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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
16/95

16 アシ原のオオジュリン

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年1月号掲載


16 アシ原のオオジュリン


 首に鳥袋をずらりと下げたバンダーさんが戻ってきた。「網をひろげて初回の見回りで20羽以上かかってました。オオジュリンがほとんど。」

 網場は北池の広大なアシ原の中にある。一様に浅い湿地で、半月も雨が降らずにいると干上がりはじめるが、雨続きの今年はまだ泥底を見ない。いちばん深いところでも水深は20センチそこそこ。泥に足をとられ、ひざ丈までの長靴だとズボンが泥だらけになるので、踏み込むにはももまである特長とくながが必要になる。

 このアシ原で、このところバンディングをやるたびに日に100羽以上ものオオジュリンが捕獲されている。「これだけとれているのにリピートなんてほとんどいないんだよ。リターンもあんまりいない。そうだ、今日はリカバリーが5羽もいて、北海道南部からのダイレクトが1羽。初記録じゃない?」

 リピートというのは、同じ場所で同じ渡りのシーズン中(秋なら秋、というように、前回の捕獲から半年以内)に捕獲されたものをいう。「くりかえし」つかまった、ということ。リターンというのは、半年以上を経過して同じ場所で捕獲されたものをいう。春にとられたものが秋に「戻って」きたというような場合。いちばんおもしろいのはリカバリーで、違う場所(5キロ以上離れたところ)で再捕獲されたものをいう。ダイレクト・リカバリーというのはその渡りのシーズン中に、他の場所で再び捕獲または回収されたということ。

 オオジュリンは小鳥の中ではもっとも回収例が多い。ライセンスを取得しバンディングをやっているバンダーさんは全国に散らばっているが、秋から冬のアシ原は調査地の筆頭で、アシ原の鳥の代表格がオオジュリンだ。さらに、網場にできるようなまとまったアシ原が局限されることにもよるのだろう。ともかく、100羽~200羽に1羽くらいの高率でリカバリーがある。北池のオオジュリンは宮城県の蕪栗沼との連絡が多いそうだが、北海道や九州での再捕獲例もある。

 リカバリーが多いことでは歓迎されるが、バンダー泣かせの性質もある。オオジュリンは同じ袋に2羽以上を入れると、袋の中で食いつき合って血だらけになってしまう。もちろん人の指にもかみつく。野外ではいつも小群にまとまっているし、見たところけんか好きでもなさそうなのだが、種子を拾う他のホオジロ類とは異なり、アシの茎をかみ割って餌をとるので、くちばしの力がとくべつに強いのかもしれない。アシの茎を割ると、白や赤のカイガラムシがおびただしくついているが、これが主食とにらんでいる。

 アシ原の中でものの10分も静かにしていれば、たいていパチパチ、カサカサ、といったひそやかな音がしてきて、だんだんにぎやかになってくると、やがて穂が大きく揺れて、オオジュリンが姿を見せる。絶え間なくアシの中を動き、しばらくひとところでパチパチやってから、次々に飛び立って別のアシ原に向かう。セイタカアワダチソウが優占したしげみの中の小グループを見ていたことがあるが、よく見るとどの鳥も正確にアシの茎だけを選び、アシの百倍も数があるセイタカアワダチソウの茎にはまったく止まらないのに感心した。

 ちらちら見えかくれする姿はせいぜい2、3羽なのに、飛びたった群れは50羽近くもいて驚かされることがある。今シーズンの10日あまりの標識調査で、既に1千羽ものオオジュリンが足環をつけて放された。保護区全体にひっそりと散り、これから更に移動を続けてゆくのだろう。11月から12月に保護区を利用するオオジュリンは、のべ1万羽を軽くこえるとしても不思議ではない。

 観察舎の正面にカモがさっぱり入らないこの秋。枯れアシそっくりの縦じまの姿、チュウリイン、という特徴ある声をしたこの地味な小鳥は、めったなことでは目立たないけれど、個体数では保護区の冬鳥中のトップを占めるのかもしれない。

 小鳥のカウントはほんとうにむずかしい!




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