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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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39/95

39 軍手・スコップ・草刈機

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1995年12月号掲載


39 軍手・スコップ・草刈機


「いつも、一日目はメゲるのよ。去年だって、もう二度とやるもんかーっ、てね。三日目くらいになるとあきらめがついてくるんだ。来年はゼッタイやらないぞ、って思っていたんだけど」

 脚立が重い。草刈機が重い。リヤカーが重い。気分だけはまあまあの軽さ。

 今週と来週は空き時間を全部使って、保護区の再整備工事のための下準備をするつもりだ。観察舎に住み込んで保護区管理の職についてから20年―いよいよ「水鳥のための」保護区の環境改善工事が実際に始まる。経験と知識のありったけを傾けて(あんまりないなあ、逆さにして振ってもたいしたものは出ないなあ、とびくびく、ひやひやする気持の一方で、これ以上のものは考えられない、という開き直りの気持もしっかりと持っている)、ともかくきっちり成功をおさめなくてはならないしろものだ。武者ぶるいの心境である。

 月末の週には霞ケ浦での世界湖沼会議に出るため4日も保護区を留守にする。11月に入れば間もなく重機を入れた工事がはじまる。それまでにダンプが通る道筋を決め、土砂を運ぶルートを決め、池の輪郭線の見当をつけ、残すべき植生などがあればチェックしておかなくてはならない。その合間には、晴れた日が続けば禽舎の敷きわら用に干し草をとりこんでおかなくてはならない。ルートや輪郭線がひととおりついたら、工事の現場立ち会いの合間をみてみなと新池の耕耘作業が待っている。軍手、スコップ、草刈機の日々だ。

 嫌いな仕事なんぞでは決してなくて、それどころかおおいに張り切っているわけではあるが、体が慣れるまではきつい。オバタリアンだからきついというわけじゃない、と自分に言い聞かせつつ、非力なために相棒の石川君に迷惑をかけるなあ、となげきつつ、ともかくフィールドに出る。

「目印はあの竹でいいのかなあ、ちょっと左に寄りすぎているし、高いんじゃない?」

「もう一段脚立に上がって確かめてみますよ」

 目標地点まではしゃにむにやぶこぎ。しっかり育ったススキの株など、上に乗ってもつぶれないほどだ。ほふく前進か、後ろ向きになって背中で押すか、ともかく体重をかけて押し倒さないと前進できない。わずか50メートルほどの距離でも、こけつまろびつ進むのに時間がかかること。要所には白い布きれを結んだ竹を立て、地図と見比べながら、最短距離をとるようにやぶを刈り進み、歩いたり見通せるだけの道をつけて行く。

 刈ったススキの茎の中が鮮やかな朱色をしていることを初めて知った。ススキの刈り跡でナンバンギセルの花を見つけることもある。胸ほどの高さのアシの茎にクロベンケイガニが何匹も上っているのを見た時は仰天した。こうした作業中にしかなかなか目にできないものだ。それにしても、何年ぶりかで扱う草刈機での作業はわれながら実にへたくそである。相棒氏ははるかかなたに刈り進んでいるというのに。

 日が傾き、ねぐらに帰るサギが上空を飛んでゆく。さて、終業時間になった。草刈機のスイッチを切ってベルトからはずし、はるかかなたの石川君を呼びに行くと、ちょうど区切りをつけて戻ってくるところに行きあった。脚立を背負って先に立ったのはよいが、朝からの作業はけっこうこたえていたらしい。よたついて二度も転んでしまった。「リヤカーをとってきますから、待っててください」 情けなや! まあ、初日は仕方ないよなあ。

 なんとか、かんとか言いながら、こうした作業の時間の貴重さを思う。自分の体を動かして、ひとつひとつ積み上げてゆくことができる幸せを思う。二度とやるもんか、と心の中で悪態をつきながらも、ほんとうは、こうした楽しさをどうやってうまく他の人にも味わってもらったらいいのか、考えなくては、と思う。思うだけではなにごとも進まない、と思う……



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