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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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41 再整備工事開始

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年2月号掲載


41 再整備工事開始


 「明日っから重機を持ってきますから。いやあ、いつまでも来ないって心配してるんじゃないかと思ってね」

 11月30日の午後おそく。傾きかけた陽ざしの中で相棒の石川君と二人、黙々と棚田を耕しているところに、おなじみの建設会社の監督さんが来られた。ようし、いよいよ始まる!待ちに待った環境改良事業。偶然にも工事開始の12月1日は、ちょうど20年前に私たち夫婦が観察舎に引っ越して常駐の管理者となった記念の日付でもあった。

 昨年の春から検討協議会で話し合いを重ね、予算や計画が決まってからも何度も県に出かけては、担当者は設計会社の人と相談してきた。秋からは、いつ工事が始まってもいいように、図面を見ながら工事のための進入路や池のりんかくなど、だいたいの目安がわかるようにやぶこぎや草刈りを進めた。入札、業者決定、各種許認可と県の仕事も順調に進み、11月9日に打ち合わせと現地下見が行なわれた。あとは重機を待つばかり……さあ、それからの日時の長いこと。

 この分では年内には始まらないかもしれないなあ、気長に構えよう、と思いながら、水を落とした棚田の耕耘を始めていた。半分には水を張って池へ流す水量を確保し、残り半分は手入れができるようにする、というのが5段の棚田を中央に立てた畔で2枚ずつに仕切った理由である。水を止めて全面を干上げた昨年にくらべると、泥の乾きが遅く、重くて耕耘には骨が折れる。ころころに脂肪をつけて泥にもぐっていたドジョウを次々に掘り出したり、でんぷん質でいかにもおいしそうなガマの地下茎を試食しようとおき火に埋めておいたら、跡形もなく焼けてしまったり(ガマの葉は生でもよく燃えるので、燃えにくい草を焼くためのいわば灯油がわりに使える)、休日の午後、今日こそしっかりボランティア、と張り切って出かけたのに、泥の重さで腕をいためそうになって早々にリタイア等々、いろいろあって面白い作業である。

 よし、いよいよ工事開始! 翌日はミカンと図面を防寒作業衣のポケットにつっこみ、日焼け止めクリームを塗りたくっていつでも出かけられるように準備した。そろそろ機械が入るかな、と3階から見ると、大きなショベルカーがもう作業をはじめているのが見えた。それっ。

 この日からほんの数日のうちに池の造成予定地全体に茂っていたアシやススキやセイタカアワダチソウはさっさとブルドーザーでなぎ倒され、掘りとられて土手の予定地に目印がわりに押しやられ、あっという間に裸地の掘削がはじまった。

 毎度のように重機の威力に恐れ入っている。道路保護のための鉄板敷きやレベルの測量に何人か手伝いが来ているが、ほとんどの作業は大型のユンボーとブルドーザーを使って、わずか2人のオペレーターさんがたんたんとこなしているのだ。工事期間中はできるだけ連日立ち会うつもりで、写真記録をしたり、ルートや掘削の相談になんとなく顔を出したり、ひまな時間には棚田の草を焼いたり、耕したり、健康的な楽しい生活を送っている。少々悲しいのは、でっかいショベルが楽々と一度に1立方メートルもの土を掘りとっている近くで、スコップでしこしこと一度に3リットルずつ泥を掘り返す作業。もう慣れてしまったけれど。

 土といっしょに掘りとられてしまったおびただしいカニさん、何匹ものカエルさん、そのほかもろもろの生きものたち、ごめんね。めざとく集まってきたカラスの群れがちゃんとお葬式をして、お腹にいれてくれたらしい。

 12月10日の新浜探鳥会に来られた友の会のお仲間は、なまなましく泥がむきだしになった広大な池の工事現場を見て、みな感無量だったようだ。これまで携わった池作りに比べると、工事がひとり歩きしているという一抹のさびしさもあったみたい。工事開始前からおもしろいところをみんな見てしまった私ひとり、申し訳ない気持ちだった

 仕方ない……これもわが特権である。



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