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第2話 自称女神のコスプレ少女

「見つかちゃった‼︎」


唐突に現れたその知らない女の子には白くて綺麗な翼が生えており、かすかに当たる太陽の日差しがなんとも言えない神々しさを醸し出していた。


「…あ、えっとあの、すいません‼︎」

急いで自分の手を引っ込め、しっかり90度に頭を下げた。

だが、手に残る柔らかな感触がすぐに消えるわけもなく、二、三回手を閉じたり開いたりしてそれなりに味わい、やっとの事でどうにか心を落ち着かせた。


「で、どなたですか?」

一番最初に浮かんでいた疑問をやっと聞くことができた。

一年間学校に通っていたが一度も見かけたことがなく、何よりはたから見たらどう頑張ってもコスプレ少女にしか見えない。


「我が名はゆるりん‼︎お主の担当女神にして、『遊びの神』‼︎」


「…」


は〜。一年ぶりの異性との会話が、まさかこんな頭のおかしいやつとだなんて相変わらずついてないな。

なんだよゆるりんって、お前の頭のネジがゆるりんだよ。


「ほう。神に向かって頭がおかしいとは随分な言い草じゃのー。挙げ句の果てに我が名を馬鹿にするとは。流石の女神もキレてしまいそうじゃ」


ん?俺今、声出してたか?


