25 オアシス
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年10月号掲載
25 オアシス
まっ青に晴れ上がった空にみごとな積雲が立ち上がっている。高曇りの白っぽい空は見るだけでもじっとりと蒸し暑いが、こんなきれいな夏空を見ると、強烈な陽ざしまでかえって痛快だ。吹く風にどことなくひんやりとした秋の気配を感じるのは気のせいだろうか。
青空に安心しきってふとんを全部干したら、急に日がかげってにわか雨が降りだした。乾ききった導流提から盛んに湯気がたっている。開け放した玄関からしぶきが吹き込んで、いくらか涼しくなった。ひとしきり降った雨はすぐ止み、30分もたたないうちに道路はまたからからに乾いた。
おしめり程度の降雨は時たまあるにせよ、雨量があまりにも少ない。昨年の冷夏と長雨をそっくり反転した今年の夏。体温に近かったり、時には体温を越えたりする気温の中で仕事をしていると、30℃をわずかでも下回れば涼しいと感じる。人間は何にでも慣れる、と感心していたら、冷房を止めて20数日という香川県庁のニュースの中で、「37℃くらいだと涼しいと思うようになりました」という発言があった。いや、まだまだ修行が足りない。行徳は東京よりははるかに涼しいし、水ぎわにある観察舎は避暑地のようなものなのだから。
池が干上がりはじめた。2週間の日照りで水がなくなる北池は乾燥しきってからもう1ヵ月近く。旧淡水池もビニールプールの部分を除いてからからになり、周囲にうっすらと生えた草と白い地面は見るからに砂漠のオアシスだ。行き場がなくなったサギやカモがぎっしりとあつまっているところもいかにもオアシスらしい。水源である丸浜川の水位がずっと低いため、上池、下池も水が減った。
幸いにみなと新池だけは至って順調で、行徳地区最大のポンプ場である湊排水機場の遊水地から日に12時間水を入れている。水源が生下水そのものなので、浄化のために水はまず5枚の棚田を次々に流下するが、棚田にはそれぞれ違った植物がしげった。1枚目は水稲のはずだったが、バケツに2杯ほど入れたホテイアオイがみるみるうちにひろがり、十日ごとに倍増の勢い。草丈はたっぷり50㎝、つやつやした緑の葉のみごとなこと。一緒に植えたコナギまでサトイモなみに育った。生活排水の威力である。2枚目は特色なし。3枚目には稲と各種の湿性植物を入れたが、稲とケイヌビエがどちらも腰までの高さにのびて穂をつけはじめた。4枚目と5枚目はアシとヒメウキクサが中心で、片隅に植えたコナギやアギナシも化け物サイズになっている。池本体では、蓮やガマは植えられたままひっそりしているのに対し、トチカガミとウキクサとアオミドロが大繁殖し、姫睡蓮の葉が蓮なみの大きさになった。
水質調査のデータを見る限りでは、水の浄化はまあまあ大丈夫と言えそうだ。遊水池に入れた水車も幸い故障せず、遊水池の水はこのごろはいつも緑色で、強烈な悪臭もどこへやら。ツバメが水面を低く飛んでいるところを見ると、ユスリカも発生しているのだろう。暮れがた、夕焼け空が少しずつ色あせてくるころ、みなと新池の上空は乱舞するアブラコウモリでいっぱいになっていた。
もっとささやかなオアシスもある。旧淡水池に入れる上水が月に50立方メートルだけ使えるが、水道の栓のところにごく小さな池ができている。ちょろちょろと流す水がささやかな水面をうるおし、近づくと次々にカエルがチョポンと池に飛び込む。
さらにかれんなオアシス。観察舎の脇にならべたトロ箱やバケツに種籾用の稲を植えてある。ひとしきり水を張ったら、フタモンアシナガバチが次々にやってきた。水を飲むというより水汲みにきているのだ。水を運び、巣に水滴をつけて翅をふるわせて風を送り、水冷式のクーラーにしているに違いない。焼けつくような日光の直射を浴びても、水さえあれば蜂の巣は無事だ。
小さくても大きくても水のある光景は美しい。もっともっと水のある光景をふやせたら、この保護区もよいオアシスになるだろう。




