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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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14 虫の話ばかり

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1993年11月号掲載


14 虫の話ばかり


ギチギチギチギチキイキイ、キョン、キョン

 モズの高鳴きがひびいてきた。青空を見上げると、ちゃんと赤トンボが飛んでいる。アキアカネか、ナツアカネか。大型で明るいオレンジ色のウスバキトンボも朝方見かけたが、小柄で高いところを飛ぶアカネ類とはずいぶん感じが違うのがようやくわかるようになった。梅雨が明けたかどうか判然としないままに、いかにも秋らしい秋になって、なんとなくとまどう。

 暮れがたになると、やたらめったにアオマツムシが鳴く。いい声とは思うのだが、どの木からもボリュームいっぱいの名演奏がひびきわたっていると、ちょっとうんざりしてしまう。つつましやかなツヅレサセコオロギや、めりはりをきかせたセスジツユムシの方が、聞いていて楽しい。しかし、弱々しく、声も比較的優雅でおとなしやかなカンタンをひとまわり大きくしたような姿かたちなのに、数十メートルの半径に響き渡る朗々たる演奏は、アブラゼミなみのたくましさだ。2センチそこそこの体のどこから、これほどの音量が出るのだろう。こんなに効率のよい楽器は他にはないのではなかろうか。

 私のごひいきのエンマコオロギは、若虫をよく見かけるのにまだあまり聞いていない。羽化が例年より遅いのではないかと思う。そういえばカネタタキも多くはない。それにくらべて、アメリカシロヒトリは珍しいほどの大発生で、桜やニセアカシアには軒なみテントがかかっていた。毛虫が大きくなり、テントが破れて枝に出るようになると、鳥にとられて、あらかたはさなぎになれないと聞いていたが、もう子育ての時期はほぼ終わり、目の色を変えて毛虫をねらう鳥は見られない。裸になった枝の下に大きなふんがいっぱい落ちているところを見ると、毛虫は順調に育っているらしい。来年大々的にふえたらどうしよう。寄生蜂や肉食のアシナガバチたちががんばってくれるとは思うけれど。それにヒヨドリやスズメがさりげなく枝に来る。こういうさりげなさが効くかもしれない。

 「通り道のそばにハチの巣があって、子供がいたずらしたら刺されるんじゃないかと心配で」

 せっかく知らせてくださったのだから、様子を確かめなくてはならない。見に行ってみると、植込みの中にコアシナガバチの巣ができていた。このあたりではフタモンアシナガバチやキアシナガバチなどもう少し大型の種類が多く、コアシナガバチはあまり見かけない。わざわざ巣にいたずらでもしない限り、自分から人を刺すことなどほとんどないおとなしい種類だ。いたずらした子供はちゃんと刺された方がいいのではないかと、思わず言ってしまった。まあ、悪気がなくて植込みにとびこんでしまうこともあると、「コアシナガバチの巣があります。いたずらをしないでください」と札を下げておいた。巣からほんの10センチくらいの枝に札をつけたのに、ハチたちは平気な顔をしている。こんなに礼儀正しいハチの巣が、つけた札のせいでかえって被害を受けないとよいが。

 もう二十年以上も昔のこと。住んでいた中野の家の木戸にこのハチの巣ができた。夏の真昼、日がかんかん照りつけているのに、巣に小さな水滴がついているのに気づいた。水まきもしていないし、むろん雨が降ったわけでもない。ハチが出入りするたびに、水滴が大きくなってゆく。巣のふちに止まってしきりに羽をふるわせているハチもいる。なんとハチたちは水を運び、羽で風を送って、巣を冷房しているのだった!

 ちなみに、野外でもしハチに刺されたら、すぐ手近にある草の葉を三種類ばかり取り、よくもんで汁をつけると、あとで腫れないし、痛みもはやくおさまる。草はどんな種類でもよいが、イネ科のものよりは、水気の多い葉の広いものの方がよさそうだ。ヨモギやドクダミなど特によいかもしれない。ファーブルの昆虫記に出ていた方法で、ほんとうによく効く。虫刺されの薬よりはるかによいので、ぜひ覚えておいてください。





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