24 コバンちゃん
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年9月号掲載
24 コバンちゃん
ふーっ、毎日暑いですねえ。昨年の長雨と冷夏をきれいに反転したような天気。みなと新池の揚水設備がしっかり稼働しているからいいようなものの、丸浜川のポンプは水位低下でひんぱんに止めざるを得ず、北池もあと数日で干上がりそう。干草づくりにはもってこいの陽気だけど。
7月7日からセイタカシギが戻ってきている。ヒナ3羽の家族連れ、ヒナ2羽の家族連れ。同時には11羽が見られた。葛西の野鳥公園で繁殖したものか、それとも中央防波堤外埋立地のものか。保護区での繁殖は失敗だったが、各地で元気に育っているようだ。東京湾のセイタカシギはぼちぼち安定成長型になってきたのかもしれない。
目下たいへん気をよくしていること。野鳥病院開びゃく以来初めて、ふ化後間もないバンのヒナが健康に育っている。名付けて「コバンちゃん」。青大将に巣を襲われ、腰に大きな傷を負って入院したものだ。わが野鳥病院ではどうしてもうまく飼育できない種類がいくつかあるが、バンのヒナもその一つ。何を食べさせても消化してくれず、一晩のうちに死んでしまうのが常だった。それほど入院例が多くはないが、野外で見る限りではなんでも食べ、一見飼育がやさしそうだ。それなのになぜ死ぬのかわからず、ひどい挫折感に悩まされていた。親はヒナに赤虫(ユスリカの幼虫)を与えているのに、赤虫をやっても吐く。そもそも給餌を断固としてはねつける。
コバンちゃんは体重わずか16グラム。赤い嘴の先は黄色で、間に黒い帯がある。先端にはぽっつりと卵歯がついていた。ふかふかの黒いモールのような体にひどく大きな足、そして頭の毛がうすく、眉毛のようなこっけいな飾り羽がある。机の上に出すと、先輩のコアジサシのヒナにすりよって、無理に翼の下に潜ろうとした。
まず型どおり、通常の代用食である金魚の浮き餌やパンを無理に食べさせてみた。やはり吐く。ミルワームもだめだ。腰の大きな裂傷は無残だが、出血は止まっているし、元気はよい。ホカロンで十分体を暖めてあるのに、なんで餌を受け付けないのか。午後から夕方にかけ、なんとか食べさせようと格闘を続けたが、うまく行かなかった。体重も14グラム弱に減り、今までのバンのヒナと同じ運命をたどるのではないかと不安がつのるばかり。
ふと思いついて、外のU字溝から泥を取ってきた。イトミミズがたくさんいるはずだ。泥をざっと洗い、容器に入れて置いておくと、イトミミズがゆらゆらと水中に体をのばしはじめ、やがて赤い塊になった。ひとつまみ取って新聞の上に置くと、よい具合に丸くまとまる。これをヒナにやってみた。受け取るそぶりは全然ないので、ピンセットで無理に嘴に入れてやる。呑みこんだ!試しに泥の表面につく緑色のユレモも食べさせてみる。あまりいやがらず、吐き出さない。やった!
翌朝になってもコバンちゃんの体重は16グラムを維持し、夕方には1グラム増えた。夜の最後の給餌時には2グラム増えた。ようし、この調子。
強制給餌を3、4日続けるうちに、あたりの餌を自分からつつき始めた。粒餌、パン、ワカサギ、ミルワーム、イトミミズや浮き草、泥。何でも食べる。1週間で体重は倍になり、十日後には3倍近い46グラムに達した。それでもあいかわらずコアジサシの翼にもぐろうとするので、コアジサシも困った様子だったが、寝る時は自分から寄り添ったりして、なかなかかわいい眺めだった。
入院後20日目。嘴の赤色はピンクに変わり、そろそろ若鳥の褐色の本羽が生えてくるはずだ。体重は130グラムに達し、足はおとなと変わりないほど大きくなって、恐竜じみた体形になっている。あいかわらずピイジュウとうるさく鳴いて、コアジサシに餌をねだったり、スズメにすりよったり。ムクドリのヒナを卓上に出すと、生意気にもいきなりけりかかった。背伸びしてツバメに食いつくのも困りものだが、ともかく見ていてあきない鳥だ。
あと1か月ほどして、コバンちゃんに足環をつけて放鳥するころには、野鳥病院のラッシュ時期もそろそろきりがつくはずだけれど・・・・・・。




