26 気温低下
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年11月号掲載
26 気温低下
もういやっ、9月の熱帯夜! 台風がそれた後のものすごいむし暑さにうんざりしながら、いつものように窓も遮光カーテンも開け放したまま、タオルケットもかけずに寝た。寒くて掛布団のひっぱりっこをしている夢をみて、ふと目をさますと、右にも左にも猫がくっついて寝ている。暑さが急にひき、気温は24~25℃というところだろうか。朝方のひんやりとした涼しさなんて、ごぶさたしすぎて忘れていた。起き上がっても汗が出ない。体が軽い。なんでもできそう、と言いたいところだが、とりあえずはただほっとする。
9月12日の明け方から気温が一挙に低下。もちろん海は大規模な青潮発生で、アサリはへたをすると全滅かもしれないとのこと。ウミネコやカワウはふらふらしている魚がいくらでもとれるので、集まって大宴会をやっているそうだ。涼しくなるとてきめんに襲う底層の酸欠水の湧昇である。
極端な暑さ続きだった今年は、気温の落ち込みも唐突で極端だ。まず8月20日には、連日35℃をこえていた室温がいきなり27℃に下がった。この時は猛暑がすぐにぶり返し、9月11日までは最低気温ですら27℃近かったのに、13日の最低気温は一挙に19℃になった。例年なら青潮が、魚が、と心配するのだが、もうこうなると青潮が出るのが当たり前、としか言いようがない。いつごろおさまるかと思うだけ。思考や感情まで夏バテの様相かもしれない。
気温に振りまわされているのは人間だけではなさそうだ。冷夏の昨年は8月の半ばにはススキの穂が出ていたが、今年は9月10日すぎてからようやく目につきはじめた。逆に鳴く虫の羽化は昨年はひどく遅れて、ひととおりの種類が出そろったのは9月も半ばすぎだったが、今年は8月半ばには見事な大合奏が聞かれた。
鳥の渡りの方は気温とどの程度関係があるのだろうか。まず、カモの初認については例年と全く変わりがない。8月末にはコガモ(ちゃんと種類が確認されたのは9月に入ってからだったが)、9月初めにハシビロガモが見られている。コアジサシは8月末、ツバメはそろそろ、と夏鳥が消えるのも例年と変わりなかった。もっとも昨年は雨続きのために繁殖が遅れたのか、9月に入ってから親鳥に餌をもらっている巣立ち直後のツバメの家族を見かけたが、やはり中旬には姿を消した。
ちょっと気になっていることがある。9月8日、ひさびさに保護区の中を一周した時、観察舎からは反対側にあたる百合が浜のはずれの方で70羽ほどのカルガモの群れを見かけた。近づいてゆくと、カモたちのほとんどが「走って」海に逃げた。換羽の最中で飛べないものに違いない。カモ類は翼の風切羽が一度に抜け落ちる。餌場に来ているカルガモなど、一羽分の風切羽のほとんど全部を同じところで拾うことがあるほどだ。抜け落ちてから3週間以上の間、カモたちは飛ぶことができないので、広い湖沼など安全な場所に集まるという。このカルガモの群れは明らかに換羽のために集結したものだった。しかし、私のあやしげな記憶に誤りがなければ、餌場で風切羽をごっそり拾うのは7月が多かったと思う。8月半ばすぎの換羽群というのはずいぶん遅いような気がしてならない。
もっとも、話には聞いていたものの、カモの換羽群というものを実際に目にしたのはこれが初めてだった。観察舎正面の鈴が浦のあたりでもカルガモが50羽前後の群れをなしてぞろぞろ泳ぐのを8月末からよく見かけているが、これもどうも換羽群のように思われる。干ばつで安全な換羽場所が見当たらず、保護区に移動してきたものかもしれない。これが通常のことか、今年に限って見られたことかもわからない。わからないことがいっぱいあるというのはとても楽しいことだけれど、わかっていることがほとんどないというのはちょっぴりなさけない。
そう言えば、今年はまだヒタキやムシクイなどの渡り途中の小鳥の入院がない。もしかすると、国内での動きは暑さの少し遅めなのかしらん。……あっ、「まだ○○が入院しない」は禁句だった。口に出したら最期、土砂降りのように入院鳥が続くことが多い……




