壊したくなるからもう愛さない
もう付き合ってられないと呆れられ、リリがこの部屋を出て行ってからふたつめの夜だ。元々が正反対の気質なもので、ケンカなんて日常茶飯事だったが、まあそれでも構わないと思っていた。
共に暮らし時間を共有するような関係ではない。会いたい時に顔を出す。好きな時に出て行く。
只でさえ衝突の多かった二人だ。共有する時間が増えれば増えるほど、厄介ごとも増えると、互いに気づいていたのだと思う。
そんな状況に陥った男女が、それを恋と呼ぶだなんて愚の骨頂だ。そんなものは恋でなく、無論愛でもない。只、目先の欲求に正直な振りをし、必死に弱さを隠しているだけだ。
心を持ち出されればいつ傷つけられるか分からず不安になる。だから心を隠し、まるで遊びの体で接する。とっくに心なんて持ち出されているのに。
どちらかがいなくなれば生きていけないなんて、余りにも情けなく口に出来ない。それでも、そんな状態には陥っている。必死に、認めないまでも。
だって今更、どんな顔をして愛を囁けばいい。
リュウもリリも、安い愛に踊らされ、素直さは薄れてしまった。自業自得だといえばそれまでだ。これまで通り全てを切り捨てて生きていくのも捨てがたいが、そうしていればこの有様なのだから望む方法ではない。
きっと、この二つの夜をあの女は別の場所で過ごしている。暗黙の了解にて不可侵となった、彼女曰くの恋人と共に―――――
「クソッ!!」
どうにもならない苛立ちを抱えていたのは、愛しているからだ。愛しているから自分の思い通りに彼女を操りたくて、そんな独占欲を知られたくなく、あえて突き放した。
自分なんて生き物は、腐った独占欲の塊だ。リリの全てを把握して、そうして自分の好きなように、自分の気持ちのいいように愛したいだけだ。
それでも無駄な美意識がそれをよしとしない。自己愛までも強いのだから、打つ手がない。
リリは戻らず、又、白けた空が朝を迎える。