30 スコップで夢を掘る
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1995年3月号掲載
30 スコップで夢を掘る
セイタカアワダチソウのしげみから小鳥が飛び立った。青い!とっさにシジュウカラと思ったが、羽が青い。ルリビタキ。それも保護区ではまず見られない雄ではないか。頭と翼がきれいな青、背中のあたりは灰色っぽいので、たぶん若鳥だろう。ジョウビタキのようにパッパッと尾羽を広げては、体を起こしてあたりを見まわす。向きをかえるたびに脇のオレンジ色が目立つ。ところが……何とまあ、双眼鏡を持ってきていなかった。
本日のいでたちは自転車のかごにスコップ1丁、防寒作業服のポケットにはミカンが5つ。軍手に日除け帽の完全装備だ。みなと新池の棚田の手入れ、第3弾。ホテイアオイを引き出して草を刈り、刈った草を焼いて、いよいよおつぎは全面耕耘とヨシの根掘りである。アルバイトの佐藤くんをはじめとして、できる時にできる人でぼちぼちと作業を進めているが、なかなかはかどらない。
本来は5枚ある棚田を全部掘り返したいところだが、まずは4枚目中心。ここに市川の北の方にある湧水の池の浚渫泥を実験的に入れてみる予定。泥に含まれた植物の種子やプランクトン、場合によっては昆虫なども入ることを期待している。泥入れの前にできるだけアシの根を除きたい。機械力なし、目下人力のみ。
スコップの刃を研いでもらったので、土にすっきりと刃が入るし、地下茎やからんだ根もおもしろいように切れる。力がなくても時間さえあれば進められる作業だ。しかし、通勤距離50メートルという地の利をほこるわが家でも、勤務日にはとうてい時間がとれない。週休はちゃんと2日あるが、原稿締切や雑事の合間をぬって、1時間でも2時間でも時間を作るのはおおごとだ。
ともかく出てこられたのだから、それが何よりかんじん。手がちぎれそうに冷たい北風も、ものの30分も掘り返し作業を続けると、心地よく感じられてくる。防寒服、トレーナー、綿シャツと次々に服を脱いで、作業服の下はシャツ1枚になった。手をとめてふと見上げると、青空をノスリが1羽、ゆうゆうと舞っている。もう1羽視野に入ってきたのもノスリ。きれいだ。
仕事のきりをつけて手伝いにきてくれた佐藤くんと二人、せっせと働いた成果はまあ合わせて10メートル四方というところか。「ショベルカーの小さいのでやれば、今日やった広さなんて10分くらいで終わっちゃうかなあ」「来年はどうしてもトラクターかショベルカーが欲しいね。また同じ作業を手でやるのはちょっときついよ」
保護区に湿地を復元する整備計画がいよいよ実現間近。生活排水か下水処理場の処理水に水源をもとめることになるだろう。汚水といっても貴重な淡水であることに変わりはない。「富栄養化」ということばでもよくわかるように「汚れた水」とは「栄養物が豊富」と言い換えることができる。「汚れ」の成分である有機物―BODとかCODということばで量の目安をあらわすーはバクテリアの栄養源になる。同じく「汚れ」であるリンや窒素などの栄養塩類は、植物の肥料となる。バクテリアはゾウリムシなどの微生物の餌になり、植物プランクトンはミジンコが好んで食べる。こうしてできた食物連鎖にはユスリカやボウフラもいるし、魚やヤゴもいる。このサイズなら鳥の餌にもなる。「汚れ」の成分である「栄養」を適切に生かすことができれば、豊かな湿地が再現できて、水鳥もふやせるはずだ。
そのためには、十分に日光や酸素が供給されるごく浅い水域が必要。こうした水域で水中の「汚れ=栄養」がかなり「消費=浄化」された上で、ある程度の深さをもつ池に入れるというのが、このみなと新池の構造である。浄化のための棚田はここでは面積約18アール。しかし現状では、この面積でさえ管理作業が追いつかない。頭が痛い。
それでも、青空のもとで、土を相手に体を動かす気分は最高!ミカンがおいしい。
あなたもスコップで夢を掘りませんか。これ、ちょっとキザ?




