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昔の話

 はるか昔。世界は、天空に住まう者…通称、天族てんぞくが暮らしている「天界てんかい」と、地上に足を付け、様々な動物や生物と共存する人族ひとぞくが暮らしている「地界ちかい」と、この世の「影」に住まう者…通称、魔族まぞくが暮らしている「魔界まかい」の3つに分かれていた。

 当時は、お互いに干渉することもなく各々だけで暮らしていたが、時が流れるにつれて環境が変わり、文化も発展し、気付けばそれぞれの世界への行き来が簡単にできるようになってしまっていた。

「このままでは、地球上がごちゃごちゃになってしまう。」

 そう考えた各界の最大有力者達は、それぞれの世界に役割を担うことにした。「天界」は、地球上の環境や生命の秩序を見守り、正す役割。「地界」は、地球上の生物が共存できるよう中和する役割。そして、「魔界」は、罪を犯す者を見定める役割を担った。

 元々、その時の各界の代表となった者達は全員人柄が良く、好戦的ではなかったためすぐに友好関係を結ぶことができ、その繋がりは現在の後継者まで引き継がれていた。

…しかし、今から約十年前。ある大きな事件が起きてしまった。その時の魔界の王、通称「魔王まおう」には2人の息子がいたのだが、そのうちの1人、次男が自身の力に溺れてしまったのだ。元々、次男の力は魔界でもトップレベルでとても強力だった。それ故に、彼は彼よりも強い者と戦うことを望み、唯一の楽しみとしていた。だが、彼は強すぎた。誰も、彼に逆らうことが出来なくなってしまっていた。彼は求めた。自分より強い者を。未だ知らない、とてつもない大きな力を…。

 その頃、天界では「天界」の王、通称「天王てんおう」の娘の1人が「地界」の王、通称「地王ちおう」の一人息子と結婚の儀を終え、しばらくして双子を授かったという話題で盛り上がっていた。その話は次男の耳にもしっかりと届いていた。彼は思った。

「天界の力と、魔界の力。その二つを操り、さらに地界の肉体を持った子を創ることができれば…。」

 そして彼は、天界へと向かった。

 己の欲望のために。


・・・・・・


「…。」

 魔界にある大きな屋敷の敷地内の一角。そこには小さな塔が立っていた。小さい、と言っても屋敷が大きすぎて小さく見えるだけで、塔だけで見てみると割としっかりした造りで6階建てになっており、その階ごとに20m四方の部屋が1つずつ配置されている。

 その塔の最上階にある窓付きの小さな個室。その中に、ベッドの上で横になっている幼い少女の姿と、ベッド脇の小さな木製の椅子に腰を下ろした男性の姿があった。男性は、持っていた本をパタンと閉じた。

「もう、きょうのおはなしはおしまい?」

 少し残念そうに尋ねる少女に、男性は微笑みながら頭を優しく撫でた。

「そうだね。もう夜も遅い。子どもは寝る時間だよ?」

「うう…もっとききたい…。」

「また今度、話してあげるよ。」

「…わかった。たのしみにしてるね!ハレマおにいしゃんのおもいでばなし!」

 少し舌足らずな少女の言葉を聞き、男性は驚きの表情を見せた…が、少女の顔を見て納得したように息を吐いた。

「中を見たのか…。確かに、我ながら歴史の話にしてはちょっとリアルすぎたかなとも思っていたけど…。」

 そう言って男性は手元の本のページをめくる。いくらめくっても白紙のその本をもう一度閉じ、少女の枕元に置いた。表紙には大きく手書きで『そとのせかいのほん』とだけ書かれていた。

 そしてもう一度、少女のほうを見る。少女は「えへへ」、と悪戯な笑みを浮かべる。

「わたしにかくしごとはできないよ!…それに、まえにきいちゃったから…。」

 そういうと、少女は悲しそうな顔をした。

「そのおはなしのおとこのひと…『おとうしゃま』…でしょ?」

「…そうだよ。」

「…ねえ、おしえて。ハレマおにぃ…しゃ…。」

 そこで急に眠気が来たのか、そのまま少女は眠ってしまった。

 男性は困ったように笑い、少女に布団をかけてあげる。

「眠るのは本当に早いね、まったく…誰に似たんだか。」

 そう言って優しく微笑む。その笑顔は、どこか寂しさを帯びていた。

「君がもう少し大人になったら、全てを話してあげよう。おやすみ…心愛(ここあ)。」

 そして、少女の頭を優しくなでた後、窓際のほうへ歩き、夜空を眺めながらぽつりと呟く。

「…だから、それまでは…どうか死なないでくれ…。」


 しばらくして扉が開いた。見回り用に軽くされた鎧を身に纏った兵士が少女を起こさないように、ゆっくりと中に入る。

「…あれ、男性の声が聞こえた気がしたんだが…気のせいか?」

 兵が部屋を見渡すと、窓際に一羽のフクロウが羽を休めているだけで、人の姿はなかった。

「ホー…。」

「なんだ、フクロウか。侵入者かと思ったよ…。危うく『王』に殺されるところだった…。」

 ほっ、とため息をつき、兵は少女が眠っていることを確認した後、静かに部屋から出て行った。


 夜空には、大きな満月がのぼっていた。

その月を、窓際からフクロウが赤く光る両目でじっと見つめていた。

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