欠片でも残れるのなら
昨晩までは温く濁っていたこのベッドも、すっかりと冷え切っている。この現象を『後悔』と名づけたのはいつ頃の事だったか。幾度も訪れる『後悔』に死ぬほどうんざりしている。何だか全てにやる気が起きなくなり、もう何もしたくない。考えたくない。自己嫌悪がこの部屋の中に渦巻いているのだ。
多少の必死さが見え隠れし始めた辺りから、リリはその場を取り繕い始め、その都度、不必要な彼女の嘘をリュウが見つける。暴いても何も得ず、何も失わない。熱だけが僅かに冷え、それに気づかないよう貪りあう。
「…忘れやがって」
床に落ちていたスタッズは彼女のものだろう。
そういえば持ち合わせていたバックが、大小のスタッズに彩られていた気がする。あんなものはリリの趣味ではない。あいつの趣味だ。
そういえばここ最近、リリの色が心なしか変わったような気がする。
口先でどう言おうとも、心の中までは分からない。そもそもが別れちゃいないのだから、そういう事なのだ。あいつはきっと、野郎を愛してやがる。
先走り愛を捨て、恋(のようなものだ、あんなものの正体は、誰にも掴めやしない)に飛びついたリュウは、結局自身の熱で暖めるしかなくなったベッドに寝転ぶ。大した言葉を綴れないが、リリの心にこちらの声は届いているのだろうか。この部屋以外でこちらの事を思い出す場所があるのか。
そうしてあの女は何食わぬ顔を引っさげ、相変わらずの日常にて顔を合わせる。互いに口を利く事はなく、視線ばかりを交わす。
これまでも、これからも。ずっと。
あの女をものにするには、どうやら遅すぎたらしい。やり方さえ間違った。だから、今出来る最善の策は何も考えず、只この場をやり過ごす事だ。そうしてリリの胸に僅かな傷でもつけば幸い、欠片でも残れるのなら。