降雪があり、半分凍った池の中で産卵しているカエルを見て心配したのも一度や二度ではない。

 実はこのあたりのヒキガエルの祖先は私の実家の文京区大塚の出身である。十年以上も前に、伯母の金魚の池に生まれた卵をもらって餌場の池に入れたのがはじまりで、産卵時期になると、みんな餌場の池に戻ってくる。中には行徳高校の前あたりから、何百メートルもの道をたどってくるものもいる。しかし、文京区と行徳の気候の違いか、冬眠からのめざめが不安定なような気がする。

 この日の夕方、起き出したヒキガエルは少なくとも4匹以上。雄のカエルが他の雄に乗りかかられると鳴く抱接拒否のコッコッコッという声も聞かれ、産卵したらどうしよう、とひやひやした。翌日も3月末ころの温度という暖かさは続いたが、夕方から気温が下がり、幸いに産卵は見られずにすんだ。カエルたちは落ち葉をかぶったり、U字溝にもぐったりして再び冬眠に戻ったようだ。

 12月から始まっている保護区の環境改善工事は目下フル回転。観察舎の前の導流提に砂と砂利を敷き、貝殻をまく作業はまもなく終わる。海に岬を突き出す工事は基礎の段階で、あと少しで難関を乗り切るところ。池はもう形ができているが、仕上げは岬の完成後になる。毎日現場で立ち会っていると、工事の進め方や問題になるところがよく分かって面白い。

 工事がしやすいように潮を下げるため、このところ何度か真夜中の水門操作に出かけている。保護区の水面でいちばん潮がひいた時に水門を閉め、次の干潮時にいったん開けてさらに水位を下げ(保護区の外の海のほうが潮が大きく動くので)、潮が上がってくる前にもう一度水門を閉めるという作業だ。干潟の生物のダメージを避けるため、何日かごとに潮を上げてやる必要もあるが、こちらは日中でもできる。水門の開閉はボタン一つで済むが、やっかいなのはタイミング。ざあざあ音を立てて勢いよく水門を流れる潮が、中と外の水位が等しくなった時にぴたっと止まる。そして、ほんの2,3分後には反対方向に動き出し、10分もたつとまた音を立てて流れ出す。

 真夜中の潮待ちは、ダイナミックな海の呼吸、星のめぐりを肌で感じるひととき。眠気をがまんするだけの収穫はある。これもぜいたくのひとつかな?でも、寒い!


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