15 色とりどりの秋
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1993年12月号掲載
15 色とりどりの秋
傷病鳥舎脇のヨウシュヤマゴボウの大株が色づいてきた。もともと赤い茎に加えて葉も赤紫に染まり、ぎっしりとついた実はつやつやと黒紫に光る。どの鳥もこの実を食べるが、あまりおいしくはないらしく、熟したからといって、鳥がわっと集まって食べつくしてしまうわけではない。野鳥病院から放したキジバトやヒヨドリが、よくこの実に来る。足につけた標識リングを見て、ああ、無事にやってるな、とほっとする。
ヨウシュヤマゴボウの実をつぶすと、あざやかな赤紫の汁が出る。小学1年の教科書に「色水つくり」があるそうで、毎年9月から10月になると、1年生やお母さん方が実をもらいに来られた。この株はけっこう大きくて、50房やそこらの実はつくのだが、5年前、近隣の4つほどの小学校から100人以上が実をとりに来た時は、さすがに参った。空き地があちこちにあった時分には、ヨウシュヤマゴボウなど珍しくなかったのに、いつの間にか草ぼうぼうのやぶは観察舎のあたりにしかなくなってしまったようだ。
この時、種は校庭に蒔いてくださいね、としつこくお願いした効果があったのか、その後、色水の実をとりに来る子はあまりいない。禽舎のオナガなどがおねだりして、お客さんから実をもらうので、時々まっ赤なふんが室内に落ちていてぎょっとする。
10月も下旬にかかったというのに、観察舎正面の鈴が浦の水面にはカモやカモメがいっこうに増えず、どうもぱっとしない気分だ。10月21日に塩浜沖の海面を見に行ってみたが、スズガモの大群はまだ見当たらなかった。幕張沖の方にはもう来ているのだろうか。
観察舎から見えない側の保護区の水面には、オナガガモやヒドリガモ、ホシハジロ、ユリカモメなどまあまあの数が入っており、合計すれば2千~3千羽はいるだろう。しかし、観察台から見えるのがアオサギとカルガモだけなどという時はなんともさみしい。チュウヒかオオタカ、それがだめならせめてモズでもいいから止まっていないか、と、望遠鏡で松や桜の梢を一本一本探してしまう。セイタカシギやオオハシシギが目の前の丸浜川に入る日もあるが、望遠レンズに身をかため、「セイタカシギはどこにいますか」と聞かれるような熱心なお客が来られた時には、なぜか目ぼしい鳥がいないことが多い。
高校生のころからバンディング(鳥を捕獲して標識足輪をつける調査)を始め、今ではライセンス取得から十年近くを経て、れっきとした社会人のオジサンになっているバンダーさんたちが、10月に入ってから時々調査をやっている。アリスイやノゴマなど、野外ではなかなかお目にかかれない種類がこの時期にはよく捕獲される。冬の小鳥の初認は、バンディングのほうが目視観察より1週間から10日ほど早いことが多い。おかげで今年は、オオジュリンの初認が10月19日、アオジとジョウビタキは10月20日。
バンダーは、夜明けから日没後までだいたい2時間ごとに網場をまわるが、一巡に1時間弱かかる。この間、ヨタカ、アオバズクなど夜行性の鳥や、ツリスガラやクイナ類のようにアシ原にひそむ種類が見られることもよくある。捕獲と標識だけがバンディングの効用のすべてではない。もう一つ、私がひそかにバンディングの少なからぬご利益と考えているのは、巡回と巡回の間のあき時間。この間にバンダーどうしやまわりの人たちと交わすおしゃべりは、生産的であろうとなかろうと、たいへん楽しいものだ。他の調査ではこの空き時間の効用が少ないような気がする。なんにせよ、まるごとそっくり趣味に費やすことができた一日は、楽しいものに決まっている。
トキワサンザシ、タチバナモドキ、ノブドウ、ヒヨドリジョウゴ、アオツヅラフジ、イシミカワ、ヘクソカズラ。色あざやかな実が日に映え、ススキやオギのふわふわした穂が銀色に輝いている。アキアカネの赤、秋晴れの青空、セイタカアワダチソウの黄。冬鳥はまだ今ひとつの渡来状況だが、色とりどりの秋は今が最盛期。




