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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
35/95

35 さくらんぼ

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1995年8月号掲載


35 さくらんぼ


どんよりと曇った空、じわっと肌をつつむ湿気。いかにも梅雨らしい日々だ。たまに雲が切れて陽光がさすと、あたりの緑がこんなにもみごとだったのかと目をみはる。室内いっぱいに干したせんたくものや、大好きなふとん干しができないことはありがたくないけれど、アジサイが咲いて、クチナシが咲いて、キツネノエフデがにょっきり突き出して、この時期ならではの楽しみも多い。

 小雨がぱらつく夜、外灯の下には片手に乗るくらいのかわいいヒキガエルが何匹も出てきて、落ちてくる虫をねらっている。去年生まれのものだ。ちょんとつつくとのそのそ逃げて行くが、うっかりけとばしてしまったりすると、足をつっぱってのびあがり、体を思いきりふくらませて威嚇する。あたりには蚊やユスリカはいくらでもいるけれど、外灯に集まる小さな蛾や甲虫くらいで、こんなにたくさんのヒキガエルの餌が足りるのだろうか。見たところではどれもまるまるとしている。わが家の悪猫どももヒキガエルには一目も二目も置いていて、おいそれとちょっかいを出す様子はない。

 6月に入ると観察舎へのアプローチの山桜並木の実が熟して、ムクドリやヒヨドリで連日大にぎわいになった。小さなさくらんぼは赤から黒に変われば完熟だ。木によって個体差があって、たいていは苦くておいしくないが、中には甘みがあってけっこういけるものもある。もっとも種と皮ばかりで果肉はほとんどないけれど。

 ムクドリのヒナが巣立つ時期で、幼鳥にとってはありがたいごちそうに違いない。桜並木に集まる鳥の大半はムクドリの幼鳥だった。ここまでは例年と変わらないが、今年は薬物中毒と思われる死亡事故が13日から17日に集中して起きた。倒れてけいれんしているものから、もう冷たくなった死体まで、持ち込まれたものだけで11羽。水を飲ませて毒物を薄めようとしたが、けいれんがおさまっていったん立ち上がれるようになったものも、1、2時間のうちに死んだ。「農薬の使用にはじゅうぶんご注意ください」という掲示を出してから、中毒死はぴたりと止まった。

 人間と鳥の生活について、考えさせられる事件だった。殺虫剤や除草剤の使用と鳥についてはいまさら言うまでもない。「実のなる木を植えましょう」という運動と、果実食の鳥の増加についてのことである。

 春先の桜のみごとさはなんとも言えずうれしいもので、日本に生まれてよかったと思うほどだが、6月の桜並木は例外なくムクドリやヒヨドリでにぎわっている。これもそれなりにたいへん楽しいし、鳥たちが集まっていれば、桜が大好きな毛虫たちもそれほど大発生はしないだろう。それでもすぐそばでは糞公害に悩まされるだろうし、わずらわしく思う人も少なくないに違いない。都市で増えるドバト、カラス類は人間の給餌やゴミなしではやって行けない。ユリカモメは姿が美しいために問題にされないが、まあ似たようなものだ。ヒヨドリ、ムクドリ、キジバトといった連中も、人間が増やした鳥と言ってよい。

 バランスを正す必要、断固たる態度……そろそろこうした言葉をきちんと考える時期なのかもしれない。生命尊重という言葉は概念の上では光り輝く高貴なものだ。しかし、現実に応用する際には偽善の要素を含む。もっとも、衝突による脳障害で終生立てない鳥を薬殺することさえ満足にできない私には、こうした議論をする資格はない。

 さて、そうは言っても、鳥がきれいだ、かわいいという気持なしには……それ以前に、生をうけた仲間として認める気持なしには、環境問題にかかわる意識は育たないのではないだろうか。

「玄関にできたツバメの巣がもう二度もカラスにこわされて、今、三度目を作っているんですけど、何とかカラスにやられない方法はないでしょうか」

「ツバメの巣に蛇が上がっているんです。蛇もたいへんでしょうけど、追っ払っていいでしょうか」

 もう、いいんだ。できるだけ自分の気持に正直に行動するようにしよう。こうした電話の応対をさせてもらえるのは、ほんとうにありがたい。



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