第6話 心の穴と暗躍する影
気まずい内容なので、僕ことミルフェは登場を今回は見送らせてもらうであります。
第6話 心の穴と暗躍する影
僕------ラウル=リチャットは困惑していた。
卒業式の帰り、車の中でシンリィさんが今まで見たことがない表情で僕に伝えたこと、それは、
祖父------ヴェラフィム=リチャットが何者かに殺されたということだ。
それで僕はどうしたらいいのだろう?
祖父亡き今、僕は誰に縋って生きていけばいいんだろう。
ようやく、ラウルは祖父の死を実感してのか震えだす。
どうしようもなく、混乱している僕の姿を心配そうに見つめるシンリィが口を開いた。
「ラウルくん、これから私はアトネス城へ向かうけど一緒に来る?」
シンリィさんの問いかけに僕は顔を上げ、ただただ頷くことしかできなかった。
シンリィさんが車を出す。
城に着くまでの間、ラウルは震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。
完全に心が折れてしまっていた。
城へ到着し、シンリィさんによろめく体を支えられながら客間へと入る。
客間のなかで、シンリィさんに付き添われながら祖父について説明してくれる人を待つ。
すると、僕が入って来たほうの扉が開けられた。
入って来たのは、僕の両親と弟である。
流石に困惑した表情をしているが、僕のほうを一度見ると踵を返し、僕と離れた場所に座った。
それから、客間には時計が時を刻む音だけが流れた。すでに14時を回っていた。
(なんで誰も来ないんだよ。
どうして親族に1番早く報告しに来ない
んだよ。)
もはや、ラウルの胸中は絶望感よりも、城の人間に対する怒りで満たされていた。
14時15分、遂に沈黙が破られた。
客間へ入って来たのは、大柄な男だった。
鎧を着ているが、その上からでも、太い腕と筋肉が分かるほどだった。
この男のこともラウルは知っている。
近衛騎士団副団長アンク=ボレロ。
祖父とはとても仲が良くウチの屋敷によく来ては朝まで酒を飲んでいった。
ラウルはいつも彼の泥酔した顔しか見たことがなかったが、彼の一風変わった表情から、ようやく祖父についてわかると思うと胸から込み上げて来る何かがあった。
アンクは、シンリィがいることに気づくと手招きをした。
シンリィは何かを察したようにアンクのもとへ近寄る。
何か小声で話しているようだったが、僕の耳には届かなかった。
そして、アンクはシンリィに何かを手渡し客間を出ていった。
シンリィはそれを上着のポケットへと入れる。
どうやら、シンリィが祖父について説明してくれるようだ。
シンリィは僕たちの前に立つと、覚悟を決めたような顔をして話し始めた。
「本日、アトネス城国王から、会談への参加を命じられたヴェラフィム=リチャットは、これに応じ会談場所であるマットラス大聖堂へと城用車で移動。
会談は大聖堂の第二会議室で午前8時に全員参加を確認した上で始められ、午前11時に終了予定だつたそうです。
会談は長引いても30分程度だと伝えられていた聖堂のシスターは正午ジャストを過ぎても、会議終了を伝えに誰も来ないので第二会議室に向かいました。
すると、おかしなことに扉に鍵がかかっていたのでマスターキーで解錠し室内に入ったところ、無残な姿になっていた参加者全員を発見したそうです。
追加ですが、会議室内にはトイレ等が設置されており会談室を出る必要はなく、また、情報漏洩防止のために会議室内からでしか鍵はかけられません。
聖堂内には監視カメラも含めあらゆるセンサーが働いていて前回の会談つまり、3月上旬以来第二会議室内に近づく人はいなかったようです。
さらに追加ですが、会議室内には熱源センサーが取り付けられており確認したところ参加者全員が死亡時刻が同じであったとのこと、そして参加者の体の内部から何かの熱源が膨らむように発生し参加者を死に至らせたようです。
実際、死体を見たウチの研究員も内部から何かが膨れ上がったように見えると推測しました。
尚、この熱源については現段階のこの国の技術では解明できないことが判明しました。
自殺ではない以上、これは他殺であることが確定していますが、参加者の誰か1人が自分以外を何らかの手で殺害したのち自分も同じ手で自殺という線も考えられます。
また、他の線も十分に可能性があります。
私達研究員は引き続き捜査を続行し、何かわかり次第随時お伝えしていくこととなりました。以上です。」
シルフィは長い髪を揺らしながら一礼して客間を出ていった。