「お主の担当女神なのじゃからの。それくらい分かるに決まっとるじゃろ」


「えっマジ⁉︎」


……おっぱい。


「分かっていても言えないことぐらいあるわ!」


「ちぇっ」

期待に応えてもらえず、なんとなく舌打ちしてみた。


けど、本当に心が読めているとは。

まさか本当に…


「さっきからそう言っておるじゃろ」


また心を読まれた。なんだか、色々恥ずかしくなってきたぞぉ。


彼女はフワリと浮き上がり、黒板の前に置かれた机の上に足を組んで座った。

どうやら翼を動かさなくても飛ぶことは可能らしい。

まるで手品を見ているようだ。


「ふぅ〜」

一旦落ち着け、俺。


「お前が俺の女神なのは理解した。とりあえずだが。それで、その女神さまが俺に何の用だ」


「お主が呼んだんじゃろ?神がどうのこうのって」


女神を名乗る人の形をした生き物は、とても眠そうにあくびをしながら丁寧に自分の大きな翼を撫でるように手入れしていた。

人の形をして実際に触れたというのに、そこはかとなく漂うオーラのようなものが妙に自分を納得させ始めていた。


「あーうん。確かに言ってたなー」


「だから、一瞬だけ実体化してやろうと思ったら、まさかいきなり胸を揉まれるとは」


その節は本当にすまなかった。

すぐに手を離さなかったことについてはそれなりに反省している。


「けど、俺の考えが読めるなら避けられたんじゃないか?」


「お主、なんにも考えずに黒板を叩こうとしたじゃろ。避けようにも来ると分からなければ、避けようがない」


まぁ確かに。


「で、何をしてくれるんだ?俺の運でも上げてくれるのか?」


「それは無理じゃ」


「なにゆえ」


「だって、お主がついてないのは妾のせいじゃからの」


「ん⁇」


予想だにもしない返事が返ってきた。

俺がついてないのには理由があったのか⁈


「さっき言ったじゃろ?妾は『遊びの神』じゃと」


「遊びって…ゲームとか?…も、もしかしてお前‼︎」

悪い予感が頭をよぎる。


「その通りじゃ、遊びのコマはお主じゃ雪斗ゆきとよ」


俺が口にする前に考えを読まれた。

会話のテンポが加速していく。


「じゃ、じゃあ定期的に俺の頭にヒットする空き缶や、入学式早々に冬宮ふゆみや 氷菓ひょうかのスカートの件もお前が仕組んだってことか⁉︎」


「まぁ、そうじゃの。ついでに言えば、その時周りに冬宮ふゆみや親衛隊を配置したのも妾じゃ」

なぜだか、彼女は誇らしげに胸を張ってこちらを見て来る。


あぁぁぁぁ‼︎頭がおかしくなって来る‼︎今すぐ目の前のこいつをぶっ飛ばしてやりたい。

その前に突き出した二つの膨らみを一思いに引っ叩いてやりたい。


だが落ち着け、冷静になれ。

わざわざ実体化しようとしたってことは、俺に何かしてくれようとしてたってことだ。

流石に実体化してまで嫌がらせをしようとはしないだろう。

しないと願う。


「そうじゃ、そのとうりじゃユキトよ。今回はお主にチャンスを与えに来たのじゃ。そういう頭が回るところは嫌いじゃ無いぞ」

当たり前のように俺の思考を読んでくる。


ふぅ、良かった。とりあえず嫌がらせでは無いらしい。


「聞かせてもらおう」


「なんで女神である妾に対して、そんなに偉そうなのじゃお主。コッホン…まぁいいじゃろう。お主へ与えるミッションは……ジャカジャカジャカ〜」


ドキドキ ドキドキ

なんだこの無駄な高揚感。


「ミッションは、『一年以内に彼女を作れ‼︎』じゃ」

満面の笑顔での鬼畜な発言。

白いチョークを使って豪快にミッションを書き示した。


はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁇


「散々邪魔しといて、彼女を作れだと?今更無理に決まってんだろ‼︎」


「じゃが、もしも出来たらその後一年間嫌がらせはしないと誓おう。ついでに、一つなんでも願いを叶えてやろう。それこそ、もう一度高校一年生からやり直すことだって可能じゃ」


な、な、な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎

邪魔されずに高一からやり直したら、彼女なんて選り取り見取りで作り放題じゃないか!


な、なんでもって言いましたよね。

ね!なんでもって。


「ふっ、俺に不可能は無い‼︎受けてやろうその試練!」

切り替えが早いのが俺の良いところ!


「それは、良かった。妾も一層頑張らなくてはな」


え?


「邪魔してくんの?それも、より一層って」


無理だぁぁぁぁぁぁ‼︎

もう諦めよう…


「諦めるの早すぎるじゃろ。相変わらず見てて飽きないやつじゃ」


「ハードモードすぎるだろー無理だよー」

床に転がってジタバタと駄々をこねてみた。


「しょうがないの〜。なら、お主に一つ力をくれてやろう」


「力?」


「その名も『不正カンニング』じゃ‼︎」


「なるほど…全く分からん」

突然そんなことを言われても何がなんだか全く分からん。


「分かりやすく」


「ものは試しじゃ。早速あいつにやってみるのじゃ」

窓の外から見える校門の陰に、いかにも怪しい男が部活中のグラウンドを見つめていた。


俺は窓の近くまで寄っていくと、後ろからフワフワと女神がついてくる。


「まず、あやつを見ながら」


「見ながら?」

その男をじっと睨みつける。


「叫ぶのじゃ‼︎」


「「不正カンニング‼︎」」

二人で息ぴったりに名前を叫んだ。


すると…


『フゥー!フゥー‼︎健康的な女子高校生の汗ばむ姿…たまんねぇぇぇ‼︎』


突然頭の中で気持ち悪い声が鳴り響いた。


うぇっ!気分が悪く…


気持ち悪い奴を見ながら、気持ち悪い声で、気持ち悪い発言を聞くというのは思ったほかキツイものだった。

到底耐えられるものじゃ無い。


「って、あいつ変態じゃねぇーか‼︎」


とりあえず、急いで110番に電話しておいた。


「これで世界は一つ平和に近付いた」


「どうじゃ?すごい力じゃろ。相手の心の声を一度だけ聞くことが出来るのじゃ」

やたらと自慢げに力の説明をした。


「けど、別にあいつにしなくても良かったんじゃねーの?他にも人ならたくさんいるし」


「そしたら、その子の声が聞けなくなってしまうじゃろ。二度と会わないであろう人間を選んでやったのじゃ」


「おぉー」


なんだこいつ、ちょいちょいしっかりしてやがる。


またも俺の考えを読んだのか、不機嫌そうにプクゥーと顔を膨らます。


「でも、この力があればフラれる前に相手の気持ちが分かるな。まぁ明日からボチボチ頑張るか、俺のこの異能の力で‼︎」




ーーーお腹が減りいつの間にか二時になっていたので、急いで帰ろうと校門に向かう際ちょうど先ほど呼んだ警察が来て男を連れていった。



「ただいまー」

家中に自分の声が響き渡る。

両親が旅行に行っている今、家には誰もいないと分かっているがいつもの癖でつい言ってしまった。


とりあえずお腹を満たすために、冷凍庫から冷凍チャーハンの袋を取り出した。


電子レンジのタイマーを4分に設定してスタートを押す。

機械的な音が部屋中に鳴り響いている間に、スプーンやコップの準備をして出来上がるのを待つ。


ーーチーン!


