沈むより美しく
薄暗く湿った部屋が似合いなんだと分かっている。俺達みたいな奴らには、こんな日の当たらない部屋が似合いだ。リュウがそう言えば、話を聞いているのかいないのかさえ明確でないリリは、視線だけを寄越した。
そもそもが、この女も何を考えてこの部屋にいるのかが分からない。呼べば顔を出す、その割に気はここにないのだから、やはり何を考えているのかは分からないままだ。愛しているとか、欲しいとかではなく、恐らく似ているのだ。だから離れられないまでも、腕を伸ばす事はない。
互いの生き方を限りなく尊重をし、そんなものではない欲求の部分のみを消化する。
言葉少なく、身を、交わす?
「…あんた、寒いの?」
「何?」
「震えてるけど」
確かにこの部屋は冷えている。小さな暖炉はすっかり死んでいるし、窓は白く濁る。酔いもすっかり醒めたし、薄手の毛布だけでは流石に寒い。だから、さっさとこっちに来いと先ほどから言っているのに。人のいう事を一切聞かないのも似ている点だ。知っている。知ってはいるが、さっさと来いよ。
「あのさぁ」
「寒ぃんだよ、さっさと」
「あたし、リクと付き合い始めたんだけど」
「…」
「別に言う必要はないって思ったんだけど、一応ね」
「いいから」
さっさと来い。
出会った頃は純粋だったはずのこの女も、この部屋に冒され汚れた。そもそもが人の女に手を出した時点で間違いは成立していたし、リリが誰と付き合おうが興味もないが、まんまと汚れたこの女には非常にそそられる。
何かを告げようとしながらも告げきれず、そのままベッドに潜り込んだリリを抱き寄せた。僅かだが、彼女の心拍数が上昇している。興味がない、そんなものはどうでもいい。
もっと、もっと薄暗い部分を増幅させ、この部屋から抜け出せなくなればいい。だからそれまでは何もせず、じっとこの部屋でリリを待つ。
冷えた身体を寄せ合えば、鼓動が重なる。リュウの指が逃げ場を失くすようにリリの背を這った。