再び始まる、沈黙の時間。
すると、ラウルの両親と弟は結局ラウルに一声もかけずに客間から出ていった。
祖父が亡くなったにも関わらず、泣くことさえしない両親達に憤りを覚えながら、客間に1人になった僕は静かに泣き出していた。
目に涙が浮かぶ。まるでその涙に祖父との思い出が浮かび上がったかと思うと、頰を流れていった。
そして、下を向くと涙の流れは勢いを増し、ボロボロのズボンを濡らしていく。
祖父は本当にこの世からいなくなってしまったのだ。
あの笑顔ももう見ることは出来ないのだろう。
手でいくら拭っても、涙が枯れることはなかった。しまいには、椅子の上で体育座りをして膝に顔を埋めた。
これから、自分はどうしていけばいいのだろう。
あの家で。
あの家族の中で。
どうやってこの悲しみに立ち向かえばいいんだよ、
ヴェラ爺。
だが、その問いかけに答えてくれる者はいない。
唯一の理解者を失った少年は、心の中で自分に疑問を投げかけなから、その場所が客間であることも忘れ、次第に眠ってしまうのだった。
一方その頃、客間の外では、シンリィは腕を組みながらと例の黒装束の3人組が対峙していた。
黒装束のなかで1番背の高い、声からして男である者がシンリィへ質問する。
「シンリィさん、私達は今後どうすればいいんでしょう。
ヴェラフィム様亡き今、ぼっちゃまは…。」
「大丈夫、安心しなさい。ラウルのことは私に任せて。
でも、私がいない時の護衛は続けなさい。
それで、ヴェラフィムから頼まれていた例の件はどうなったか教えてちょうだい。
おそらく、ヴェラフィムの死に関係しているはずだわ。」
どうやら、シンリィもまた黒装束の3人組とは何かしらの接点があるようだ。
だが、その関係は未だ明かされていない。
黒装束の、男に次いで2番目に背の高い、声からして女であるものが返答した。
「では、ご報告します。
今日午前7時58分23にターゲットがマットラス大聖堂に入っていくのを確認。
そのまま道にも迷わず第二会議室に入っていったのでおそらく…。」
「そうね、ヴェラフィムの出席した会談で間違いないでしょう。それで?」
引き続き、黒装束の女が話を続ける。
「はい。その後第二会議室を監視していましたが午前11時03分58に例の反応を確認。
ターゲット以外全ての生命反応が消失。その中におそらくヴェラフィム様を含まれているでしょう…。
そして、午前11時06分74に前回同様の反応を確認。
ターゲットの生命反応も消失。
シンリィさんの読み通りで間違いないと思います。」
シンリィはハァーと息をつき、壁にもたれかかる。
「そう。やっぱりムコウの連中の仕業でしょうね。
あのバカ剣士。
こっちに来てから平和ボケしすぎなのよ。
こんなことでくたばっちゃって、ラウルには自分しかいないって事ぐらい分かってたはずなのに。」
と、片手で顔を覆し上を見上げる。
そして、
「決めたわ。
やっぱり、あんた達はラウルの護衛から外れなさい。
大丈夫、ラウルのことは任せなさい。
それで、頼みたいことがあるわ。
まずは…。」
と言って子供の体格の黒装束を指差す。
「なんですか?」
「私の推測だけど、ターゲットの男には、ムコウの連中に体を乗っ取られたんじゃなくてコピーされただけだと思うわ。
連中はコピー能力を得意とするから。
だから、ターゲットの元の男はまだこの都市のどこかに監禁されているはず。
それを探して調査室に連れてきて。
城の使いだと言えば、抵抗せずに応じるはずだわ。」
「わかりました。」
と言って、黒装束の子供は姿を消す。
「残りの2人は、調査室でその男に、ここ1年間に始めて出会いかなり親密になった人物の名前をあげさせて。
少し強引な手を使っても構わない。
そしたら今回の事件について説明しておきなさい。
男は今日は城内の救護室に泊まらせておいて。
話した人物の名前はリストにして持ってきて。
わかった?明日までによろしく。
じゃあ、よろしくね。」
黒装束の男女は、口をそろえて
「御意。」
と言うと姿を消した。
やっと一息つきたいシンリィであったが、まだやることがある。
ラウルのことである。
先ほどアンクに手渡されたものを、ポケットの奥に手を伸ばして優しく触れる。
感慨深くなり少し涙ぐむ彼女だが、すぐに泣き止みラウルのいる客間へと足を向けるのだった。
次回は、ついに「立ち上がる少年」を投稿したいと思います。
更新速度が速いすぎるということなので、しばらく書き溜めます。
毎度のことですが、脱字誤字報告よろしくお願いします!