なんとも言えないチープな音が電子レンジから発されると、同時に絶妙に腹を刺激するおいしそうな匂いが部屋に立ち込め始める。


時計の短針は既に3時を過ぎていたが、そんなことは気にせず目の前のご飯に食らいついた。

口に入れるとパラパラでもなくベチョベチョでも無い冷凍食品特有の食感を味わい、いつもと変わらぬ味にそれとなく安堵した。



「時にユキトよ、お主神の存在を理解しておきながらお供えの一つもよこさぬとはどういう了見じゃ」

当たり前のようにテーブルの対面に座り彼女のアイデンティティーである翼を器用に閉じて、食事中の俺にお供えを要求してきた。


まだいたのかよ。


「なんじゃその言い草は、これでも妾はお主の神じゃぞ!」


慣れないんだよな〜、心を読まれて会話すんの。

何にも言ってないのに、返事が返って来るのってなんか違和感がある。


「ずっと実体化してるつもりなの?」


「そうじゃの〜、お主が女子を口説こうとしている時だけ上に戻ってこっそり邪魔でもしようかの」

ここで言う『上』とはおそらく神々の世界のことだろう。

知らんけど。


「この家には俺以外にも家族がいるんですが、背中から羽が生えているお前のことをどう説明すんだよ」


俺の家族は父親と母親、それから中学三年の妹がいる。

今は両親が旅行に出かけているので、実質妹と二人である。



「それについては大丈夫じゃ。妾はお主以外からは基本認識できぬし、何よりお前の両親は今頃不慮の事故でーーー」


持っていたスプーンがカシャンと音を立ててテーブルに落ちた。


ん?こいつ今なんて言った?

俺の両親が不慮の事故でなんとかって…

何か続きを言ってるようだが頭に入ってこない。


神が発した言葉だからこそ、余計に不安になって来る。

何よりこいつは俺への嫌がらせを楽しむ救いようの無いエセ女神だ。

だが、すぐに問いただすのは気持ち的に勇気がいる。

そんな…


ーージリリリリリリリッ‼︎


焦る気持ちの中、一本の電話がかかってきた。

急いで受話器を取り上げる。


「はい神在月かざつきです」


心臓がすごい速さで動いているのがわかる。

心臓の鼓動が電話越しに伝わってしまいそうなくらい。


今すぐにでも吐いてしまいそうだ。


「あ‼︎ユキトー?あのね、お母さんなんだけどー。ちょっと事故で崖から車で落ちちゃってー…」

受話器から、とても早口で喋る母の声が聞こえてきた。


崖から落ちた⁈

まずい…息が出来なくなって……


「それでね、落ちた時に偶然にも温泉を掘り当てちゃってー」


ん⁇温泉?事故は?事故はどうした?

相変わらず早口で喋っていくのでもはや文脈すら読み取れない。


「だから、しばらく帰れないかも〜」


「事故は⁈怪我はしてないの⁈」


「怪我?あー、軽く骨をやっちゃったけどそんなに重傷ってわけじゃ無いよ。いやー、エアバックってすごいねー‼︎ボンってなってもうすごかったよー」


軽く骨をって…それは十分重傷じゃないのか?


母の元気な声を聞いて、途端にさっきまでこわばっていた体に力が入らなくなって、床に座り込んだ。


よかった…


「あ、ちょっと今急いでるから電話切るねー。生活費は送っとくから二人でなんとかして。もう、なんとかできるよね。じゃあ、バイバーイ」


ーープチッ


「フゥ〜、焦ったー」


「幾ら何でも妾が人を殺めるわけないじゃろ」


「いや、お前ならやりかねない」

受話器を元に戻して、ソファーにねっころがった。


「じゃが、これで妾はこの家にいれるようになったの。よろしく頼むぞユキトよ」


「はぁー、マジかよー」

さっきまでの分も合わせて大きなため息が出た。


「神はいつもあなたのそばに」


……


「いや、なんか違くねーかー‼︎」



ーーそんなこんなで、うちに女神が住むことになってしまった。

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